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死んだらあなたと手を繋いで

作者: なみちか
掲載日:2020/06/03

 救急車とパトカーと人垣の真ん中にあるのは私の体と、私を押し潰している大きな看板。

 近くに倒れていた男性は、たった今救急車に乗せられる所だった。


 その騒ぎを、私は上空からぼんやりと眺めている。

 衝撃を感じてすぐ、痛いと思う間もなく私は死んだらしい。

 

 あの男性は助けたつもりだったけど、救急車に乗せられたところを見ると無事ではなかったのだろう。


 私は男性の今後が気になり、ついていくことにした。


 身寄りのない私の体がどうなるのかはわからないが、もはや私にはどうすることもできないのだ。

 あの場に留まる意味はなかった。



 病院に運び込まれた男性は、現在病室で眠っている。目立った外傷は無いように思うのだが...。


 暫く観察していると彼が目を覚ました。


 見回りに来ていた看護師が、彼に気づく。


「目が覚めました?気分はどうですか?今、先生を呼びますね。」


 ぼんやりしていた彼は急に目を見開いた。


「か、彼女は!?僕を助けてくれた人はどうなりましたか!?」


「残念ですが、あの方は即死だったそうです。」


 彼は顔を歪めて呟いた。


「...そんな。」


 その後、医者の診察を受ける彼をこっそり観察した。彼が倒れたのは病気のせいらしい。


 こんな自分を助けて、他の人が死んでしまうなんて...と、彼は泣いていた。


 彼を助けたのは私の勝手なのだから、気に病む必要はないのに。


 私は彼のベッドに腰掛け話しかける。


『せっかく助けたんだから、そんなに泣かないでほしいわ。』


 彼は泣いていた顔あげ、こちらを見た。ような気がする。


「あなたは...」


 誰かいるのかと振り返るが、部屋には彼と私だけ。

 彼は驚いたような顔をしてこちらに手をのばしてきた。

 その手は私をすり抜ける。


『驚いた。まるで見えてるみたいね。どうしたのかしら。』


「見えてます。」


 私の問いに彼は答えた。


「あなたは、僕を助けてくれた方なのですか?」


 まさか、見えてるなんて。けれど、これはチャンスだ。彼に気に病む必要はないと伝えられるではないか。


『そうよ。私が勝手にあなたを助けたの。だからあなたが気に病む必要なんてないのよ、元気出しなさい!』


「助けてくださって、ありがとうございます。ですが、僕は申し訳ないのです。御覧のとおり、僕は病でもう長くない。あの場で死ぬのはあなたではなく、僕であるべきだったんだ。我儘を言って外出などするべきじゃなかった。」


 そう言って、彼はまたポロポロ泣き出した。


『そんな事言われたら、私にしつれいじゃない。無駄死だと思わせないで。』


「すみません...。でも、僕はあなたに何も返せない...。」


『なら、あなた私の話し相手になってよ。』


「え?」


『私の事見える人なんて、他にいないもの。だから、あなたが死ぬまでここにいるわ。』


 彼は私を凝視する。


『そして、あなたが死んだら私と手を繋いでくれる?』


 私は天涯孤独で恋人もなく、毎日寂しかった事を話した。

 家と会社の往復で、何の為に生きてきたのかもよくわからなかったのだ。

 そのせいか、死んでも特に悲しいと思えなかった。

 どこか現実味がなく、夢をみているような気分だったのだ。


「あなたが側で待っていてくれるのなら、僕も嬉しい。」


 彼はそう言って初めて笑顔を見せてくれた。


 それから、彼の闘病を見守る日々が続いた。

 彼は寝込む事も多く、本当に長くはないようだった。

 それでも、医師や看護師に「最近、顔色が良くて楽しそうですね。」と言われるようになっていた。


「楽しみができたんです。僕、手を繋ぎたい人が出来たんですよ。」


「あら、それって恋バナですか!お相手は私も知ってる人かしら?」


「ふふ、秘密ですよ。」


 彼はそう言って、私の方を見た。

 彼と過ごす日々は心穏やかで、私は生前より幸せを感じていた。


 季節が変わり、彼の寝込む日は更に増えた。

 苦しそうな彼を見ると、悲しくなった。私は彼を見守ることしかできないのだ。

 彼の急変にナースコールを押すこともできない。そんな時ばかりは死んだことを恨めしく思った。


 そうしてついに、その日はやってきた。


「........分、ご臨終です。」


『どうして泣いてるの?』


 彼は私に尋ねた。


『あなたが死んでしまったからよ。』


『嬉しいの?悲しいの?』


『どっちかしらね?』


『すごく体が軽いんだ。僕は嬉しいよ。ようやくあなたと同じ場所に来れた。』


 そう言って彼は手を差し出す。


『随分待たせてしまったけど、ようやく約束を果たせるね。』


 私もそっと、手を差し出す。


 彼は私の手を取り微笑んだ。


『逝こう。』


 彼の手は暖かい気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  現実で結ばれなくても、あの世で一緒になれるといいなと思える異性こそ、本当に好きといえるのかもしれません。
2020/06/03 12:47 退会済み
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