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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第5章 ギャルゲーみたいになったんだが
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第96話 やはりただ住む場所を提供するってわけじゃないらしい

 「愛依は凪斗の家に住め」唐突な所長の命令形な言葉は俺に痛烈な衝撃を与えた。

 いやまあ、そうだろう。そもそも俺の家にどういう権利があって「住め」なんて命令形で言っているのか。

 たとえ厳密には俺の家じゃなくて、亡くなった両親の家とわかっていても、その言い方はなんなのか。


 氷月さんに住む家がない事はわかった。そして、家が見つかるまで部屋を貸すこともやぶさかではない。

 しかし、しかしだ。そもそも女の子を野郎の家に住ませるか?

 どんなに俺がチキンのヘタレ野郎だとして......なんか自分で言ってて悲しくなってきた。けど、そう思ってでもそれはないだろう。


 先に考えることは所長の部屋だ。もしくは、結衣または来架ちゃん。こんなにも若い同性がいてなぜ俺なのか。


「なんでですか!?」


 ドンッと書斎机を叩き、前のめりになりながら氷月さんは異議申し立てをした。

 まあ、当然の反応だ。俺だって急に異性が泊まりに来るって言ったら困るもの。もう家のどこもそこも完全なるプライベート空間なのに。


 すると、所長はまるでその言葉が返ってくることがわかっていたようにサラッと言葉を返す。


「言いたいことはわかってる。確かに住む家がまだ見つかっていなとはいえ、なぜ凪斗......男の家に住まなければいけないということだろ?」


「はい、そうです! この男の家に住めなんて、まるでライオンの入った檻に放り込まれるようなもんじゃないですか!」


 そ、そこまで言うことないんじゃね? さすがに少しイラッとしたぞ。

 確かに思春期真っ盛りな時期とはいえ、どいつもこいつも性欲魔人みたいな見方は止めろ。少なくとも俺は“健全”な男だ......いや、この場合健全だとダメなのか?


 その氷月さんの言葉に所長は軽くため息をついて告げた。


「確かに、凪斗は脚フェチの変態だ」


「ちょっと、なんてこと言うんですか」


「とはいえ、何も全く理由がなくて、ただの嫌がらせでやっているわけではない。実はお前ら二人に時期を見てある任務に就いてもらおうと思う」


「任務ですか?」


「ああ、お前らも良く知っている東京ネズミーランドの近辺で卑劣な障害事件が起きている。今のところ死者は出ていないが、それも運がいいだけかもしくは犯人があえて殺していないだけか。どちらにせよ、死者が出るのも時間の問題とされている」


「それって最初の事件の発生はいつなんですか?」


 氷月さんが姿勢を元に戻すとそう聞いた。その質問に対して、所長は机のタブレット端末を弄りながら答える。


「そうだな......最初の事件発生は8月27日の午後4時頃。シーの近くで遊園地の帰りに東京湾近辺を若いカップルが歩いていたところを襲撃。刺傷個所も見当たりながらも、全て急所は外れているそうだ。最初こそ警察の管轄だったが、あまりにも数が増えて来て手に負えなくなってこっちに回ってきた感じだ」


「全て? ということは、相手は相当人体に詳しい......戦い慣れているとも言えますね」


 となると、人を食うことを目的としているファンタズマを除けば、その相手は違法ホルダーってことか。


「ああ、しかもこれまでの敵が全てそうだ。それに全て若いカップルだけ」


「まるで煽ってるようにしか見えませんね。もしかして誘い出すための罠? それにしても、どうしてカップルばかりを襲ってるんですか?」


 氷月さんが根本的な質問に立ち戻る。

 まあ、言われてみればそうだ。その襲撃が挑発的な意味合いを持っているのなら、生かしておく必要はないし、カップルに限定する必要も無い。


 それに対しては、所長は個人的見解を述べ始めた。


「さあな、犯人側の思考がわからないから正解は言えない。犯人側に何か意味があってそのような行動をしているかもしれないし、単に人がよく集まる場所って意味でそこを狙っているかもしれない。案外、リア充っていう平和ボケしたやつらに逆恨みの制裁でも加えてるんじゃないか?」


「そんなこと言ったらそこら辺で血みどろの襲撃現場見ることになりますけど......」


「他に何かありませんか?」


「他には......あ、奇妙なことと言えば、襲撃される際必ず女性側の方から狙うらしい。そして、男性を狙う。これは襲撃された後に意識を回復させた被害者からの発言だ。複数からも同じような言葉が上がっているから信憑性はあると言ってもいい」


「なぜ決まって女の人から......その後の男の行動を伺うため? そもそも人目がつける場所でどうして犯行を? やはり煽って誰かを誘き出すため? ともあれ、警察側から手に負えなくて回ってきたということはやはり違法ホルダーの犯行と見るのが早いですよね」


「そう、なるな。それも下手すれば複数。それなりの準備で行きたいところだが、大勢で突っ込んでいっても取り囲めるか怪しい。犯人が自分の能力を奢っていなければいいが、その犯人が相手をするのは我々ホルダーだ。様々な能力、中には未知で強力なやつも含まれているすれば、私が犯人側に立ったとしてもまず逃げる」


「ということは、逃げられない状況を作るために私達が囮兼足止め役ということですか?」


「そうだな」


 え、そういうことになるの?......いやまあ、そういうことになるのか。

 相手が手練れだとしても、さすがに複数人の異能力者を相手にするのは面倒と考えて仕切り直すかそのまま姿をくらませる可能性がある。


 しかし、そうさせないためには犯人側に捕まえに来たのが同じ人数かそれよりも少ない人数で来たと思わせる。

 そして、犯人が俺達に注視している間に逃げ道を塞ぐという算段か......あれ? めっちゃ危険だし、別に俺達じゃなくてよくね?


「所長、これって危険ですよね?」


「危険じゃない。凄く危険だ。相手が真理(ガイア)系能力者の場合。瞬殺されることは間違いない」


「そこに俺達を?」


「ビビってるんですか? なら、私一人で十分です。あなたは引っ込んでてください。所長、私はどんなに危険な相手でもやってみせます。ですから、せめて焔薙さんのような強い人と組めると安心です」


 氷月さんに凄い目で睨まれた。確かに、ビビってるよ。認める。

 だが、もしそのような相手だとすれば俺達は足止めすらできやしない。

 だから、俺は自分がビビってるとかを抜きにしても、そこに所長と焔薙さんが組んでいけば一番いいんじゃないかと思う。


 ちゃんと理由はある。二人は実力者だ。相手を足止めできるかもしれない。そして、年齢も近いしカップルと間違えられなくもない。

 となれば、一番合理的な組み合わせじゃないかと思う。もし何らかのアクシデントが起きても二人なら経験で乗り越えられそうだし。


 事件を早期に解決するという問題に対しても、二人の方が一番解決率が高いんじゃないかと思うからだ。

 しかし、氷月さんの質問に所長はゆっくり頭を横に振った。


「残念ながら、それは難しい。なぜなら、恐らく相手側に私達の顔が割れてるからだ。割れてる私が囮になっても囮の意味を成さない。そこでまだ経験が浅くて顔が割れていない二人が一番良いということになる。だから、凪斗と組んでもらうんだ」


「なら、結衣さんのお兄さんなら!」


 そんなに俺とは嫌ですかい。俺も腹をくくる覚悟をしたけど、そうも言われるとさすがに傷つく。


「すまんな。あいつは私の司令補佐なんだ。それにあいつは無能力者だ。言い方は悪いが現場に足手まといを置いておくことはできない。犬死させるだけだからな」


「.......そう、ですか」


 氷月さんは顔を俯きがちにさせながら、半分納得できてない顔で身を引いた。これ以上は無理と判断したんだろう。


「カップルに擬態するにもぎこちなかったらダメだからな。そういうわけで、凪斗の家に住んでもらう。なに、すぐには始めないし、住んでもらうのもこの事件が終わるまでだ。数か月もいるわけじゃない。正直、危険な綱渡りになると思うがよろしく頼む」


 そう言って所長は頭を下げる。もうここまで来たら断る方が難しいというものだ。

 今にも始まるわけじゃないらしいし、氷月さんが住む件も、危険な事件の囮になることも腹を括ろう。


「「はい、お任せください!」」


 そういって、俺と氷月さんは右拳を左胸に当てて敬礼をした。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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