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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第5章 ギャルゲーみたいになったんだが
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第95話 気まずさが膨れ上がっただけじゃん

「うぅ.....あれ? ここは......そっか負けたんですね......」


 俺と氷月さんの試合が終わってからしばらくして、俺の電撃によって気絶していた氷月さんがオフィスのソファで目を覚ました。

 そして、天井を見るなりすぐに状況を理解したのか、少し悲しそうに呟いた。


 目は腕で覆うように塞ぎがちで、どこか表情にも雰囲気にも覇気がない。

 まあ、気持ちがわかる......っていうと俺なんかがって思うが、やはり一般人の俺に訓練してきた氷月さんが負けるというのは相当の屈辱なんだろう。

 ......いや、やっぱり少し分かるかも。あれだ、部活で後輩にスタメンとられた時の気分だ。それよりも数倍大きい感じだけど。


 だから正直、俺にかける言葉はない。というか、何をかけても嫌味のように聞こえてしょうがない気がする。

 もちろん、氷月さんも言ったところでそうじゃないと頭で理解してくれるだろうけど、気持ちとはそういうもののはずだ。逆の立場だったらそう思う。


 ということで、もっと言えば顔も合わせない方が良いと思っていたのだが、それは所長から止めらてた。

 なんか大事な話があるらしい。まあ、大事な話だけだったら俺個人に言えば済むのにそうしないということは......まあ、そう言うことだ。


 俺は反対側のソファで横になっている氷月さんにあまり目線を向けないようにしつつ、タブレットで今日の新聞を読んでいた。

 “警察の端くれたるもの情報は常に取っておくべきだ”という先生のそれはそれは身も縮むような素晴らしいお話しによって読む習慣をつけているのだ。つーか、読まないとテストされる。


「無様ね......あれだけイキっていて負けるなんて......本当に弱い」


「......」


 氷月さんは俺に気付いていないのかそんなことを呟く。

 ......うん、気まずい。俺のせいでそうなっているので尚気まずい。何かそこまで突き動かす理由があって、それを素人同然の俺が力技でも勝ってしまったから......。

 でも、本気でやるとなると仕方なかったんだと言い訳したい。言い訳がましいのはわかってる。でも、せめて心の中では言わせて!......って誰に向かって言ってんだか。


「はぁ~~~~~」


「!......いたんですね」


 俺が思わず自分自身に呆れたため息を吐くとそれに気付いた氷月さんがバッとスカートを抑えながら起き上がる。

 その目つきは鋭い。心を開いてくれる気配は毛ほども見せない。むしろ、その逆とも言っていいだろう。

 というか、さっきのため息ってタイミング的に氷月さんの言葉に対してため息をついた感じになってね?


「あ、うん、所長が用があるからって......え、えーっと、ちなみにさっきのため息は自分に吐いた奴だから。『どうしようもないなー』って」


「わかってますよ、そんなこと。むしろ、私の言葉に対して吐いたのならこの場で串刺しにしてますよ」


「そか、ごめん......」


 や、やべー、言葉がトゲトゲし過ぎてどこから触れたらいいか全くわかんねぇ~。

 こういう女の子を怒らせた時ってどうするんだけっけ? え、どうすんの? 俺、家族に妹いないし、中学に高校もロクに女子とかかわってねぇぞ!?

 いやまあ、小学生の数年と高校生の時は結衣とかかわったことあるけど、あいつ滅多に怒らなかったしな。

 それに怒るとかそういうのを見る時には既に友達だったし、なんとなく謝り方もわかってたけど......今は......えー、どうすれば?


 と、とりあえず、氷月さんは他の皆には顔を見せたらしいし、初対面でもう試合もしたけど自己紹介でもしようか。


「え、えーっと、こんな形になっちゃったけど、改めて初めまして。天渡凪斗って言います。名前は好きに呼んでくれていいから」


「はい」


「俺は成り行きでここに来ちゃったけど、本気でやってるから。手を抜いたりしてないからそこら辺は安心して」


「はい」


「そ、それにしても、氷月さんの氷凄かったよ。俺の両腕もカチンコチンになっちゃってやばかったよ」


「でも、結局何事もなかったように溶かしてるじゃないですか。煽ってるんですか?」


「いや、全然全くこれっぽちも......ごめんなさい」


「別に本気で言ったわけじゃありません。ですから、そう思ってなければ謝らなくて結構です。謝るってことはそう思ってるんですか?」


「いやいやいや」


「なら、いいです。あと、無理に話しかけなくていいです。私も話すことないので」


「そっか......わかった」


 くぅ~~~~~、マジでどうすればいいだ!?

 最初は全然言葉のキャッチボールしてくれなくて、やっとしてくれたと思ったら剛速球で返してきたよ! 明らかにウザかったから投げ返した感じだよ!


 それでもめげずになんか言ったら、相変わらずのキャッチできるかどうか怪しい速度で投げ返してくるし、しかもテニスボールから硬式の野球ボールに勝手に変えられてるしでめっちゃ(精神的に)痛い。

 確かに、ウザかったと思うよ? でも、会話しなと人となりは知れないわけで......あー、どうしよ。

 会話が強制終了されちゃったよ。硬式ボールでも受け取ろうとしてたら明後日の方向に飛ばされちゃったよ。会話の糸口が見つからない。


 その時、氷月さんが目覚めるまで俺に様子を見させておいて、一人どこかへ行っていた所長が返ってきた。

 そして、その所長は険悪とはいかないものの、明らかに淀んだ空気になっている俺達に向かって告げた。


「お、どうやら随分仲良くしてるみたいだな」


 どこが?


「どこですか?」


 俺の心の声と氷月さんの言葉が同じであった。やっぱり氷月さんもそう思うよなと同感の思いにかられつつも、言葉に出されて言われた悲しみは何だろう。

 言うに言えぬ気持ちを抱えたまま所長を見ると半笑いだった。この野郎、完全に俺の内心を知っておきながらわざと言いやがったな?

 ほんといつか後悔させてやるからな! その日が来る気はしないけど! 来ても実行できるかわからないけど!


 所長はそんな俺の気持ちをきっと知っていて無視しながら、書斎机に着いた。そして、俺達を呼ぶ。


「二人ともこっちに来い」


 その声に俺達は動き出し、机の前に並んだ。しかし、その横並びの間には心の溝とも言うべきか結構な距離が出来ていた。

 ......さすがに気にし過ぎか。俺の滅入ってるのかな。


「愛依、今回の試合は残念だったな。ただ、凪斗がこの事務所に決して必要ない存在だということを理解して欲しいための試合だった。凪斗もただきれいごとだけ並べてこの場に立っていないということはな」


「はい、今回は完全に相手を侮っていた私自身の弱さにもあります。侮っていたつもりはありませんが、つもりになっていただけで無意識では隠したと捉えていたのでしょう。しかし、その油断が大きな隙を突く結果となった。私の氷槍が逆手に取られたときは完全に焦りましたから」


「自分の克服すべき点が見つかって、それをしっかりと反省できているのなら私自身が言うことはもはやあるまい。だが、私は時には自分を褒めることもしてもいいと思うぞ? 私はお前の氷の武器は多彩さがあって良かったと思ってる」


「ありがとうございます。ですが、それだけではまだまだだと思いましたので、これからも精進していきます」


 所長が歩み寄ってもこの固い返事。やはりよっぽどのことを抱えてるに違いない。

 かといって、俺が出来ることってあまりないしな。結衣の時も、来架ちゃんの時も成り行きだったし。

 いやまあ、相談に乗ってくれと言われたら、やぶさかではないが、恐らくされることもないだろう。


 俺がそんなことを思っていると所長はふとこんなことを尋ねてきた。


「凪斗、確かお前の家って空きスペースあったよな?」


「? まあ、はい。ありますけど」


「そして確か、愛依はここ来てからまだ家を見つけてないだったよな?」


「はい、そうです」


 なんだこの明らかに不自然な話題転換に質問.....まさか!?


「ってことで、これから愛依は凪斗の家に住め。なーに、どうせチキンなこいつには何も出来やしない。したら殺されるしな、私じゃないけど」


「「え、えええええええ!?」」


 この時初めて驚きという氷月さんの違う一面を見た気がした。

 って、なんでこの人がそんな権限もってるの!? あれ、一応俺の家なんだけど!?

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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