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第86話 落下格闘戦

 上はどうなっているだろうか。焔薙さん、先生は......まあ無事だろう。

 それよりも今の状況をどうにかしないといけない。


「ケケケケッ」


「このクソッ!」


 俺は蜘蛛と人が合わさったような昆虫に足を糸で絡めとられ、現在落下中だ。

 光があまりなく、自分がどこにいるのかほとんどわかっていない。わかっていることは、分断されたという事実だけ。

 そして、俺はあの蜘蛛野郎のターゲットにされたということだけ。


 必死に足元に巻き付いている糸を解こうとするがかなり細い糸なのか爪で引っかけることすら難しく、それに暗がりの中ではほぼ感覚頼りになっている。こなくそっ!

 まずいな。このまま考えられる奴の行動は地面に叩きつける一択だろう。

 どうせあの野郎のことだ。自分だけは糸で助かるようになっているはず。どうにかして直撃だけは防がないと。


「ケケケ、感じるぞ。お前の震えが、恐怖が。空中では何もできないもんな」


「そう思ってるなら、間違いだな」


 妙に癇に障る笑い方をするあの野郎に一泡吹かせたいと思った俺は手の近くにある糸を感覚で探すと触れた瞬間に、思いっきり引っ張った。

 糸がまるでワイヤーを掴んでいるようで食い込んで痛かったが、アストラルで強化された肉体は容易に相手をこっちまで引っ張らせた。


「おらああああ!」


「ぐっ!」


 俺は僅かに緩んだ糸に糸が巻き付いている足を絡めるとそのまま横にあるだろう壁に向かって足を振るう。

 厳密に言えば、当たるまで足で振り回すという感じだ。

 すると、俺の行動で体が振り回された蜘蛛野郎はそのまま暗がりに姿を消すとドンッという音とともにうめくような声が聞こえてきた。どうやら直撃したようだ。


「痛いな!」


「がっ!」


 しかし、それで終わりではなかった。

 今度は俺の体が大きく逆さになって、大きく振り子運動しながら壁に背中からぶつけられた。

 強制的に肺から空気が吐き出される。一瞬息が出来なくなったのが危なかったな。

 にしても、あの野郎。どうやって壁で止まったんだ? 糸であっても限度があるだろ。それともそれすら容易にできるほどの強度なのか?


「この野郎!」


 だが、このままで終われるわけがない。俺は逆さになった状態から足をあげて蜘蛛野郎を振り落とそうとする。

 しかし、俺の足はある程度した所で止まった。

 そのわずかな糸が張った振動が伝わったのか蜘蛛野郎はケラケラと笑いながら答える。


「ケケケ、そんな行動を二度も俺がさせると思ったか? 俺は蜘蛛の力を併せ持つ。壁すらロクに登れない人間が人間並みの知能とそれ以上の力をもった我々に勝てるはずがないだろう」


「それって人間を超えたって意味じゃ俺も同じカテゴリーだけど、な!」


 俺は張った糸を腹筋で体を折りたたみながら掴むと体に高電圧を加えていく。すると、その電流は糸を伝って蜘蛛野郎へと流れた。


「がああああ! 体が痺れる!?」


「くそ、痺れるだけかよ!」


 愚痴を吐きながらも予想出来たこと。前よりも高い電圧が使えるようになった体であるが、それでもまだあまり高い攻撃力は有していない。

 だから、先に糸を掴んだ。

 俺はその糸を手繰り寄せながら壁を垂直に走り出す。俺の靴が摩擦を感じずに落ちてしまう前に素早く足を前に出し、壁を押していく。


 壁を垂直に降りるだったら未だしも、壁を垂直に上るという無茶苦茶な行為をしているのは理解している。

 だけど、このまま相手に有利を取られて終わるぐらいなら、少しでも足掻いてやるだけのこと。

 そして、もし倒せる勝ち筋が見えたなら、人々を守る存在として立派な使命が果たせる。それに―――――


「俺は強くなるって決めたんだ。こんなところでジッと待ってるわけがねぇだろうが!」


 壁を思いっきり垂直に走っていくと上に向かって跳躍した。

 といっても、真上には跳躍できないので少し斜め方向だ。だが、こっちには糸がある。その糸を思いっきり手繰り寄せてぶつける!


「ぐはっ!」


 暗がりに目が慣れ、蜘蛛野郎の胴体に俺の飛び蹴りが入る。そして、壁に思いっきり叩きつけられる。

 だが、まだ俺もターンだ。そこから離れるように大きく後ろに跳ぶと空中で逆さになる。

 あいつが足で踏ん張って、周囲に糸を飛ばして場所を固定していたのは蹴った瞬間に見てわかった。しかし、蹴った感触からすれば前の赤鬼と一緒で全然ダメージが効いてる気がしない。


 なら、ダメージが入るように硬いものには硬いものをぶつけるだけ!


 俺は逆さになった状態から思いっきり足を振り上げた。その瞬間、同時に先ほどよりも強い電撃を流して。

 すると、一瞬振り上げる足をのつんのめりが無くなったような気がした。そう思って再度足を振り上げる。


「ぐがっ!」


 その感覚は正しかったようだ。

 俺の振り上げた足が蜘蛛野郎を釣り上げ、そのまま大きく弧を描くように、遠心力をたっぷりと使いながら再び壁に叩きつけた。

 丁度俺の体が180度回転させたような感じだ。こんな視界不良で空中戦をやるとは思わなかったが、悪くない感じだろう。


 蜘蛛野郎は顔面から顔に突っ込んだ。さすがの蜘蛛野郎でも自分の体重プラス壁の衝撃を顔からもろに受ければそれなりのダメージは入るだろう。

 とはいえ、俺は結局空中にいるわけだし、どうしようか。


「ケケケ、やるじゃんか。雑魚だと思って掻っ攫ったら足元すくわれた感じだ。あ~、調子に乗りすぎるのはあまり良くないね」


「!」


 雰囲気が変わった。そうとしか思えないほど、この場の空気の密度が高くなるように息苦しい重さを感じる。

 そうだ、これだ。俺が軽口を叩けながらでもやりあえていなかったのはこの空気が無かったからだ。

 赤鬼戦では感じた敵の圧倒的な強者というオーラ。そして、とにかく相手の針の穴に糸を通すような隙を見つけ出して狙うという緊迫感。

 それが今の今まで一切感じなかった。だから、俺でもそれなりにやりあえていたんだ。


 考えてみれば俺が赤鬼と戦えたのは結衣と命からがら隙を見出して勝ったようなもの。俺、一人では結局殺されかけていた。

 しまったな......一人では倒せないことは重々承知してたから、あくまで時間稼ぎのつもりでやっていたが、空気があまりにも違ってやり過ぎたようだ。やべぇ、マジやべぇ。


「もうここで殺り合うのはもったいない。お前とはもっと相応しい場所で戦ってやる!」


「ぐはっ!」


 蜘蛛野郎は空中に逆さで落ちる俺に不敵な笑みを見せると一気に飛び込んできた。

 そして、蜘蛛の胴体から伸びた人の上半身を大きく横に逸らすと右拳を俺に腹部に叩きつけた。

 その衝撃は体の芯まで伝わっていき、若干体が捩じられ、あばらがミシミシと軋んでいくのがわかる。

 それからそのまま、俺の体は撃ち出された砲弾のように真下に向かって落ち始めた。


 体が常に腹から押されているような感覚がある。それに体を無理やり動かそうとしても、衝撃がそれを邪魔をする。

 不味い不味い不味い! このまま背中から何かにぶつかったら時間稼ぎどころじゃない! 叩きつけられた時点で俺の体は終わる!

 それだけは絶対に阻止しなければならない! なら、何が何でも体の向きを変えないことには助かる保証はない!


 俺は体を無理やり捩じる。とにかく捩じる、腹部から殴られた痛みが再び来ようと痛みを堪えて捩じって体の向きを逆転させた。

 まるでスカイダイビングでも体験してる気分だ。そう言ってないといろいろな恐怖で押しつぶされそうだ。

 っていうか、一体これはどこまで深いのか。全くもって底が見えない。やべぇ、マジやべぇ!

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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