第85話 ベテランの余裕
―――――【金剛 善】視点―――――
破壊され落ち行く配管の上に乗りながら、ワシは体に似合わない巨人の拳をした角虫と相対していた。
そして、角虫はその破壊力のある一撃を思いっきりワシへと振りかざしてくる。
「潰れて死ね」
「ふぉっふぉ、まだ死ねんの」
ワシはその配管から跳躍すると足場になりそうな別の瓦礫へと移動していく。
すると、先ほどのワシがいた場所には巨大な拳が襲い、まだ少し丸い原型をとどめていた配管が跡形もなく押しつぶされ吹き飛ばされた。
ふぅ、ワシとてアレを食らったらひとたまりもないわい。それを躊躇なく使う辺り、それなりの戦闘経験を積んでいるようじゃな。
「まだだ!」
「!」
角虫は大きく振り下ろした拳を横に振るうと周囲に突風を作り出した。そして、その突風は風で出来た壁となってワシを瓦礫ともども吹き飛ばす。
当然、立って耐えられるような威力ではなく、足がすくい上げられて勢いよく背後の配管に突っ込んでいく。
ワシは咄嗟に後ろへと振り向くと配管の壁に蹴り込み、その衝撃でへこんだ個所を足場にして上向きに方向を変えていく。
それによって、ワシは配管の直撃を避けることが出来た。といっても、さすがに勢いまでは殺せんかったから転がったが。
「ちょこまかと!」
「さすがに当たりたくないのでな」
角虫は羽を動かして空中を飛んでくると手刀に変えた巨大な手をそのまま大雑把に振り下ろしてきた。
ワシは頭をガードしながらその場を離れる。すると、配管が崩れて落ちることはなかったが、周囲に煙が充満した。
ふむ、これはワシに攻撃したように見せかけて不意をつくための目くらましってところかの。それに敬拝がいくつもある。
「じゃが、さすがに年季が入ったワシにすることじゃないわい」
ワシの両サイドから二体の巨大なダンゴムシが体を高速回転しながら飛び出してきた。
煙の糸を引きながら若干の光沢を見せるその体は今にもすり潰そうとワシに迫る。じゃが、ワシは冷静に目線だけで確認すると銀色の篭手を装着した両腕を左右に開く。
ガンッという音を立てて、ダンゴムシはワシの手のひらでとどまった。押しつぶそうと回転を続けるが、ワシの力に負けているようじゃまだまだじゃな。
「散れ」
ワシは両手で爪を立てるとダンゴムシの回転を強制停止させる。そして、そのまま握力で掴むと前方に投げて煙を払う。
視界が晴れて来て足元に僅かな煙が立つ程になると先ほどの前方に投げたダンゴムシが打ち返されたように戻ってきた。
しかし、それぐらいなら何ともない。ワシはすぐに両手で止めると横に投げ捨てる。
「入ったああああ!」
「っ!」
その瞬間、ダンゴムシにピッタリと入りついて来ていたのか角虫が二本の右腕を大きく絞ってボディブローを放ってきた。
それはワシの腹部に吸い込まれるように入っていき、ワシはうづくまったように背中から衝撃が抜ける。
「さて、そろそろワシも真面目にやらないといかんかの」
「なっ! 効いてな―――――――がはっ!」
「効いてるわい」
ワシは左腕を咄嗟に腹部の前で戻し、角虫のボディブローを防いだ。
角虫は攻撃が確実に入っていたと思っていたのかワシに対して驚き、一瞬の硬直を見せる。それはワシにチャンスボールを与えたようなものじゃぞ。
故に、ワシは右拳を強く固めて角虫の顔面へと振り抜いた。すると、角虫は顔に僅かなパキッと音を立てると柱まで吹き飛ばされ、直撃する。
「さあ、まだ息があるじゃろ? ワシは急いでいるんじゃ。来ないだったらワシから行くぞ」
「我に指図するなああああ!」
いきり立ったように煙を払って出てきた角虫の両腕は体に不格好な巨大な二本の両腕へと変わり果てていた。なんじゃ、そっちも巨大化できるのか。
そして、その巨大な手を握り合わせるとワシに向かって振り下ろしてきた。
当然、そんな明らかに強力な攻撃をわざわざ受け止めるような真似はしない。昔のワシだったらカッコつけてやっていたかもしれんがの。
すると、ワシが避けることは予測していたのか、角虫は思いっきり叩きつけた配管に指を引っかけるとそのまま軽い自分の体を引き戻し、頭から突っ込んでくる。
さながらロケットのような頭突きじゃの。さすがに空中は無理――――――と言えれば良かったがの。
「すまんな。飛べるのはそっちのアドバンテージじゃないのじゃ」
「がっ!」
ワシは右足を引きつけて一気に蹴る。その瞬間、足元から衝撃が放たれ、その反作用でワシの体は上向きに浮いていく。
そして、体を翻しながらワシのいた場所を通過しようとする角虫に背中を思いっきり殴りつける。
角虫はうめき声を上げながら真下に向かって吹き飛ばされ、配管に直撃し、それすらも貫通しさらに下へと落ちていく。
配管はその衝撃に耐えられなかったのかね根元から壊れて落ちた。
ワシは同じ要領で空中を蹴りながら、近くの配管の上に立つと角虫を吹き飛ばした方向を見る。
さっきの攻撃で羽は完全につぶしたから、さすがにあの速度の落下には耐えられないと思うんじゃが......ファンタズマは何分生命力が強いからのそう簡単には潰れまいな。
――――――ガガガガガッ
そんなワシの予想が的中したようにワシの立っている配管が揺れる。僅かな微振動じゃが、遠くからこれだけ揺らせるなら大したものじゃ。
そして、ワシの落とした角虫の場所は気配が急速に大きくなっていき、やがて特徴的な先が僅かに開いた角が見えてきた。
「もう許さん。お前は跡形もなく潰してやる」
「ほっほう~、全身もデカくできるのか」
ワシは目線を下から真っ直ぐに戻していた。それは目の前に全身を巨大化させた角虫が立っていたからだ。
まるで昔の映画にあるゴ〇ラのようじゃの。それともキング〇ングといったところか。ともかく、こんなデカいのと戦うのは初めてかもな。
角虫は四本の腕で近くの配管を引きちぎるとそれを武器のように構えて、一つを振り下ろしてきた。
ワシは思いっきり跳躍してそれを避ける。攻撃スピードはあまり速くないが、それに有り余る攻撃力と大きさは脅威じゃの。
どっちにしろ当たらなくても衝撃の余波がワシに伝わってくる。まあ、巨人と同時に走り出して動きが遅くても、巨人より早く走れるわけじゃないしの。
「死ね死ね死ね死ね!」
角虫は相当怒りが溜まっているのか手に持った配管をやたら滅たらに振り回す。そのせいでワシは足場がなくなり、軌道も読めず薙ぎ払った風に吹き飛ばされる。
仕方ない。このままじゃ時間がかかりそうじゃからの。
「見せるぞ、ワシの本気を―――――――いくぞ、アルデバラン!」
ワシは全身にマギを纏わせると篭手と脚甲以外の部分によりを纏い始めた。
全身が銀色に統一された仮面〇イダーにも似た装甲。そして、淡い青色の反射を見せるヘルメットの視界部分に取り付けられた強化ガラス。
ワシのフルコスチュームと言ったところか。ワシに合った鉄壁の防御じゃ。
両足で空気を蹴ると正面から角虫に突っ込んでいく。そして、振り回す配管を掻い潜りながら、素早く角虫の正面に現れた。
「バカが! 俺の最強の角の一撃で死ね!」
角虫はその瞬間を待っていたように立派に伸びた角でワシを襲いにかかる。
しかし、ワシは右拳を大きく振りかぶると告げた。
「残念じゃが、ワシの勝ちじゃ」
ワシが振り下ろした右拳は角に直撃するとその角はものの見事に粉砕した。
そのことに衝撃が隠せない様子に角虫の顔面にそのまま拳を直撃させる。
その瞬間、角虫の体は大きく吹き飛ばされ、壁に直撃しながら大きくへこませた。そして、そのまま手足を灰に変えていく。
「さて、急ぐかの」
ワシは横目でその様子を見ながらそのまま真下の暗闇へと落ちていった。
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