第77話 怪しげな五か所#2
「相変わらず利用客が多いことで」
八月も終盤という季節。だが、未だ学生にとっては夏休みの期間であることには変わりないので、どうにもこうにも人が多い。
駅の入り口の液晶ウィンドウが浮かぶ、タバコを捨てるようなステンレスの筒の周りには待ち合わせをしているだろう人で溢れている。
その人たちは大概若者だ。とはいえ、今が昼時であるために昼食に出かける会社員の姿も見受けられる。まあ、何が言いたいのかというと露わにされてる美脚が素晴らしいということだ。
「さて、ここから何を調べようかね。といっても、聞き込みぐらいしか出来ないんだけど」
俺は「少し前まで俺もあっち側だったんだけどな」とオシャレをする若者の集団に目をやりつつ、知人にバレないように速やかに駅の中に入っていく。
そして、横幅の広い階段を下っていくと改札が見えたので、そこの駅員さんに事情を聴いてみた。
「すいません、こういうものですが。少しお時間よろしいですか?」
「はい、構いませんが......何かあったのですか?」
「いやいや、ただの聞き込みですよ。それで昨日の夜遅くまで仕事をされていた方にお話しできますか?」
「それなら私ですが」
そして、俺は「昨夜やそれよりも前に何か不審な影とかを見なかったか聞いた」すると、何か心当たりがあったのかその駅員さんが教えてくれる。
連れて来てもらった場所は駅地下の通り―――――私鉄に乗り換えるためにある飲食店とかがある場所であった。
「一昨日ぐらいに夜に落としものの電話があって、電話の主はここら辺で定期切符を落としたと言ってたんですよね。それで探しにここに来てみると不審な影みたいのが動いた気がしたんですよ。懐中電灯とかも照らしてみましたが、何だったのか正体は掴めず......」
「そうですか。ご協力感謝します」
俺は駅員さんから有力な情報を得るとその通りを歩いていく。
割と広めの横幅でその両端には飲食店やパンやお土産やなどがあり、多くの人が賑わい行きかう。
......うん、ファンタズマは人を襲うと聞いたし、人が多くなるここに何かしら手を加えるのはもはや当然とも言えるだろう。ならば――――――
「集中強化―――――視覚超強化」
俺は立ち止まり、目にマギを集めるとさらに周囲に自分の気配を解き放つ。
その時は放たれた気配は魚群探知機のレーダーのような役割をしていて、人々が無意識に抱えている微弱なマギを捕えつつ、その他の異質の気配も探っていく。
これは俺が来架ちゃんと組んだ時に使った機械の簡易型だ。これも集中強化が出来た上で初めて使える技なので覚えといてよかった~。
しかし、この場では気配がない。少し移動してみるか。
そしてしばらく移動していたある時、俺の放っていたマギに別のマギが干渉してきた。敵の気配ではない。何か紐のように気配が続いている?
その気配を頼りに俺は場所を辿っていく。すると、段々と人気のない場所になっていった。そして、辿っていた気配もいつの間にか紐から川のように物理的圧力すら感じるような気配になっていた。
これが恐らく一般の人が感じるなんとなく近づかない方がいいという気配なのだろう。金剛さんが教えてくれた。
しかし、俺はそのまま突き進む。一般人を守るために特務という存在があるなら、逃げかえっては本末転倒だろうから。まあ、焔薙さんの忠告はしっかり守るけどね。
人の気配は微塵もなくなった。先ほどまで雑多な人の声も無音室になったかのように声が響かなくなり、クーラーも回ってるわけでもないのに少し寒気を感じる。そして、薄暗い。
迷い込んだ駅地下街はお化け屋敷でしたって感じだ。すぐにでもホラゲーの主人公になれる気がする。
......っと、こんだけ考えられるってことはまだ余裕ありそうだな。
「出てこいよ」
「ギャシャァ」「ギシッギシ」「グギャア」「グガガガ」「ギガッ! ギシャ!」
俺の声に反応するように何体ものアリが出てきた。しかも、一匹が一メートルもありそうなアリだ。普通ではこんなサイズはいるはずもない。
そのアリは顎をギシギシと動かしながらつぶらな瞳を事らに向け今にも襲いかかろうと身構える。
「ギシャアアアアアア!」
一匹のアリが金切声のような叫びを上げた。すると、何体ものアリが一斉に突っ込んでくる。速度はかなり早い。
まあ、当たり前だ。普通のサイズのアリでも素手で捕まえるのは苦労するというのに、それが人間サイズのなったらどうなるなんか考えなくてもわかる。
「アストラル解放! 一匹残らず仕留める!」
俺は全身に紫電を纏わせると復習とばかりに全身に集中強化をしていく。まだ多少のムラはあるが前よりもかなりマシになったはずだ。
突っ込んでくるアリに対して、俺も正面から突っ込んでいく。アリの速度も速いがここは言うほど広い空間ではない。
となれば、体も大きく数も多いお前らは少なくとも身動きしずらいはずだ!
そして、直近にいたアリのアゴ下から思いっきりアッパーカット。突き上げた拳がアリのアゴから頭にかけて雷が貫く。
その仕留めたアリを片方に投げるともう片方へ移動しながらそのままライダーキック。同じく雷で感電させていく。
昆虫は半分以上がタンパク質で出来ていると聞くからな、感電であってもそのたんぱく質を焼いてしまえば仕留められる。
すると俺が二体目のアリを仕留めた瞬間、他のアリが大きくアゴの角を開き噛みつこうと突進してきた。
なので、俺は脚元のアリを蹴ってそのまま宙返りしながら、そのアリの突進を避けていく。
それからすぐに、片腕を伸ばしてその手から雷を発射。バヂンッと一瞬の電流が伸びてそのアリのお尻を貫くように感電させた。
これは俺が使えるようになった唯一の遠距離(もとい、まだ中距離だが)攻撃だ。しかし、雷ほどの威力はなく、それは次なる目標と言ったところだ。
「ギャシャッ!」
「!」
俺が三体目を仕留めて地面に着地すると目の前からアリが飛んできた。いや、違う。アゴに死んだアリを咥えたまま突進してきやがったんだ。
そして、その背後には二体のアリが並んでいる。ってことは、俺が避けなければそのまま押しつぶすように突進して、上に避ければ背後の二体のアリが不意打ちを狙って襲ってくるという感じだろう。
思考力があるというのはサイズが大きい影響なのか。はたまた、全く違うファンタズマという生物であるからだろうか。
「ま、先生の力よりも絶対的に劣るだろうけどな」
俺は正面から迫ってくるアリに対して、その場で大きく足を開いて真っ向勝負するか前に出た。すると、案の定死体のアリを咥えたアリは突っ込んできた。
「ふんっ!」
両腕を伸ばして正面から受け止める。足に踏ん張りを利かせて、相手の突っ込んできた勢いを殺していく。
しかし、相手も負けるわけにはいかないと三匹がかりで押してきた。そのせいで足元の踏ん張りが徐々に限界を迎えて押されそうになる。
だけど、それでいいのだ。
「お前ら近づきすぎだな―――――雷放!」
「「「ギャシャアアアア!!!」」」
俺は体に纏わせた紫電を電流にして一気に放電させた。これもまた雷とは程遠いが、アリを3匹仕留めるぐらいであれば造作もないというものだ。
そして、死体のアリを伝って流れた電気に感電した3匹のアリは断末魔のような声を上げながら絶命した。
「なんかテ〇フォーマーズにでもなった気分だな。もしくは地球〇衛軍......ん?」
周りの気配を確認しながら正面のアリを避けていくとその後ろに少し大きめな鏡のような大きさをした穴のようなもの見つけた。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




