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第75話 すげー人はやっぱすげー

「はあははあ......」


 俺は大きく胸を上下しながら無様に大の字に寝そべって天井を見つめていた。

 修行が始まってからの三日目、鬼教官と化した金剛さん(先生)はそれはもう容赦がなかった。


 最初は上半身の気孔が開いたために全身にめぐるようになったマギを動きながら循環させるということで、全力の組み手をしていたのだが、まるで赤子の手を捻るように投げ飛ばされたり、吹き飛ばされたり。


 あれ? 本当に同じ重力の下にいるんだよな? というぐらい、ビクともしない。

 それこそ所長より酷く二本足で突っ立ってるだけだ。所長でももう少し足踏みしたというのに。


 まあ、それは先生の異能が関係しているんだと思うんだけど。


 というのも、先生の能力は至極単純ないわば自強化である。確か、【超自強化(ハイストロンガー)】って言ってたっけな。


 特別な能力を使えるわけじゃなく、純粋な筋力と防御力でもって敵を制する。一番かっこいいやつ。


 それが先生の場合だと最強の鉾と最強の盾を同時に持っているようなものだ。まあ、純粋な筋力じゃ勝てるわけないよね。


 組み手と言えど“本気でかかってこい”というので、能力もフルに使って攻撃を仕掛けた。

 もうその時に振りかぶる拳に躊躇いは無かったね。だって、その前にただ蹴ったボールに踊るようにボコボコにされたから。後頭部に少したんこぶ出来たから。


 しかし、それでも届かない。スタンガン並みの高電圧の拳を叩きつけても、片手で受け止められる。その時はマジで“は?”と思った。


 そんなことを三日間、今日も今日とて床の上に寝転がっている。


「よお、なぎっち。こんな所で寝そべって事務所(あっち)に置いてきた彼女のことでも思い浮かべていたのか?」


「そんな彼女がいてくれたならもっと頑張れますよ。それはそうと、髪色が全然銀から抜け落ちる感じがしないですが?」


「それはそうでしょ。そう簡単に染めたものは抜けないし、なんならちょっと強力なやつにしたし」


「強力って何!? 初耳なんですけど!?」


 フラフラ~と地下にやって来た金髪にサングラス、白いスーツとホスト感満載な焔薙さんはポケットに手を突っ込んだまま尋ねてきた。


 急に来たことに多少の驚きはあったものの、なーにもうこの世界に入って驚かされてばっかなんだ。


そんな珍しい人が来たぐらいじゃ驚かされまい。とはいえ、髪の毛に関してはちょっと不味いかもしれないけど。結衣に怒られそう。


 俺は上体を起こすと焔薙さんに聞いた。


「そういえば、何か用ですか?」


「あー、少し様子を見にいた感じだな。あの人の修行は手厳しいから」


「というと、焔薙さんが先生の弟子だったんですか?」


「いや~、違う違う。あの人の弟子の弟子。だから、直接な教えは受けてない。だけど、気まぐれに教えてくれることもあったな。それにしてもまあ、あの人がまた弟子を取るなんてな」


 焔薙さんは感慨深そうにどこかを見つめた表情で告げた。

 そう聞くと先生は滅多に弟子を取らない人なのか。これほどまでに実力者なのにもったいないとすら感じる。

 それにしても、逆に興味が引かれるな。その先生が弟子を取ったという人物は。


「先生の弟子......焔薙さんの先生はどんな人だったんですか?」


「一言で特徴を告げるとチャランポランなダメ人間かな」


「え?」


「俺みたいにチャラチャラしてるわけじゃないけど、特務の仕事が無ければ本物のダメ人間だったろうねって人。

 ただ戦闘センスは天賦の才を持っていたし、普段はダメなその人の近くにはなぜか自然と人が集まっていた。

 弟子として入った当時は驚きがあったけど、今となればその意味がうなづける。ちなみに、女帝も同じ弟子だっただぜ?」


「所長が! なんかあの人の場合だと逆にからかって良いように尻に敷いてる感じがするんですけど.....」


「ははは、あながち間違ってない。普段は逆セクハラまがいのことをしてめっちゃからかってたな。それを見た主に周りに攻められてあたふたする姿とか見て爆笑してた」


 うわ~、昔っから混じりっ気のないSだな~。その時の光景が容易に想像できる。なんなら、シンパシーすら感じる。


「そういえば、その人以来にからかい甲斐のある奴が特別に入ってきたとか言ってたな。まあ、君のことだとすぐわかったよ。普段の雰囲気とは違くともなんか似てるし」


 ダメだ。終わりだ。もう既にあの人にカモにされてる。煮ても焼かれてからもさらにいたぶられる。


 そんなことを思って思わず遠い目をしていると焔薙さんが気さくに「大丈夫だから」と弧をかけてきた。しかし、その目が笑っているために信用ならぬ。


 クソぅ、何か所長に一泡吹かせたいとか思うけど、なんにも思いつかない。あのエスパーに先に企みがバレそうだ。


 するとここで、焔薙さんが「前置きはこの辺にして」と呟くと話を切り出してきた。


「なあ、なぎっち。そろそろアルガンドとか使いたくならないか?」


「そりゃあ、使いたいですけど......今の俺ってもうそれが出来る段階にいるんですか?」


「一先ず基本防御......集中強化を全身で出来るようになったってことは、アストラルで変換したマギも容易に扱えるということだ。まあ、多少のぎこちなさは残ろうとも、少なからずアルガンドを作り出すことが出来るぐらいにはなったはずだ。なら、確認してみるか?」


 そういうと焔薙さんは俺の横でしゃがんでそっと手を伸ばしてきた。


「俺の手を握れ。俺がマギを流すからそれを自己循環で自分のマギに変換して体の外に放出してみろ」


「わかりました」


 言われた通りに手を握る。するとその瞬間、体が一気に燃えるように熱くなり始めた。

 その感覚は別に火傷したような痛みを感じるわけでも、暑さに大量の汗を感じるわけでもなく、体の中だけで炎が暴れ狂っているように不思議な暑さを感じる。


 そして、その受け取ったマギを自分のマギに変換した俺は体の外に放出した瞬間、座っていた床が一気に凹んだ。

 それから、可視化できるほどのオーラが外に溢れ出している。


「これはやべぇな......」


「はい、やばいです......」


 額にうっすら汗をかき始めた焔薙さんは一体どれほどのアストラルを持っているというのか。


 確かに、所長は経験値を増やせばアストラルの総量は増やせると言っていたが、それでもまだ経験の少ない俺はたかが知れている。それに測定では普通だった気がするし。


 となると、今座っている場所が焔薙さんのマギを受け取ってこうなったということになり......やはり先生の弟子の弟子であるということなのか。


 焔薙さんがマギを流すのを止めると可視化されていたオーラも薄まっていき、やがて小さくなる。そして、感じるのはひび割れた床の感触だけ。


「うん、大丈夫だ。アルガンドを作り出すのには十分なマギは保有している。ただまだ、少し少ない感じがするけどな」


 手を握ったり開いたりと何かの感触を確かめながらそう告げる。

 やはりまだアストラルが足りないのか。でも、自分だけの武器が作れるとわかったらなんだか興奮してきたな。これが男の性ってやつか。


 何にしようか。やっぱりここは刀とか? いや、純粋に盾と剣も捨てがたい。いや、双剣もいいない。二丁拳銃もありだ。


「なんか自分だけの武器を作れると思うと興奮しますね!」


「そうだろう、そうだろう。俺も大剣を振り回す姿に憧れて大剣にしたもんだ。ってことで、これからドキワク! アルガンドレシピ講座の時間だ。準備はいいか? なぎっち!」


「はい、いつでもバッチコイです!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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