第66話 新人講習会#2
「またもや話が脱線してしまったな。全く、真面目な話をするとすぐに脱線したがる奴を思い出す」
そう言って所長は俺をチラリと見る。言っておくが、俺はそんなことをした覚えはまるでない。もしかして、俺に似た誰かを重ねていたりするのだろうか。
所長は一つ咳払いをすると話し始める。
「それじゃあ、この話をするきっかけになった自然やらアルガンドについて話す。まず、自然の方だが、これはアストラルをその能力の特徴に置いて三分割したうちの一つのグループと考えて欲しい」
「他にもあるんですか?」
「ああ、まず凪斗が持つ“雷を操る力”だが、これは本来自然にしか作りえない絶大な力を自ら作り出す能力だ。
故に、その能力は他の能力に比べれば破格の威力を持つものだと考えて欲しい。他にも、土、風、氷(水)、炎、光、影(闇)とまあ、よくRPGゲームにありそうな五大要素なんかはこの第一世代型自然に分類される。もちろん、派生もある」
「一つ質問いいですか?」
「なんだ?」
「所長は前に“アストラルが解放した時に自分が欲した力が宿る”的なことを言っていたじゃないですか。だとすれば、同じような能力を持つ人はいるんじゃないですか?」
この質問でもし同意の返答が来たらかなりカオスな事態になると思われるが、どこかの漫画みたいに同じ能力が被らないようだったらありがたい。
「そうだな。結論としてはそれはないらしい。人がそれぞれ何かの才能を持つように、アストラルを解放した際に持ちうる才能によって得る能力は違う。
本人がどれだけ強い能力を欲したって、体がその能力を欲していなければその能力を得ないということだ。そして、逆もまた然り」
「それにアストラルを解放した時に発言する力は大体深層心理が反映されるの。さっき所長が言ったみたいに、いくら強い能力を願っても、心の奥底――――――無意識下で“お金で楽な暮らしをしたい”とか思ってたら、発現する力は全身を金にする能力みたいな感じ」
結衣が補足をしてくれた。要するに自分が本当に欲しい能力があったなら、それを欲しい状況に追い込むしかないということか。
「なるほど。俺が能力を得た時は“結衣を急いで助けに行きたい”といういわば切羽詰まった願いだったから思い通りの能力を得たということか」
「......! 凪斗、そんなに私を思ってくれて......」
「ちょ!? それはまあ、否定はしないけど! そんな普段頬を赤らめない結衣が急に赤らめるとかはやめてくれ!」
「にゅふふ、先輩も罪な男ですね~」
「やっぱ似てるから後で罰な」
「そんな理不尽な!?」
所長はそれはそれはいい笑顔で言った。誰と何が似ているのかは知らないが、所長にそう思われている人はさぞかし可哀そうな人だろう。
俺に言いたいことを告げ終わると手を二回ほど叩いた所長は「話を戻すぞ」と言って説明を再開する。
「まあ、基本的にアストラルの発言能力に関しては結衣が言ったみたいなものだ。そして、それで得たその能力は......特に自然クラスだと自壊の可能性を秘めている。
お前が結衣にバレないように必死に隠していた来架との依頼任務の時の右腕の傷もそういうことだ」
「え!? なんで今言うんですか!?」
「治ったからいいだろ」
「そういう問題ではなく――――――」
「凪斗、後でOHANASHIしよう?」
やばい、死亡フラグ立った!
「だから、能力を使う際は気を付けて使え。ファンタズマを倒すために作りだした能力で自分を壊してしまうとなれば本末転倒だからな。
そして、私やお前の両隣りにいる結衣、来架のような自然には発生し得ない能力は第二世代型異質と呼ばれている。まあ、簡単に言えば自然とそれ以外というやつだ」
「ということは、能力は何でもありということですか?」
「まあ、自然や理からあまり外れなければな。結衣の【複数分裂】のように体を分裂させることもあれば――――――」
所長が説明すると隣の結衣が突然二体に分裂した。すると、辛うじて小学生から脱するか脱しないかぐらいの大きさだった結衣が明らかに小学生のような大きさのゆーちゃんといーちゃんに分裂した。
少しつり上がった目つきで堂々と胸を張るのがゆーちゃんで、少したれ目で小さくなるように控えめななのがいーちゃんだ。
同じ見た目で......というか、それは当たり前なのだが、感情がない結衣が分裂して感情が現れるのは何とも不思議だ。
あれか? ゆーちゃんがプラスでいーちゃんがマイナスで打ち消しあったら基本無感情の結衣が出来上がるのか?
というか、二人の名前も「結衣」をただ分けただけという何とも安直な感じだ。
ゆーちゃんは俺の膝に座ると堂々とふんぞり返るように寄り掛かった。そして、隣でいーちゃんはどこか羨ましそうに眺めている。
まんま性格真反対の小学生双子にしか見えない。可哀そうなのでいーちゃんの頭を撫でてやろう。
「来架の錬金術師のように物体を変形させることも出来る」
所長の言葉に来架ちゃんも実演した方がいいと思ったのか、腰に差していた短剣を取り出すとその刃先を恋のキューピッド像に変えた。
相変わらずの金属を自由に変形できるとはすさまじいものである。だが、なぜその像をチョイスしたのかはわからないが。
「他にも凪斗と来架が戦って相手の他人を操る能力も、自身の肉体を動物に変身させる能力などもとにかく全て異質に入る。
恐らくお偉いさん方も考えるのが面倒になったんだろうな。そして、それらの能力はいわば必殺技と言われるような力はないが、それに対するデメリットも少ない汎用型だ。
しかし、使い手次第で下手な自然相手よりも厄介な相手となり得る可能性がある」
うわぁ~、それはやだな。教祖と戦った時だって、俺一人だったら普通に勝てていたかどうか怪しいし、そんな相手がゴロゴロいるとなると何とも言い難い気持ちになるんだが。
所長は液晶ディスプレイに「第二世代型異質」と書くとその下に一人が二人に分裂した絵、ゴツゴツしたものが剣に変形した絵、人が動物に変わった絵とかを描いていく。
よく見ると「第一世代型自然」についても書いてあった。恐らく、結衣と来架ちゃんが実演している時に書いたのだろう。
まあ、その下に雷を纏わせた俺らしき人がリボンをつけた結衣らしき小さめの人にボコられてる絵が添えてあるのだが。なんだ? 俺、所長の恨みでも買ったか?
所長は液晶ディスプレイに描いたことについて俺が気づいているだろうことを気づいているにも関わらず、その一切を無視した。
「そして、アストラルを3つに分けた中で一番厄介なのがこれだ」
所領は液晶ディスプレイに言葉を書いていく。そして、その言葉を強調するように波立ったような囲いで括っていく。
そして、タッチペンでそれを指さしながら告げた。
「第零型世代真理だ」
「がいあ......?」
「簡単に言えば自然と同じ人には本来自由に扱えない類でありながら、強力にして凶悪的に壮絶的な威力を及ぼす能力のことだ。例を挙げるなら、重力操作、時間操作、空間操作、死者操作などがあげられる」
「ち、チート能力......」
「ああ、チートだ。そして、その強さはイカレテやがる。私も一度現ランク一位にして特務名誉会長の時間操作を見たが、あれはもうあたまおかしい。かつてある無人島にファンタズマが現れるゲートがあったんだが、その島ごと時間操作で風化させてしまったから」
「わぁ......」
「そして、不幸な知らせだ。少なくとも確認されている残りの4つの能力を特務で持つ者はいない。つまりこいつらが存在するとすれば――――敵にいる」
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