表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/186

第64話 悲しき男の性

「よし、こんなもんだろ」


「ハアハアハア......ありがとう......ございました」


 額からは流れる汗は頬を伝ってあご先から滴り、首筋や体の内側も湿っているせいかベトベトとした不快感を感じる。

 練習着も色が変わるほどで、肌に張り付くような感じはもはや恒例となりつつある。


 俺がやっていたのは所長に鍛えてもらっただけだ。

 いつぞやのサークルから所長を動かせば勝ちというのを今もやっているのだが、未だ動かすことはままならず。全くゴリラかってぐらい強靭な肉体をしてやがる。


「何か失礼なこと言わなかったか?」


「少しは息切れしろよ、と」


 そして、まるで心を見透かしているようなエスパーを発揮する洞察力。


「ふぅ~、しっかし運動すると熱いな。どうだ? いつもみたいに一緒に風呂でも?」


「誤解を生むようなことを言わないでください。これを聞いて結衣が勘違いしたら、1000パーセント問い詰められるのは俺なんですからね?」


 所長は丁度隠しきれてない胸を隠すぐらいの運動着に、下は半スパッツと着ている。

 あのスラリと伸びる脚線美を見せつけながら、胸元にある谷間から運動着に指をひっかけて空気の循環をしている。

 全くすばら......ゲフンゲフン、セクハラまがいで訴えたら勝てる気しかしないですね。ちなみに、一緒に風呂に入ったことはなくとも、銭湯には行ったことある。


「胸が大きくてもいいことばっかじゃないんだぞ? こうして汗をかくと蒸れるんだ」


「それを俺に言ってどうしろと?」


「なんだ? 大きいのが嫌いなのか?」


「いやまあ、嫌いじゃないですけど......ってそうじゃなくて! ん? 何ニヤニヤしてるんですか?」


「へぇ、じゃあ何が嫌いなの?」


「何がって―――――っ!」


 肩に手を置かれ、汗が一瞬で引いていくような寒気に襲われると咄嗟に背後へ振り返る。するとそこには、悪魔の声を出す輝きのない瞳を向けた結衣の姿があった。

 は、嵌められた。またしても所長にからかわれた。しかも、結衣がずっと気にしている話題でだ。高校生時代(前に)も足の長さで脅迫じみた質問をされたことがあるが、今回はその比じゃない!


「あ、あのー、ゆ、結衣さん? 肩が折れそうなんで放してもらえますか?」


「ダメ。放した瞬間逃げる。そしたら、追い付けない。それに、逃げるって選択肢が出るってことは何かやましいことがあるんだね?」


「い、いえ、全く何もこれっぽっちもあるわけないじゃないですか! ははは、結衣さんは御冗談がお好きなようで!」


 く、くそぉ、退路を断たれた! そして、背後にいる所長はこの様子をケタケタと笑っていやがる。あのゴリラ魔女め! いつか覚えて起きやがれ!


「どこ見てるの? 私はそっちにいないよ?」


「はい、結衣さんはここにいます!」


「そういえば、前にもこういう時があったね。あの時な長いスラッとした脚部こそ至高とか言っていたけど、今はどうかな?」


「え、そんなこと言った覚えが―――――」


「いいから言いなさい」


「は、はい! 長さを問わず、たとえ幼児体形の足でさえスラッとしていれば愛でるようになりました!」


 あれ? 言葉がスラッと出たぞ? 全然言葉なんて思いついていなかったのに。


「よろしい」


 結衣は“ごほん”と一回咳払いをするとグッと顔を近づけさせる。


「なら、単刀直入に聞く。巨乳より貧乳の方が至高である。相違ないか?」


「.......イエスマン」


「なに? 今の間は? もう一度尋ねる。相違ないな?」


「いえ――――――」


「そうなのか~? 正直になれよ、このムッツリスケベ。本当は気になんだろ?」


 所長は俺に肩を組むと意識させるように胸を腕に押し付ける。こ、この人、いつの間にこっちに!?

 俺の腕からすげぇ圧を感じる。柔らかいのにボリュームがあるというか、それに制汗剤のニオイも漂ってくる。


「見たな?」


「!」


 結衣(悪魔)の最終勧告のように聞こえた。そして、思わず横にいる所長を見る。ニタァと笑いやがった。このアマああああぁぁぁぁ痛ったああああああああああ!


****


「ひんぬ~さいこ~。ひんぬ~こそしこう~」


「やり過ぎじゃないか?」


「これぐらいやった方がそういう興味の帳尻が合う。いわば教育」


「いや、帳尻っていうか足の下りもそうだけど、ただお前の容姿を守備範囲に入れているようにしか見え―――――」


「教育」


「そっか。まあ、なんというか......頑張れ」


 薄れた意識の中であるためか、未だ近くにいる二人が何を話しているかわからない。しかし、それも次第に覚醒し始め、体を起こす。

 ......あれ? なんか肩が痛いぞ? 所長とやり合ってるときは反撃来ないからな~。どっかぶつけたとか?


「あれ? 結衣、こんな所でどうしたんだ?」


「どうしたって、それ今更―――――」


「今来たところ。調子はどう?」


「まあまあかな。ファンタズマにしても、違法ホルダーにしても弱かったらどうにもならなし。とはいえ、強敵は恐らく多いだろうし今のままだと不安はあるな」


「おい、こいつ記憶が......」


 ん? 所長の様子がおかしいな。俺を見て何かに驚愕している感じだ。俺の記憶が何だというのか? というか、あれ? 俺はいつの間に寝ていたのだろうか? ......まあいいか。


「あ、そうそう違法ホルダーで思い出したんですけど、敵が妙な言葉ばっかり言ってたんですよね」


「妙? 聞かせてみろ」


「確か自然(オリジン)タイプとか、あとテールムとか」


 俺がそう言うと二人は揃って互いの顔を見た。そして、“なんだそんなことか”といった顔をすると所長が答えた。


 「そういえば、まだアストラルの詳しいことは言ってなかったな。それに詳しいことは話すと言ってもいたな。それじゃあ、それについて簡単に説明するから一先ず着替えて会議室に集まれ。集まり次第始める」


 そう言って、その説明のために一時解散になった。

 俺は地下修練場にある室内シャワールームでサッと汗を流すといつものスーツを着ていく。もちろん、修理に出したやつとは別のだ。

 それにワイシャツに袖をまくって半そでなのでクールビズである......といっても、仕事以外の時だけだが。

 そして、俺は飲み物を買うために事務所から少し離れた外の自販機まで歩いていった。


「あれ? 来架ちゃん。どうしたの?」


「あ、凪斗さん」


 自販機に辿り着くとそこには来架ちゃん(先客)がいた。

 来架はドクペ(ドクターペッパー)のボタンをポチッと押すと取り出し口に落ちたドクペを手に取って、思いっきりグイっと飲んだ。


「ぷはー、相変わらず美味しいですね。こうも暑い日だと余計にそう感じます」


「まあな。でも、これからは台風で荒れるかもよ」


「にゃはは、まあその時はその時ですよ。あ、そうそう先ほどの質問に対して返答すると、資料整理がシュバッと片付いたので一休みでーす!」


「お疲れ様」


 俺はハツラツな笑顔を見せる来架ちゃんにそっと言葉をかけた。

 というのも、来架ちゃんが整理していた資料はもう一週間前のものとなったあの“宗教事件”である。

 推理マンガや刑事ドラマじゃ描かれたり、描写されたりしない事後処理の部分だ。それはタッグを組んだ場合、どっちかがやればいいのだが、それを来架ちゃん自らが買って出たのだ。

 まあ、俺も何もやらないわけにはいかないので、来架ちゃん(メイン)のサポートとして従順に働いていたのだが。


「ようやく本当の意味で終わったわけだな」


「そうなりますね」


 自動販売機の前に立つと500ミリリットルの緑茶と増量600ミリリットルの天然水を見比べて、天然水を購入するともう一つは緑茶を購入。そして、その緑茶は来架ちゃんに渡した。


「ドクペだけじゃ足りないだろうから。水分は大事だしな」


「ありがとうございます! それで凪斗さんは所長との修練終わりなんですよね? これから何を?」


「新人のための講習会さ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ