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第62話 昔と今は違うんですね(来架)

 俺は混乱が拭えなかった。

 まどろみの波が一旦なりを潜め、やや肌寒く感じて意識を覚醒させると近くにあった鏡はバスタオル一枚の俺の姿があるのだから。

 そして、その鏡から見える俺の背後からは来架ちゃんの姿が見える。

 幸い、来架ちゃんは服を脱いでいないが.......ってそういう問題じゃない!


「来架ちゃん!? これは一体......!?」


「ん? 服を脱がしただけですよ? あ、安心してください。バスタオルを巻いてからパンツをスッと脱がせたので!」


「ああ、よかった......ってそこじゃない! いや、そこもあるけど! そうじゃなくて! なんで俺の服脱がしてるの!?」


 俺の質問に来架ちゃんはキョトンとした顔をする。おかしい.......俺は至極真っ当な質問をしたはず。


「私は凪斗さんにちゃんと『治療するために一度傷口洗わないといけないので、ついでに体も洗いますので少し移動してもらいますよ』と。そしたら、凪斗さんも頷いていたじゃないですか」


 .......なるほど、何か言っていたのはそれだったのか。それに俺は頷いていない。あれは眠すぎて舟を漕いでいただけだ。

 それを来架ちゃんは頷いたと勘違いしたわけか......。


「来架ちゃん、それは眠すぎてうとうとしてただけだから。それに、俺が認めたのは腕の治療だけだから。まさかこうなるとは予想外だよ」


「なるほど、そういうことだったんですね。でもまあ、ここまで来たならやってしまいましょう!」


「あれ? ここって普通は引く流れでは?」


 おかしいな。選択肢やら言葉やらミスったか? でも、普通に考えれば“このまま洗いましょう”とはならなくね?


「大丈夫です! 昔、お母さんの背中流したことありますから!」


 それとはだいぶ違うんだけどなー。うーむ、このキラキラした瞳からは邪気を感じない。いや、むしろあの来架ちゃんがそっちの方に興味があるというのもおかしな話か。

 それで白衣は脱いで、靴下は脱いで......やはりと思っていたが、スラッとしてふと過ぎず、細すぎずのバランスの取れた足である。うん、すばら。


「足を見てどうかしましたか?」


「え? あー、ふと目に入っていい筋肉のつきかたしてるなと」


「わかりますか? できるだけバランスよく鍛えてるんですよ。目指せ、ボディビルダーの足です」


「それはやめときなさい」


 俺はため息を吐いた。この流れはもう無理そうだ。

 来架ちゃんはこの洗うのをあくまで治療の一環として捉えてしまっている以上、下手に断れば罪悪感を抱え込ませることになりそうだ。

 ここは腹を括って任せるしかない。ああぁ、神様、仏様、美脚様~。どうか、結衣と所長(あの二人)にはバレませんように!


 「せめてこれだけは」と来架ちゃんに言うと持ってきたタオルを目元に巻いた。

 来架ちゃんは不思議そうな顔をしていたが、これは大事な処置なんだ。俺がまだ生きているためにも。


 俺は来架ちゃんに手引きされながら、浴室に入ると風呂イスに座らされた。

 もちろん、視界は真っ暗だ。そのせいか握られた手の感触や周囲から漂う女の子のニオイをやたら敏感に感じる。

 異能を得てから体の基本的感覚神経は強化されたので、恐らくそのせいでより敏感に感じるのだろう。そうしないとマジうやってられない。心臓とか意味わからんぐらいバクバクしてるし!


「それじゃあ、背中をシャワーで濡らしますよ」


「ああ......」


 頭から少し水圧高めのお湯が散水して頭から降りかかる。そして、それは体にまんべんなくかけられると背中に泡立てられたタオルを当てられた。

 そのタオルは背中全体を几帳面に上下に動かしていく。思っているよりも力強くなく、とはいえ程よくて......ようは丁度良くて気持ちいいということだ。

 いざ体が荒いが始まってしまえば、先ほどの緊張はどこへやら。リラックスして、力が抜けていく。まあ、来架ちゃんだしな。


****


―――――【創錬 来架】視点――――――


 ......男の人の背中って少しゴツゴツしてるんですねって何を考えているんですか! 私は!

 あれー!? おかしいですよ、これは! 小さい頃はお母さんの背中を楽しんで洗っていたはずなのに、今はなんか.......ものすごくいけないことをしてる気がします!

 心臓は勝手にバックンバックンしてますし、心音とか聞こえてたりしないですよね!?

 と、とはいえ、切り出したのは私なんですし、しっかりと洗いませんと。


 私は凪斗さんの思ったよりも広くてこわばった背中を丁寧に肩から腰にかけて洗っていきます。

 その度にタオル越しから感じる肩甲骨の感じや背骨の感じがとてもゾクッとしますが、これはきっと変に緊張しているせいなのでしょう。


「背中、流しますよ」


「よろしく」


 凪斗さんの声は意外と穏やかですね。い、いや、それでいいんですけどね!? まあ、なんというか、考えてみれば変に思われてないでしょうか。

 そもそも私って一度宿泊先間違えて、とんでもない場所にチェックインしてたんですよね。そして、そこで見たテレビの内容が確か.......こんな感じでした!


「来架ちゃん? 頭はいいよ。自分でやるから......あの来架ちゃん?」


 テレビでは互いにバスタオル一枚だった男女が浴室にいて、状況は丁度今のように女性が男性の背中を洗っていて、それで頭を洗っていて、その次は、その次は.......


「ちょ、痛い痛い痛い! 力入りすぎ! 目隠しも取れてるから! それに頭から血が出るから! 噴水のように血が―――――まっ、急にシャワーは、ゲホッゲホ.......」


 そう確か正面でした! と、ととということは私も正面をやった方がいいのでしょうか!?

 でも、その先って確か女性が男性のあれをああして、こうして、そのあとに覆いかぶさって、揺れてああっ! ああああぁぁぁぁぁっ!


「落ち着け!」


「にゃっ!」


 思わずあの時テレビ見た内容を思い出して顔が真っ赤になり、頭が沸騰していた私に思いっきりシャワーがかけられました。

 頭からずぶ濡れになり、着ていた服は下着まで肌に張り付くような感じでピッチリとなっていて少し気持ち悪いです。

 とはいえ、そのおかげか少しだけ冷静に慣れました。


「少しは落ち着いたか.......あ」


「はい、おかげさまで。にゃはは、お恥ずかしいところを......ってどうしました?」


 シャワーを片手に微笑みながら様子を尋ねてくれたと思いきや、すぐに反対の手で口元を抑えて目を逸らしました。

 というか、いつの間に凪斗さんは目隠しを外していて、私は凪斗さんの正面で見上げているのでしょうか。

 というかというか、この構図ってあの内容と......ってさすがに考え過ぎです。


 そう思いながら、ふと凪斗さんが先ほど見ていた視界が気になりました。そして、自分の胸元を見てみると青いワイシャツが透けて、中のブラが見えれいる状態でした。

 それを見た瞬間、急に羞恥心が込み上がってきて.......なんでしょうか、やはり昔と今じゃ感じ方も違うし、それにやっぱり男女というのは意識するもんなんですね......。


 私は凪斗さんの顔を見ました。すると、チラ見してきた凪斗さんと目が合いました。


「にゃはは......」


「ははは......」


「見ちゃダメです!」


「げぼぁら!」


 凪斗さんの腹部に強烈な右ストレートを入れて、壁に叩きつけると急いで浴室から出ました。

 後で必ず謝りますから! 今は少し冷静にさせてくださいぃぃぃぃ!

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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