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第61話 油断の事案

「これでよしっと」


 俺は感電して失神している教祖に手錠をかける。この手錠も異能を発現させないようにしてある特別製のやつだ。

 そして、教祖の体を抱えるとそのまま2階に下りていく。


 そこでようやく一息吐けたような気がした。こわばらせていた体も、張り詰めていた神経も脱力していく気がする。

 無事に終わらせることが出来たのだ。しかも、殺すもことも殺されることもなく。

 正直言ってそれが一番大きい気持ちなのかもしれない。

 所長との訓練で戦闘における意識はたいぶ抜けてきたけど、やはり死に対する怒りや恐怖といったものはそうそう感じたいものではない。


「大丈夫でしたか!?」


 1階まで下りてくると未だ意識を失った様子のもと信者達のそばにそよかさんの姿があった。

 そして、そよかさんは抱えている教祖をチラッと見ながら近づいて来る。


「なんとか。それよりもこちらこそ、そよかさんを巻き込んでしまってすみませんでした」


「いや、それはむしろ謝るのはこちらの方で......たまたま姉さんを連れ去った教祖(この人)を見かけたので、尾行したら気づかれていたようでして......危険とわかっていたのにこのような事態を率いてしまってすみませんでした。そして、助けていただきありがとうございます」


「良かったよ、本当に。もうこれ以上失う人がいなくて」


 俺は思わず感極まりそうになった。

 本来守れるかもしれなかった二人の命を守れずに、三人目となりかけていたそよかさんを助けられなかったらどうなっていたか。

 終わったことだし考えることではないのかもしれない。しかし、それでもこうして再び会話できることに改めて実感が湧いて嬉しいのだ。


 咄嗟に涙ぐんだ目を手で拭った。その時、思わず抱えていた教祖を落としてしまったが、まあこれぐらいは許されよう。

 そして、涙を拭うとそよかさんに尋ねた。


「そういえばですが、俺が戻ってくるまでに信者達(この人達)に何か変化はありませんでしたか?」


「変化ですか? 姉の様子や周りの人は特に変化はなかったですよ」


「ないならそれでいいんだ。もしかしたらと思っただけだから」


 あの教祖のことだ、てっきり保険として信者に何かしてると思ったが、さすがにそれは思い過ごしだったらしい。

 まあ、警戒に越したことはないけど、今回の戦いからするに教祖は自分がまだ新人だと見抜いていたから油断したという感じだったな。

 それは戦う上では好都合だけど、きっと自分がしっかりと経験積んだ後だったらもう少しスマートに犠牲者を出さずにできたんだろうなと思う......さすがに自己評価が高いか。


「凪斗さーん! そよかさーん! 無事で良かったですーーーーー!」


 はつらつした声に俺とそよかさんは聞こえる方へと目線を向けると茶色のポニテの尻尾を左右にフリフリさせながら、ともに右手を大きくフリフリさせて来架ちゃんがかけあしで戻ってきた。

 その姿は犬そのものである。やはり思っていたが、来架ちゃんは犬属性か。


「凪斗さん、バチンと行きましょう!」


「ん? ああ、そういうこと」


 来架ちゃんは右手を上げたたままこっちに向かって来る。なので、その手に高さに合わせて俺も右手を上げる。

 そして、互いの手のひらを合わせてハイタッチ。

 来架ちゃんはハイタッチした手を嬉しそうに見つめると改めて無事を告げた。


「凪斗さんもそよかさん無事で何よりです」


「ありがとうございます。それと、私のせいで同士討ちをさせられるようなことになってしまい本当にすみません」


「気にしなくて大丈夫ですよ。そもそも、そよかさんのせいではありませんから。それにあれは犯人の使う手を知っていたにも関わらず、不注意で飛び込んでしまって操られてしまったのですから」


「それを言うならば、俺がまだ未熟だから来架ちゃんが心配して、駆け付けさせてしまったということだから、俺の方が悪くないか?」


「いえいえ、そもそもの原因を作ったのは私ですし―――――」


「でも、あれは私が注意していれば防げたことで―――――」


「いーや、俺が心配させるほど未熟だったのが原因で――――――」


「「「.......ぷ、ははははは」」」


 俺達は終わったことに対するしょうもない意地の張り合いに思わず笑ってしまった。

 しかし、こうして笑えるほどにまでなんとかこの事件に終止符を打つことが出来たのだ。


 俺の判断ミスや失敗もあったりした。もっと早く行動していればとか、あの時行動していればと考えることもある。そのせいで亡くしてしまった人もいる。

 それでも、これ以上は教祖(こいつ)によって新たな被害者が出ないとなるとそのことが無性に嬉しいのだ。

 これで少しはこれまでの被害者の無念は晴らせたと思う。それに、殺された人と同じように殺すことがその無念を、罪を解消させることではないと思う。


 しっかりと罪を償って、自分のしでかした過ちを認め、その上で被害者のために一生をかけて働いて生きる。

 まだ10代の俺が何かを言えた義理じゃないと思うが、こっちの方がよりしっかりと被害者に対しての償いが出来ていると思う。


「あ、警察の方が駆け付けましたね」


「それじゃあ、俺達も一度戻ろっか」


****


「ふぅ~~~~~~」


 警察に事情を全て話して、時間はもう少しで日付が変わるという時刻に返ってきた俺はホテルの自室に戻るとフラフラとした足取りでベッドにバタンと倒れた。

 やや少し沈んで丁度いい感じに包み込んでくるベッドが大変気持ちよい。あ~、ずっと会いたかったぜ、マイラブリーベッド~。もう離さないからな~。


「凪斗さんは風呂入らないんですか?」


「ん~、疲れて動く気にならないかな~」


「それでもシャワーぐらいは浴びといた方がいいと思いますが......あ」


「どったの?」


 ベッドの上でゴロゴロしながらスーツのジャケットを脱いでいるとふと俺を見ていた来架ちゃんの姿が止まった。

 その視線の先は俺のジャケットの方だ。そのジャケットの背面にはいくつもの弾痕があり、腕は破れている。


「それって、私のせいですよね......弁償します!」


「いやいや、いいよ。さすがに事情を話せば所長もわかってくれるだろうから。それに直してくれもするだろうし」


「ならせめて、その腕の傷を治療させてください! お願いします!」


「ちょ、土下座までする!?」


 来架ちゃんはその場でもの凄く低姿勢になると治療させてもらうことを頼み込んできた。それに対し、驚いて思わず上体を起こす。

 まあ、恐らくは俺を攻撃したことに未だ罪悪感があるのだろう。だから、そう言ってきたと思う。

 ならば、治療で来架ちゃんの罪悪感が薄まるなら頼むとするか。それに確かに傷があるのに治療しないというのもいかがなものだしな。


「ふぁ~~~~~~。それじゃあ、お願いするかな」


「わかりました!」


 来架ちゃんはビシッと敬礼......したような気がした。正直、もうまぶたが重すぎてよくわからぬ。

 疲れがピークに達してきたのが、体が強制シャットダウンに移行したようだ。頭がボーっとしてきて、頭がガクンと下がり始めた。

 そんな半分寝ているようなまどろみ中の一方で、来架ちゃんはせっせと何かを準備している。


「ここだと―――――で少し移動してもらいますよ」


「ん」


 来架ちゃんは俺の肩を持つとそのまま立たせてどこかへ移動させていく。どこかはわからないが、まあ必要なことだからやっているのだろう。


 そして数分後、強烈な眠気は一旦なりを潜めていった。

 俺は大きく伸びをしながらあくびをするとふと隣に鏡があることに気が付いた。

 ......ん? 鏡? あれ、ここって確か洗面所にしか鏡が無かったはず―――――!


「あれ!? なんで俺は服を脱がされてるの!?」


 鏡に映る俺は腰にバスタオル一枚というほぼ全裸といっても過言ではない状態になっていた。

 そして、背後には来架ちゃんの姿が見える。


「さて、始めますよ」


「ナニの治療をか!?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れたのは言うまでもないだろう。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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