第55話 脅迫電話
一本の電話が鳴った。それも俺のベッドに置いてあるスマホの方からだ。
突然の着信に少し驚きながらも、取りに行こうと椅子から立ち上がる。すると、スマホ画面を覗いたのか来架ちゃんがこんなことを言った。
「身元がわからない着信みたいです」
「え?」
俺の代わりに近くにいた来架ちゃんがスマホを取り、俺に渡す。すぐに画面を見ると「身元不明」という本来なら名前が出る場所にその文字が書かれているので、登録されていないところからの番号となる。
俺が電話に出ようとすると来架ちゃんがそれを止めた。そして、「少し待っててください」というと自分のキャリーケースを漁り始めた。
少しして来架ちゃんはキャリーケースから長めのコードを取り出す。そして、そのコードの一つをタブレット端末の充電部分に繋ぎ、反対側をイヤホンジャックにつなぐ。
「スピーカーで話してください。その時、私はこの場で音を立てずにジッとしています。私がいないと思って話を進めてください」
「わかった」
そういうと来架ちゃんはベッドの上であぐらをかくとその膝上にタブレット端末を置いて弄っていく。
床に座るとスマホを置いて、それを横目に通話をオンにした。
『もしもし?』
『やあ、僕のことは覚えているかな? 国家の警察さん?』
『お前は......教祖か!?』
『どうせなら名前で呼んで欲しかったけど、まあ君に言われても気分が乗らないしいいか。あ、そうそう。どうせ近くで聞いているんだろ? 死にぞこないよ』
“死にぞこない”とは誰のことか。いや、今の会話からして一人しかいない。来架ちゃんのことだ。
しかし、どうして急にそんなことを言い始めのか。
『僕は君に会った時から覚えていたよ。こう見えても物覚えはいい方でね。でも、君の方は忘れていたみたいだ。いや、忘れたかったのかな?』
俺の存在を無視して来架ちゃんに対して煽るような言葉をかけていく。もしかしなくても、来架ちゃんと面識があるのだろう。そして、来架ちゃんはそれを覚えていない。
......いや、本当にそうなのか? 来架ちゃんが先ほど独白した時に出てきた違法ホルダーの可能性があるし、なんとなくその可能性の方が高い気がする。
そっと来架ちゃんの反応を見る。かなりの挑発だ。さすがの来架ちゃんでも気分を損ねている可能性がある――――――っ!
来架ちゃんの顔を見た時、思わず体がゾクッとし寒気に襲われた。
来架ちゃんは自分の言ったことを守るためか静かであるが、タブレット端末の画面とにらめっこしている顔は殺気を帯びていた。
まさに不俱戴天の仇に遭遇した時のような顔だ。目線だけでも数人は気絶させられそうな鋭い感じになっている。
恐らくだが、通話している人物は来架ちゃんの過去に出会った人物で間違いない。ということは、来架ちゃんはそれを知ってて話したのだろうか。
ともかく、これ以上この話を逸らされたり、この場の空気を悪くしてもらっては困る。
『いい加減にしろ。誰に話しかけてるんだ? お前の敵は俺一人で、用があったから話しかけてきたのだろう? 早く要件を話せ』
『せっかちだなぁ、君は。そもそもどうして僕に君が警察だとバレたのか気づいているのかい?』
『それは俺が菅野さんを庇ったからだろ』
『それも確かにある。だけど、一番大きな要因はそれじゃない。僕の能力が君には効かなかったからだ』
『能力......?』
『おいおい、すっとぼけるのはよしてくれよ。本当はもう察しがついているんだろ? 僕の異能に。本当だったら僕は本当の意味で神になれるはずだった。しかし、その上で障害が生まれてしまったんだよ。それが君だ。君はどうしてか僕の異能が効かない。となれば、君はやがて神になる僕の障害になり得るということだ』
『だから、俺を排除しようと?』
『端的に言えばそういうことだ。けど、排除されるとわかっていて動く人間もいないだろう。だから、君が僕の場所に来ざるを得ない理由を作ることにした。ほら、さっさとしゃべろ』
教祖の音声に少しの雑音が聞こえてくる。恐らく通信している道具を動かした音だろう。そして、数秒後に聞こえてきたのは女の人の声だった。
『ごめんなさい、天渡さん。私のせいで......私のせいで......』
『その声はそよかさん!? どうしてそこに!?』
『この人はね、僕が狙っていた人だ。この人を狙うためにわざわざ姉を入信させて繋がりを作ったんだ』
『何をするつもりなんだ?』
『決まってるだろ? 美味しくいただくだけさ』
『......外道めっ!』
『ははは、なんとでも言えばいいさ。まあ、君達に依頼を出していたのは少々誤算だったけど、結果的には君を呼び寄せるためのいい口実になった。さあ、僕のところへと来てみてよ。あんまり遅くに着くとこの子の快楽に溺れた姿を目の当たりにしてしまうかもしれないけどね』
『おい待て! 今どこに――――――』
―――――――ツーーーーーツーーーーーツーーーーー
俺が場所を聞き出そうとした時には一方的に電話を切られてしまった。そのことに思わず床を殴る。
クソ、これは失態だ。まさか依頼人であるそよかさんを巻き込んでしまうなんて! いくら教祖が狙っていようともっと早くに犯人や原因に辿り着いていればこんなことにはならなかったはずだ!
悔しさが止まらない。自身への怒りが溢れ出る。握った拳に力が入っていくのを感じ、僅かに体にバチッと紫電が走る。
――――――ピーーーーーピーーーーーピーーーーー
突然部屋に鳴り響く警告音。感情の暴走が見られた時にチョーカーから鳴る音だ。その音がするのは―――――俺ではなく、横にいる来架ちゃんからだった。
そのことに俺は思わず驚いてすぐに来架ちゃんを見る。
「にゃはは、通話が終わったらさすがに感情が抑えきれなかったみたいです」
来架ちゃんは苦笑いしながら答える。つまりはそれだけ来架ちゃんも怒りの感情を抑えられなかったということ。
しかし、怒り以上のものだったら先ほどまでに表情に浮かべていたはず。にもかかわらず、安全装置の警告音が鳴ったのはたった今。
それだけ感情を上手くコントロールしていたということか。いや、「感情が抑えきれなかった」と言っていたのでまだ完全ではないのだろうが、それでも十分に......これが経験の差というものなのだろうか。
「来架ちゃんは知っててあの過去の話をしたんだね?」
「まあ、そういうことになります。先ほどは意図的に言わなかったのですが、私が対峙した違法ホルダーは額に傷があったのです。そして今回、菅野さんが教祖を押し倒した時に外れたフードから傷跡が見えました。それと先ほどの映像」
「もしかして俺に犯人とその使う能力を教えたくてあの話を?」
「それは違うと思います。全くない.......とも言いきれませんが、少なくとも私の抱え込みすぎたストレスのはけ口として凪斗さんに聞いてもらっただけで、恐らく......恐らく他意はないんです」
閉め忘れたカーテンから月光の光が刺す。電気すらつけていないこの部屋には僅かな明りだ。その明りがほのかに悲し気な表情を浮かべた来架ちゃんを照らす。
「まだ殺したいと思ってる?」
「......どうなんでしょうね」
その質問に来架ちゃんは素っ気なく答えた。すると、突然両手の頬を叩くと「よーし!」と言って立ち上がり、持っていたタブレット端末を手渡してくる。
そのタブレット端末を見ると地図が表示されており、一部の場所に赤いマークがついている。
「ただでは転ばないのが私です! ここからは私達の時間です!」
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