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第52話 惑う心

 俺はまたしても頭が真っ白になった。それは来架ちゃんの突然のビンタに対してた。

 しかし、それにはすぐに意味があるものだと理解した。というのも、通信が来たからだ。


『突然の行動、ごめんなさい! でも、これしかなかったんです! どうか私の顔を呆然と見てジッと脳内に話しかける言葉に耳を傾けてください。それではいきます』


 俺は来架ちゃんに告げられた通りに顔を見る。すると、その殺意の宿ったような目に思わずビクッと体が震えた。

 おおよそ来架ちゃんが絶対にしなさそうな表情だ。あれだ、普段温厚な人が起こるとメチャクチャ怖いやつ。


 来架ちゃんは大きく息を吸うと大声で告げた。


「全く何を考えているんですか! 私達は今何を見たのかわかっているんですか!? 神様が現れたんですよ!? そして、命を助けてくださったんですよ!?」

『落ち着いてください。こんな感じでいきますが、基本的に外の会話は好き勝手言ってるだけなんで無視ししてください』


 もの凄い剣幕とともに外から聞こえてくる声と()から聞こえてくる声に俺は思わず目を白黒させた。まさか言っていることと頭の会話を同時並行しているとでもいうのだろうか。

 そんなことを思っていると来架ちゃんの会話が続く。


「私達は奇跡を見ました。二度も見ました。それでまだ神様の存在が信じられないなんて......それこそ信じられないです!」

『外の言い分は基本凪斗さんの立場を守るためのものです。それで改心した振る舞いをしてください。そのためにも感情を抑えてください』


『わ、分かった』


「天渡さんは言ってましたよね? もう少しで就職が決まりそうだと。それもこれもここに来て神様に祈りを捧げてからじゃないですか」

『とはいえ、現状は最悪です。教祖さんが凪斗さんを不審がっています。確かに目の前で二人が亡くなられてしまったのはとても......とても酷く辛いことですが耐えてください』


『そんなの、耐えられるわけがない。このまま放置しろっていうのか!?』


「私の悩みは他の人達からすれば些細な悩みかもしれませんが、それでもここに来て変わったことはたくさんあります。学校の友達とも仲直りしたり、ここでも多くの友達が出来ました!」

『そうは言っていません。皆さんが菅野さんや凪斗さんに気を取られている間に、チョーカーから外部通信で警察に連絡を入れました。まもなく、“不審な音がしたと住民から通報があったので調べさせてほしい”という呈でここに警察がやってきます』


『そう......なのか。なら、ここで教祖を捕まえられるんだよな?』


「全てはここに祈りを捧げてから。私は神様の存在を信じます。そして、ある人は言いました『この世は全て必然である』と。つまりは二人が死んでしまったことも致し方ないのです」

『それはできません。証拠がないんです。私も何が起きてもいいようにチョーカーから録音してましたが、見た感じで原因がわかりそうにないのに、映像で証明できるとも思えません。故に、任意同行で事情聴取が関の山でしょう』


 チョーカーにまだまだそんな機能があったとはな......にしても―――――


『捕まえられないのか。確かに現行犯じゃないからな......クソがぁ!』


「私は信じています。二人は神の思し召しによって導かれた二人なのだと。そうでないと可哀そうじゃないですか。殺された美咲さんも罪を犯した菅野さんも必死に祈りを捧げていた信徒だったのです。報われるべきだと思いませんか?」

『しかし、逆に言えば証拠があればすぐに逮捕状をもって逮捕できるということです。問題はその証拠をどう掴むかということなんですが.......一先ずここで感情昂らせても何の意味もありません。私達の能力を一般市民に振るえば咎められるのは私達ではなく所長さんなんですよ?』


「『......確かに』」


 そうだ、いつだって部下のケツ持ちは上司に責任が及ぶじゃないか。

 所長はなんだかんだいって面倒見が良い人だ。俺の修行にも付き合ってくれた。その人に俺の身勝手な行動理由で暴れて、迷惑をかけることがあっていいのか?

 いやダメだ。それはしてはいけない。けど、そうするならば、目の前で死んでしまったこの悲しさはどこに向ければいい。抱え込んで我慢しろとでも言うのか.......くそぅ。


 俺は悔しさをにじみだしたかのように眉をひそめ、口元を歪めていく。握っていた拳に力が入る。

 でも、ここで冷静にならなきゃ。ここまで言ってくれた来架ちゃんのためにも、所長に迷惑をかけないためにも、犯人を捕まえるためにも。

 ごめんなさい。菅野さん、美咲さん。助けてあげられなくて。でも、必ず二人の無念は晴らしてみせます!


「『ごめん.......俺が間違ってた』」


「そうですか。うん、わかってくれたなら良かったです」

『凪斗さん凪斗さん、思ったことが口に出てますよ。まあ、上手くかみ合っていたのでセーフだとは思いますけど』


『そ、そうなのか!?』


 そう考えると確かに声に出してた気がする。でも、それに対して来架ちゃんがなんて言ったのかはさっぱしだけど。


 すると、そのやり取りを見ていた教祖が“うんうん”とうなづきながら拍手をし始めた。


「いやー実に素晴らしい。ここまで信心深い信徒がいるとは思わなかったよ。どうにも僕の言葉は君に()()()()ようだから、どうして伝えようと悩んでいたのだけど、いやはやこんなにも神を思ってくれる子がいるなんて自分のことのように嬉しいよ。さあ、皆さん。一人の過ちという足場から足を踏み外しながらも、見捨てずに助けた優秀な信徒に心からの拍手喝采を!」


 教祖はバンザイするかのように高らかに腕を上げると周りの信徒たちは一斉に拍手し始めた。まるでスタンディングオベーションと思われる音量の拍手を室内に響かせていく。

 その拍手に対し、来架ちゃんは恥ずかしそうに頭に手をつけながらペコペコと頭を何度も下ろしていく。あれも恐らく演技なのだろうが、この一件で来架ちゃんに対する価値観は大きく変わったな。


 やがて、教祖が拍手を止めるよう手を掲げると統一されたようにピタっと止まる。そして、教祖は来架ちゃんに告げた。


「急だけど、君に教祖代理兼補佐の役目を与えたい」


「なんですかそれは?」


「言わば僕の二番目に偉い人物さ。そして――――――神の依り代にふさわしい人物ということだ」


「!」


 来架ちゃんは思わず驚く。いや、それは仕方ないことかもしれない。

 なぜなら、その宣言は婉曲的に「次は君がターゲットに決定」と言っているようなものだ。そして、神という道に存在に肉体を奪われれば最後、来架ちゃんは犯される。


 教祖の手が来架ちゃんの肩へと伸びていく。ゆっくり。されど着実に。


 このままでいいのか? 確かに証拠を掴むためなら実際に神の受肉を体験することも一つの手だ。だが、それはもし成功してしまった後のリスクがあまりにも大きすぎる。

 けど、来架ちゃんは恐らくその未来がわかっていながらも、否定しなかった。つまり、本人にはリスク覚悟でそれをやる気があるということ。

 なら、指をくわえて黙っていうのか? どうする、どうする!?


 教祖の手があと少しで触れるというところで―――――――ファンファンファンというパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 その音に教祖は思わず「何事だ!?」と言いながら、振り向く。


「警察だ。この場にいるものは全員動くな」


 そして、数秒後に一斉に十数人の警察が押し入ってきた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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