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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第一章 ある意味ドキドキの展開
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第5話 勘違いとすれ違い

「え.......」


 俺は思わず漏れた言葉すら気に留めることもなく、目の前で立つ人物に対して目を丸くしていた。

 どうしてこんな所にいるのかわからない。いや、それ以上に手に持つその大鎌は一体なんだ?

 

 身の丈に合っていなければ当然ながらそれほどの大きさなら片手で持てるはずもない。

 しかし、二斬はそれが当たり前の如く片手で持っている。あまりにも自然的だから、俺の常識がおかしいのかと疑ってしまう。


 二斬の表情は俺が知っているのとはまるで全く違った。

 その顔は無表情でいつもならもう少し柔らかい目もロボットのように無機質だ。まるでこちらに対して感情のようなものが感じてこない。


 そして、服装もまた違って白いシャツに黒いネクタイ。夏場だというのにまるで姿を隠すことを目的としたかのようなカーキー色のフードにファーがついたジャンバー。

 それから、赤のチェックが入ったミニスカートに茶色のブーツ。

 秋ごろに来そうな服装は今着たなら暑いだろうにもかかわらず、汗一つかかず涼し気な顔をしている。


 しかし、俺はまだ目の前にいる人物がまだ二斬とは思えないでいた。

 それは見たことのないアホ毛と子供っぽくてつけないと豪語していた赤いリボン.......は(まあ、それも気になる部分ではあるのだが)置いといて、それ以上に気になるのはおおよそお目にはかからない紅い瞳。


 その瞳は昼間は普通の黒い瞳であったために違和感がすごい。

 そして、その瞳は僅かな月明かりと街灯に照らされて宝石のように透き通ていて、俺の瞳を釘付けにしていく。

 そのためか俺の意思とは無関係に金縛りのような感じがして動けない。


「ふ、二斬......?」


 俺は額から流れてくる冷汗を感じながら、目の前の人物に話しかける。当然、確認の意味でだ。

 その返事に冷たい声で答えられた。


「どいて。私がたとえそうであっても今のあなたには関係ないこと」


「.......」


 思わず言葉が出なかった。突然のことに未だ頭が困惑しているのかもしれない。

 だが、一部冷静になってきた思考は確かに聞いた言葉を反芻させていく。

 “どいて”?.......ってどういうことだ? 俺を狙っていたんじゃないのか?


 俺は腕に攻撃を受けた。そして、それによって飛び出た血は二斬の持っている鎌にも付着している。

 どういうことだ? でも、ここには俺しかいないわけだし、どう考えても俺に言っているよな?


「動かないで」


「無茶言うな!」


 どいてやら動くなやら支離滅裂なことを言う二斬はそう言うと両手で大鎌を持つ。そして、パワーバッターの如く大振りに構えるとそのまま一気にフルスイングしてきた。

 俺は咄嗟に頭を低くして避ける。ブゥンッ! と勢い任せの鎌が頭上のすぐ横を通り抜けていく。俺の髪が僅かに斬れ、宙から舞い降りてくる。やべぇ、マジかよ。早く逃げねぇと!


「待って」


 俺はバッグを咄嗟に持つと二斬を背にして一気に走り出す。恐らく人生最高のスタートダッシュだっただろう。

 すぐ後ろから二斬の制止の声が聞こえるが、ここで止まったらどう考えても命が足りない。斬り殺されるのがオチ。

 俺の傍にはインコが飛んできて()()()()肩に止まった。こいつ、人が生死かかっている時に! ともあれ、お前が生きていたのは何とも心強い。なんせ命の恩人だからな。


「待ってって言ってる!」


「おいおいおい、嘘だろ.......!」


 背後から二斬が追いかけて来る。そのスピードは俺が思っている以上......いや、俺が明らかに知っている常識を超えていた。

 待て待て、まだ一回も地面に脚つけてない状態でどうやって俺の背中まで近づけんだよ!?


 そして、二斬は空中を滞空した状態で大きく鎌を構えるとそのまま縦に振り下ろす。

 俺は咄嗟に跳んで避けるとその鎌は地面に突き刺さり、大きくヒビを作って、同時に破片をまき散らせた。


 その光景を見て思わず愕然とした。どう考えても高校生女子、それも幼児体形の二斬が出すような威力じゃない。

 もはや常人を超えている。生身の女の子が全身アーマーをつけたワールドクラスのボクサーにノーモーションのパンチを繰り出して一撃KO並みにありえねぇ! いや、そっちの方がむしろリアリティを感じる!


 俺の思考は常識が瓦解していくとともに、混乱していた。なんかおかしな例えまで出てしまっている。


「避けないで!」


「ふざけんな!」


 二斬は鎌を横に振る。俺はその軌道をもはや本能的に察知してしゃがんで避けていく。

 すると、その鎌は近くの石垣にスッと包丁で豆腐を切るかの如く、美しい断面で地面へと斬り落とした。

 その光景に対する俺の驚きは少なかった。もはや脳が麻痺していて、それが当たり前だと受け止めて順応しようとしているのかもしれない。


 それからも、二斬の猛攻は続いていく。それを俺は紙一重で避けていく。ある意味、自分が凄いと思えてくる。

 そして、凄いのが未だ俺の肩にまるで張り付いているかのように動かないインコ。


 実はさっきから無視していたが、こいつは「アホー」とじゃ「間抜けー」とか「バーカ」と後ろの誰か対しての悪口しか言っていない。

 その言葉はまさに火に油。しかも、着火したのは当然二斬の方。

 命の恩人であるが、どう考えてもこいつのせいで致死率が上がっている。


 俺はなんとかあらゆる路地を曲がって曲がって曲がって二斬の距離を離そうとする。

 しかし、二斬はピッタリと一定の距離を取りながら離れない。

 俺がどんなにフェイクの動きを仕掛けても、その上で一緒にくっついてくる。

 数秒後の動きでもわかるのかコイツは?


「クソ.......!」


「やっと追い詰めた」


 俺は無我夢中に曲がっているといつの間にか行き止まりにやって来ていた。

 そして、後ろには当然の如く二斬がいて、肩を大きく上下に揺らして呼吸をする俺に対して、二斬は微塵も息を切らしていない。スタミナ無尽蔵すぎるだろ。


 俺は二斬と向かい合いながらずっと手に持っていたバッグを強く握る。

 そして、ゆっくりと一歩後ずさりしていく。だが、同時に二斬も一歩足を前に進めるから距離は一向に伸びることもないし、なんなら壁にぶつかれば距離を詰められる。

 まさに絶体絶命だな。これはどうやって生き延びるか。


「なあ、二斬。どうしたこんなことをするんだ?」


「天渡は知らなくていいこと。でも、もうこれ以上天渡と会うこともないからそのまま忘れてくれても構わない。それよりもそのバッグを渡して。それとすぐにそいつから離れて」


「いろいろとどういうことだよ。それまでバッグを渡すわけにはいかない」


 俺は後ずさりし過ぎたせいか壁に背中が当たる。やばい、もう後ろまで来たか。

 にしても、マジでどういうことだよ。俺を攻撃する理由も、俺に教えたくない理由も、このバッグの中身のことも。そいつって誰だよ? まさかインコのこと?


 でも、どう考えても正直に話してくれる雰囲気じゃないな。一番いいのは動けないように捉えてから強制的に吐かせる.......とか?

 もう周りから見たら明らかにアウトな図だが、この際仕方がない。ともかく、何か、何か一瞬でも二斬の視線を動かせれば。


「チャンス、チャンス」


「!」


「ここだああああああ!」


 俺の願いが叶ったのかインコは言葉を叫びながら、肩から大きく羽ばたいていく。そのインコを二斬が視線で追っていく。

 このタイミングを逃さず、完璧な投球フォームで手に持ったバッグを二斬に投げつける。

 二斬はそのバッグをキャッチしようと思わず鎌を手放した。そこに一気にタックルして押し倒す―――――――


――――――ゾゾゾゾッ


 身の毛もよだつ感覚に襲われた。その感覚はまるで二斬の比ではない。

 全身から嫌な汗がドバッと出てくるのと同時に夏場にも、それにさっきまで走っていたにもかかわらず放熱していた体が寒さを訴えてくる。

 無性に嫌な予感がする。どう考えても悍ましい気配しかしない。


 そして、俺はその悍ましい気配の正体を無意識に目で捉えていた。

 それはいつの間にか二斬の背後にいたインコ。

 そのインコは気持ち悪くブクブクと体を急速に膨張させると体の体積を増やしていく。

 種類からしてセキセイインコあたりだろうそのインコは13センチほどの体調から3メートルほどの人型の化け物へと成り果てていく。


 一体どこにそれほどの増やせる体積があったのだろうか。それすらもわからない。

 もう既に瓦解した俺の常識はさらに粉微塵になるまで壊され、風に舞って目の前から消えていく。

 そして、その化け物は未だバッグに気を取られている二斬のに向かって翼から生えた鋭い爪で持って切り裂こうと振るう。


 ああ、そういうことか。二斬は確かに俺に対していろんなことを言っていたが、それは相手が俺だけじゃなかったからなんだ。

 “逃げないで”とか“避けないで”とか言葉足らずではあるけれど、ずっとずっと俺の身を案じて言ってくれたことなんだ――――――全てはあの化け物を殺すため。


 それに俺は気づかなかった。そもそも二斬がこんな力を持っていたのなんて今初めて知った。言葉足らずすぎるし、わかるはずもない.......とか言い訳なんてクソくらえ! 動けええええぇぇぇぇ!


「どけええぇぇ! 二斬いいいいぃぃぃぃ!」


「―――――――え?」


 俺は構わず二斬にタックルした。そして、二斬を庇うように体の向きを逆転させるとそのまま背中を大きく爪で切り裂かれた。

 雲がかかる月に紅い水滴が盛大に飛び散っていく。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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