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第46話 思わぬ遭遇

「はあ、どこもそこもしっかりとした情報はなかったな」


「犯人は相当用意周到なのかもですね。もしくは、知能を持ったファンタズマなのか」


 俺と来架ちゃんは明治神宮にある避暑地で周囲を囲む木々のマイナスイオンを感じながら、疲れを癒していた。


 俺達はそよかさんから話を聞いた後の3日間、午前中を使って被害者の家を訪れて改めて情報を集めた。しかし、基本的にはすでに調べた警察の情報しかなく、新しいのは手に入らなかった。

 そして3日目の今日、うだるような暑さから逃げるようにあれよあれよと歩いていると近くに明治神宮の敷地を見つけたので訪れたというわけだ。


 木々の隙間から青空が垣間見え、そこから陽の光が差してくる。しかし、大半は木々によってカットされていて、吹き抜ける風は存外涼しいものだ。

 風に揺られてざわめく木々もまた涼しさを和らげてくれるようで、とても気持ちがいい。

 これによって、暑さで溶けたスライムみたいな状態から固形の人型スライムまで元に戻ったのだから。


 とはいえ、これといって事件の進展は特になし。骨折り損のくたびれ儲けってところだ。


「来架ちゃん。俺、アイス食おうと思ってるんだけど、何か食いたい?」


「え、いいんですか?」


「別にアイスぐらいじゃ奢っても生活には支障はきたさないよ。もっとも、すでに落ちるところまで落ちてるし......ははっ」


「あちゃー、暑さで溶けた脳がまだ固まってないかもですね~。とはいえ、アイスはいただきます。なんでもいいです」


「わかった」


 俺は近くの売店でアイスを二つ買ってくるとその一つを来架ちゃんに渡していく。すると、キョトンとした顔をされた。


「凪斗さんがジャリジャリ君で、私がハーゲンナッツなんですけど......」


「ん? あー、気にしなくていいよ。たまたま一個しかなかったから一つを上げようと思っただけ」


「そう......ですか。ありがとうございます」


 来架ちゃんは嬉しそうに笑うと早速フタを開けて食べ始めた。美味しさが溢れ出るようにポニテが振れる。

 その笑顔に若干暑さすら浄化された気分になりつつ、俺も溶けないようにアイスを食べていく。


 しかしすぐに、来架ちゃんは何かを考え込むように動きを止めた。

 その行動を怪訝に思った俺は来架ちゃんに尋ねていく。


「どうした? 口に合わなかったとか?」


「いえ、そういうことではないんですが.......やはり微妙に私の気が収まらないかもというか......」


「奢ってもらったことに?」


「はい」


 変なところで律儀だ。せっかくあげたんだから気にせず食べればいいと思うんだが。まあ、こういうところもあるから来架ちゃんのバッグには後光が刺すのだろうな。(※凪斗の勝手なイメージです)


 そんなことを考えると「決めました」と来架ちゃんは席を立つとそのままアイスのスプーンで容器からアイスをすくう。


「少し近くに来てく前れると嬉しいです」


「???」


 来架ちゃんはすくったアイスを食べようともせず、そのまま反対の手で俺を手招きする。

 頭からはてなマークが浮いたような顔をする俺は少し腰を上げて、机に対して前のめりに上体を曲げていく。

 その瞬間、来架ちゃんのアイスをすくった手が鋭く飛び出した。アイスは俺の口の中に入り、校内にひんやりと冷たさを伝えながら溶けていく。


 来架ちゃんはサッとスプーンを抜くと笑顔で告げる。


「その......このお礼はまたするんで、今のは前金ってことで」


「!」


 この子はああああぁぁぁぁ! 急に何をするかと思えば、これって実質「あーん」をやってるのと同じって気づいてます!? いけませんよ! たとえそれがお礼のつもりでも! そもそも普通はお礼の前金でこれをチョイスしませんわよ!? そのこんところ徹底してもらわないと世の男子が不幸な目に遭いますからね! 気を付けてください!


 .......思わず心の中にいるリトル凪斗が荒げてしまった。 しかし、これは思ってもいいだろう。まあ、恥ずかしげもなくやり遂げるのはさすが――――――


「にゃはは、なんか、勢いでやってみたけど、すごい恥ずかしいですね......」


 やや顔を染めながらうつむきがちに言う。今まで見たことない恥じらいの天使の顔に思わず――――――プチパニック!


 恥ずかしいのですと!? なら、なぜやったし!? 全く勢い任せでもやっていいことと悪いことはありますのよ!? 足りないのは性知識だけじゃなくて、世の男性との距離感からでしたのね! 全くいけませんわ! ここら辺で一度しっかりとパーソナルスペースから教えませんといけませんわね!


「全くいけませんことよ!」


「なぜ急にマダム口調なのですか.......?」


 荒ぶるリトル凪斗よ。静まり給え。思わず心の声が漏れてしまっているではないか。

 ともかく、早く落ち着くことだ。こんなところ知り合いに見られでもしたら―――――――


「若いっていいね!」


 首にタオルをかけた小太りのおじさんに輝くような天辺ハゲと同じような笑顔でサムズアップされた。


「.......す、すすす菅野さん!?」


 口をパクパクさせながら告げたのは俺がムササップ教にて一番に仲良くさせてもらっている菅野さんで御年46といういい中年の小太りのおじさんだ。

 数年前に起こした一時の過ちというやつで長年連れ添ってきた妻と別れ、親権は妻に渡って娘とも疎遠になった悲しき過去を持つ男性だ。

 ちなみに、これは昨日菅野さんのお酒に付き合ったら聞かされた(酒は飲んでないよ。飲んだら殺されるからね)。


 心底冷えたような気持ちになりながら、少し震えた声で尋ねる。


「す、菅野さんがどうしてこんな所に?」


「夏だからって運動しないのもどうかと思ってね。ほら、こんな“たっぷん”という音がなりそうなお腹してるでしょ。けど、やっぱり暑いもんは暑いから涼みに来たら、いいもの見てね。そう、それは昔の学生時代の頃に妻にしてもらって.......うぅ、急に涙が.......」


「あーもう、すぐに思い出さないことですよ。ほら、落ち着いてください」


 人が幸せそうなことをしているのを見ると妻との楽しかった記憶を思い出すという悲しき性を持つ菅野さん。どうかもう報われてください。


「うぅ、ありがとう。それにしても、二人は付き合ってたんだね」


「え? ああ、そうなんですよ! たまたま一緒に入信してから離すようになって。ムササップ教は恋愛成就の効果とかあったりするんですかね?」


 何言ってんだ俺?


 咄嗟に誤魔化そうとああだこうだ言っていると菅野さんは嬉しそうに「良かったね」と言ってくれた。やはり根は良い人なのである。

 しかし、変化が起こったのはその次の瞬間であった。


「ただあそこには深く関わってはいけないよ。僕も近々辞めるつもりだしね」


 先ほどの朗らかに浮かべていた笑みとは打って変わったような底冷えするような無表情。あまりの急な変化に恐怖すら感じる。


 しかし、今の言葉はどういうことだろうか。

 菅野さんの発言から察するに菅野さんは何かを知っている。それももしかしたらムササップ教の闇に関することを。


 俺は来架ちゃんを見る。来架ちゃんは視線に気づくとコクリとうなづいた。


「菅野さん、先ほどは嘘をついてしまいました」


「嘘?」


「はい。実はこういう者でして.......」


 俺は胸ポケットから取り出した特務警察手帳を見せる。


「特殊任務......捜査官? もしかして、そちらの女の子も?」


 菅野さんの質問に来架ちゃんはうなづく。その事実に菅野さんは目を白黒させていた。まあ、当然だろう。しかし、ここで引くわけにはいかない。


「菅野さん。少しお話し聞かせてもらってもよろしいですか?」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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