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第44話 謎が残る一日目

 俺はすぐにありのままの状況を理解することが出来なかった。

 全員がまるで示し合わせたかのように一斉に両手両足を地面につけて頭を下げる―――――来架ちゃんもだ。

 緊張はない。しかし、あまり行動に驚きが勝って、異常とも感じる静けさの空気に気持ちが飲まれているだけだ。


 俺の理解を苦しめているのは来架ちゃん()ひれ伏しているということだ。

 ここにいる信者が新たに入信者が入った場合の時のあらかじめ考えられた行動だったら、多少は驚きはするだろが、今のように半分パニック状態で上手く考えられない状態ではなかった。


 来架ちゃんの反射神経がとても良くて、それで咄嗟に動いた......ってのはさすがに考え過ぎだよな。だって、今までずっと行動してたわけだから。

 これは.......なんだ? この場の空気が一変し過ぎだ。


「ふむ、そこの下賤はひれ伏さないのか?」


「.......」


「いや、あまりのことに驚きが勝って言葉(ことのは)がしっかりと伝わらなかったのか。ならば、今一度言う――――――ひれ伏せ」


 俺はその言葉を聞いて思わず我に返るとすぐに周りに合わせる。

 来架ちゃんを含めた全員の行動がわからない以上、この場に起こっている()()を崩してしまえばここにいられなくなる。それだけは不味い。


「ようやく伏したか。まあ、下賤の民は70億ぐらいいると聞くしな。今になればほとんどがデジタルの時代。信仰心が薄れ、多少効きにくい者もいてもおかしくはない、か」


 自称神はそのような言葉を呟いていく。どうやら難は逃れたらしい。しかし、この異常事態の説明の理由は未だつかない。


「それで? 代理よ、後ろにいる服装の違う者が今回の入信者ということだな?」


「その通りでございます」


 代理と呼ばれた緑髪の教祖は顔を少しだけ上げると嬉しそうに答えていく。それに対して、自称神の見る目はあまりにも冷めていた。敬愛してくれている信徒に対してそのような態度は当たり前なのだろうか。


「ふむ、そうか。まあ、今回は見に来ただけだ。我はもうこの場から離れる」


「はっ、突然の来訪、誠に恐悦至極の境地にございます」


「よい。これからも熱心な信仰に励むがよい」


*****


「一ニョッキ、ニキョッキ、三ニョッキ.......」


「やっぱ、あの合掌したまま頭上に手を挙げる行為ってそうしか思えないよな」


 時刻は夜7時過ぎ。今は新しいホテルにいる。先ほどあった出来事から帰ってきてしばらく経ったところだ。

 

 俺はしばらくあの謎の現象について一人で考えていた。しかし、さっぱし原因がわからずドン詰まり。

 やはり来架ちゃんの行動の部分がネックになっている。そこについて来架ちゃんから聞かなければいけないのだが......未だ聞けずに、気づけばニョッキを始めていたという感じだ。

 とはいえ、やはり聞かないのはまずい、よな?


「来架ちゃん。今回のことで何か気になったことあった?」


「気になったことですか.......えっと、教祖さんの視線に思わずゾクッと震えました」


「あー、それは生理的嫌悪感というやつだよ。覚えときな」


 こんな純粋な子にあんな無粋な輩は近づけさせん......ってそうじゃないそうじゃない。

 しかし、今のは遠回しに質問した俺にも非があるか。なら、次はストレートに。


「降臨した神が『ひれ伏せ』って言った時に来架ちゃんも一緒にひれ伏したよね? あれってなんで?」


「なんでと言いますと.......なんというか私自身もよくわかんないです」


「というと?」


「頭がフワフワ~として気がついたら伏せていた感じで。私も何やってんだろう、と思ったんですけど」


「来架ちゃん自身の記憶も曖昧.......?」


 少なからず捜査の一つとして行動している以上、来架ちゃんが嘘つくとは思えないし、つけるようなタイプでもないだろう。

 となると、本当にあの自称神が人に強制力を働かせたというのだろか。しかし、それだと俺に効かなかったのはどうして?


「あ、気になったといえば、終わった後の美咲さんはどうなったんでしょうか?」


 不意に来架ちゃんが訪ねてくる。それは自称神が消えた後の話だ。

 自称神が消えた後、母体となっていた美咲さんの体はバタンッと意識なく後ろ向きに倒れた。しかし、その後別の男性に話しかけられてその後は見ていなかったのだ。

 来架ちゃんもその時はそよかさんのお姉さんと接触しているころだと思うので、何があったというのか?


「どうって?」


「たまたかもなんですけど、教祖さんが美咲さんの体を抱えると応接室の方へと行ったきり出てこなくなってしまったんですよ。しかも、教祖さんが入った部屋に入ったタイミングで入り口にいた強面さんがその扉を守護するように立っていたんです」


「あのハゲ男が.......」


 その話が本当なら確かにタイミングが良すぎるかもな。なんせ、自称神が現れた後のあの空間はとても静かだった。

 それに最初の騒がしい祈りをしていた時も、扉を抜けてさらに階段を上ったところにいるハゲ男まで聞こえてくるだろうか。

 もう明らかにきな臭いが何よりも証拠がない。はあ、ここは地道にやっていくしかないか。


 それはそれとして。


「来架ちゃん。俺、部屋分けたはずだけど、どうして一緒の部屋なの?」


 このビジネスホテルの予約を取ったのは俺だ。そして、取った情報は共有してある。しっかりと男女別にした。

 しかし、今いるのは一室でダブルベッドだ。そこだけが唯一の救いか。


「え、一緒に夜を過ごした仲じゃないですか」


「そんな純粋な目で見られても......」


「それに私達がそれぞれで集めた情報はすぐに共有した方がいいと思いますし、相手が違法ホルダーで手練れの場合、一人の方が死亡率が高くなります」


「まあ、そうかもしれないけど」


「それに所長は『バディと同室なのは当たり前だ』って言ってましたし」


 その場合のバディは大抵同性で組む場合が多いからとかそういう理由が裏でありそうなんだが.......それを説明した所であんまり伝わんないだろうな。

 “同性と異性で何が違うんですか?”とか言われて。昨日のことを含めて言ってもきっと“信じてますから”の一言で終わりそう。ああ、ここは俺が負けて我慢するしかない。


 俺は自分のベッドで横になる。汗でべたついたワイシャツが肌につく。ネクタイを取ると荷物が置いてある方に投げる。

 冷房を聞かせているため、第一ボタンを開けたワイシャツから冷たい空気が流れ込んでくる。熱を持った体を冷やしていくのでとても気持ちいい。本来ならワイシャツなど脱いでいるが、ここは来架ちゃんがいるから我慢だ。


「それじゃあ、私は先に汗流してきます」


「ああ、わかった」


 俺はそのままの体勢で返事すると胸ポケットに入れていたスマホを手に取る。そして、何気なくムササップ信徒や教祖が着ている白い服の背中にあるクジラのロゴについて調べ始めた。

 いや、厳密にはその動物が表す意味と言うべきか。


 ある程度の動物にはシンボル的な意味があったりする。

 犬が“忠義”や“献身”の象徴だったり、鳥が“時間”や“魂”の象徴だったりと。まあ、一概にそうである保証はないのだが、そんな意味もあったりする。

 それ故に、ふと気になったのだ。たとえロゴを作るとしてもそういうのは何かを意味して作るものではないかと。

 まあ、ただ当然のように作者本人が好きだからって言う理由もなくはないけどな。


「それでクジラはっと.......あ、あったあった」


 俺はだらけたながら、ぼんやりとそういうシンボル的意味がまとめられたサイトをタップして開いては、指を動かして眺めていく。

 そして、三つ目のサイトあたりでクジラのシンボルに触れた記事があった。


「クジラのシンボル的意味は“包容” “悪魔” “ずるさ” “色欲”か」


 1つ以外ロクなこと書いてねぇ~。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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