第42話 ムササップ入信
翌日、俺達は夕方ぐらいになるまで昨日でファンタズマの跡を調査していく(しっかりと別のホテル取ったよ)と再びそよかさん宅に訪れ、現物の名刺を拝借した。
これは名刺にの中にあるマイクロチップとかを警戒するため。
技術が進歩して極薄になったマイクロチップはいろんなものに使われている。その中がこの名刺である。
警察と詐欺のイタチごっこは現在まで続き、ましてや行動力高めとなった詐欺グループは企業の電話を盗み聞きして、姿を装って取引先に現れたりするらしい。
そして、そこで不利な状況で違法契約して、会社を倒産寸前まで追い込む。そこに善人を装った悪魔が助けに行って後はとんとん拍子。
そんな過去の事件から、会った時に交換する名刺に会社ごとに決まったマイクロチップの型で本人かどうか確認するらしい。
どうしてこんな話をしたかと言うと、それが防犯のためばっかなものじゃないということだ。
つまり―――――――
「ここ明有事務所があるオフィスビルの地下だったよな。住所もそうだし」
「そこにいる怖そうな人がいるからそうかもしれないですね」
そよかさんの家からしばらく歩いた人通りの広めの道。
オフィスビルの入り口の横にある細い道には下に続く階段が見える。そして、すぐ入り口には「ムササップ世界平和信仰宗教」という電飾付きの小さな看板が置いてあった。
恐らく“ただの平和を愛する清き集団”であるための証明だろう。まあ、こればっかりじゃ何の証拠もないし、他にもいくらでも似たようなのはあるしな。
それから、来架ちゃんが言ったようにオフィスの入り口ではスキンヘッドでグラサンをかけ、黒いスーツを着たいかにも用心棒という感じの男が一人立っていた。
正直、あの人より自分の方が強いような自覚はあるのに、ああいう人ってどうして怖く見えるんだろうね。
ちなみに、余計な警戒をされないように手ぶらにして、皮手袋は外してある。
「あのー、すみませーん!」
「あ?」
気が付けば来架ちゃんが隣におらず、スキンヘッドの男に話しかけに行ってた。
さっき「怖そうな人」とか言っていたのに凄まじい胆力だな。
「何の用だ?」
「実は、ここに入信している人から聞いてやってきたんですが.......あ、後ろから歩いて来てる人も入信希望者です」
ども、入信希望者です。
ハゲ男は俺と来架ちゃんを見比べると「証拠を見せろ」とぶっきらぼうに言い放った。
そうこれが、つまり“本当に紹介されてやってきた”のかを調べるためのマイクロチップ名刺だ。まあ、登録された人しか入れないようになっている扉みたいなものだな。
俺は「すいません。名刺、一つしか持ってなくて」と少し下手に出て余計な荒事を立てないような態度を取りながら、名刺を渡していく。
ハゲ男はズボンのポケットからスマホを取り出すとそのスマホを横向きに持ち、反対の手で持った名刺を光を当ててスキャニングしていく。
ピピとなってスマホを見て何かを確認すると「入れ」とだけ告げて階段を降り始めた。
来架ちゃんと顔を合わせてうなづき合うとハゲ男の後ろをついていく。
降りた先の右手側にある扉をハゲ男が開けると「教祖様、入信者をお連れしました」と恭しく頭を下げる。
扉に先にあった空間は割りに広く、一部の部屋を除けば後は宴会場ぐらいに見えなくもなかった。また、つまらないほど白一色で、その空間に多くの信者がいた。
信者は統一して白いの袖付きのロングワンピースみたいなのを着ており、少し黄色のラインが袖や胸元辺りにあるだけのシンプルとしたデザインだった。
その信者達は等間隔に座りながら、合掌し瞑想している様子であった。
「やあやあ、君達かい? 新しい迷える子羊たちは?」
声をかけてきたのは信者と同じく白いワンピースっぽい服を着て、フードを被った男だった。フツメンだ。瞳は髪と同じ翡翠色をしている。
教祖......と呼ばれるにはとても若々しい感じだ。大体同年齢ぐらい。
「はい。少し悩みがありまして。それを知り合いに相談したら、ここを『頼ってみればいい』と言われまして」
「そうかい。そちらの方も?」
「はい。私も同じ知り合いの方に。お隣さんでしたので」
「.......なるほど」
そう言いながら翡翠の瞳を上下に動かしていく。俺の時はにこやかな笑みを浮かべるだけだったのに、来架ちゃんにはこの反応.......。
「それではこちらに。入るにしても少しお話しが必要だからね」
男は基本的ににこやかな笑みを浮かべるとこの空間の唯一ある部屋へと案内していく。
そして、扉を開けて先に俺達に入るように促していく。紳士さをアピールしている感じだろうか。
しかし、この部屋も内装白一色って。あるのは二つの向かい合ったソファに、間にある机。そして、給水場所のシンクがあるぐらいじゃないか。
「さあ、遠慮せず座ってくれ。お話をしよう」
そう言った緑髪の教祖は隣りにいる来架ちゃんのわざわざ向かい側に座った。当然、教祖の方には誰も他に座っている人がいない。
ここまで露骨だと。いっそのこと笑えてくる。
しかしまあ、一つ不安が取り除けたのは良かった。
それは知り合いの伝手ということで、そよかさんの姉を連れてこられることだ。そうなれば、ここまでスムーズに入れなかっただろう。
「僕はこのムササップ世界平和信仰宗教の教祖をしている【手句膜 真矢紺】という者だ。まあ、皆は普通に“教祖様”と呼ぶけどね」
そう言えばそんな名前だったな。まあ、そっちの方が呼びやすいしね。
「それでこのような場所に来られるということは悩みがあってということでしたので、その悩みを聞かせてもらってもよろしいかな? 微力ながらあなたの人生の幸福を祈りたいからね」
優しい口調で告げてくる。いかにも“騙してきましたよ”感が出てる声だ。いや、さすがに疑い過ぎて偏見になってるか? まあ、今回は疑ってなんぼみたいなものだ。基本心の中では不信を貫こう。
俺は一回わざとらしく咳払いする。そして、チラッと来架ちゃんを見る。目が合った。スタートだ。
「俺、実は就活してまして。ですが、高校をわけあって中退したせいで上手く職が見つけられないでいて」
「そうかい。それは大変だね。まあ、今どきは大抵のものがロボットに成り代わる時代だからね。働き口というのもどんどんなくなっていく。そもそも、不調になったり、その日その日で調子が変化する社員に人件費を当てるより、一日の活動量がどれだけ日を通しても変わらないロボットの壊れた際の修繕費に当てる方が効率的かつ合理的だからね。仕方ない部分はあるよ。それでそちらのお嬢さんは?」
おう、ウソ発見器を使われてもバレないように微妙に真実を交えて言ったら、すごい量で返ってきた。この人もそんな荒波に飲まれていたりしたのか?
「私は人間関係で困ってまして。いつもバカみたいに明るく振舞ったりしてるんですけど、それが周りには癇に障るみたいで......」
シュンとした顔でポツリポツリと言葉を吐いていく。その言葉が妙に本音っぽく聞こえて.......え? ガチじゃないよね?
「友人関係はまた複雑だからね。女性は古来よりコミュニティを大事にする生き物だし、そのコミュニティにもいろいろと特色があるものさ。少し酷い言い方になるみたいだけど、もしかしたらそのコミュニティとは肌が合わないのかもね。実際に見たことないからこれ以上深く言及することは控えるよ。たとえ知らなくても友人をバカにされるのはいい気がしないだろうしね」
まともだ。だからこそ、うさんくせえ.......まあ、疑ってみてるからってのもあるけど、あまりにも誠実さをアピールしているようにしか見えない。
話も思い返せばありきたりにも感じるしな。
教祖はその場から立ち上がると俺達に告げた。
「疲れた心には神の祝福の癒しが必要だ。今日は研修生として体験してみるといい」
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