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第41話 捕まりたくないので全力で回避します

 ば、ばばば、バカな。こんなことがあり得るのか。だって、ラブホだぞ? ラブホ。営みの聖地みたいな場所じゃないか。

 確かに、この言葉は学校の保険体育でもあんまり出てこないけどさ、来架ちゃんがしっかりとした学校に通っているかどうかわからないけどさ、少なからず警察組織に属する位置にいる以上は一般教養っていうのは習うはずだよね?


 義務教育の中にも保健体育ぐらいあるだろうし、まあそこでラブホなんて言葉が出てこないにしても、思春期真っ盛りな男子が調子乗ってラブホとか叫んでなかった? あれ? 俺の人生の中だけか?

 いやいやいや、一人ぐらいはアホはいるはずだ。その中でラブホぐらい言っててもおかしくないだろう。それに性犯罪者も取り締まったりするはずだから、そういう事件とか立ち会ったこととかない? ないなら仕方ないけどさ!


「どうしたのですか? そんなにうろたえて」


 そら、うろたえるわ! まさか存在を知らないなんて。恐らくラブホなんて結衣でも知ってるはずだぞ? きっと、恐らく、たぶん......自身無くなってきたなぁ~。


「あ、えあ、その.......少し頭冷やしてくるわ!」


「あ、お風呂ですね。どうぞ」


 俺は相変わらず何も知らなそうに可愛らしく八重歯をチラ見せする笑顔に見送られながら、浴室へと移動していく。

 一先ず気を落ち着かせよう。あまりの事実に動転してしまって6回ぐらいラブホって言葉を連呼してた。

 服を脱いで、シャワーを浴びてサッパリしよう。無駄に浴室デカいな。お、浴槽にお湯が溜まってる。

 入ってきて誰も風呂場に近づいてないから、センサーとか時間帯とかで勝手に入れてくれたりしてるのかな。便利~。


「くっは~。気持ちええぇぇ~」


 体もしっかり洗ったし、浴槽でゆっくり―――――――してる場合じゃねえええええ!


 いやいや、俺よ。俺さんよ。何をのんびりゆっくり風呂に入ってるんですかい? なんにも問題は解決してないじゃないか。

 それに風呂て。風呂て。なんか本番前に体を清めてるみたいであああああ! ダメだダメだダメだ! 考えるなああああああ!


「にゅ!? 凪斗さん!? お風呂で何かあったかもですか!?」


 ガチャリと浴室の扉が開く音がする。やっべ、声に漏れてたか!? というか、躊躇なくドアノブ捻れるな!

 しかし、これ以上あの子を汚すわけにはいかない。


「いやいやいや、大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて。ね?」


「私は十分に落ち着いてるんですけど.......」


「そうだね。落ち着いてないのは俺だったね。ごめんね。ちょっと精神統一するからもう少し待ってて」


「え、あ、はい」


 来架ちゃんは浴室を出ていく。その音を聞いて思わず深い息を吐いた。難は去った。まあ、肝心な難は去ってないんだけど。

 でもまあ、なんというか一周回って冷静になってきたな。浴槽に入ってる効果もあったりするんだろうか。

 .......相変わらず、髪の毛が軽く尖ってんなー。


 とにもかくにも、少し落ち着いて思ったのだが、来架ちゃんがここがどんなホテルか知らなければ、ただのビジネスホテルになるんじゃね?

 まあ、そうだよな。来架ちゃん、明らかに卑猥なブツに気付かなかったもんな。あの棒なんか知らずに弄ってたし。


 ......うん、そうだ。俺が理性の化け物になって。この場を乗り切って、明日朝市から別の()()()ビジネスホテルを当日予約すればいいよな。

 しかし、どう来架ちゃんにこの一般教養を伝えたものか。とても俺の口からは伝えられないよな。


 浴槽のお湯を両手で救うとそのまま顔にかけた。それから、前髪を上げるように指を髪にすかしていく。そして、フィニッシュの伸びをして終了。さて出るかな。


 .......お湯、入れ替えた方がいいかな?


 その後、勢いで風呂場に来てしまい着替えがないことに気付く。そして、仕方なくノー下着でバスローブ巻いて脱衣所を出た。

 平静を保て。平静を。なんかいかにもみたいな格好してるけど、全然違うからな。俺、逮捕され(死に)たくないからな。


「来架ちゃん。お風呂出たけど、どうする? お湯入れ替えよ―――――――」


「にゃ!? ははははい、にゃんでしょうか!?」


 来架ちゃんは上ずった声で勢いよくリモコンでテレビを消した。


「........」


「にゃは、にゃはははは。バッと頭冷やしてきます!」


 勢いよく俺の欲を通り抜けるとビシャンッと脱衣所の扉を閉めた。

 一先ず俺はちゃっちゃと持ってきた寝巻(といっても、Tシャツに短パンだが)に着替えると背筋を伸ばし、大きく深呼吸。

 よし、いやーな予感がするけど、確かめないことには始まらないぞー!


 俺は来架ちゃんが先ほど座っていたベッドに座る。そこが丁度テレビの正面に当たるからだ。

 そして、無造作にベッドに置かれているリモコンを持つ。ふと見ると床に卑猥な棒が落ちているのは真実に気づいてしまったからであろうか。

 思わずたまった唾を飲み込むと勇気を振り絞ってリモコンで電源ON―――――――テレビに広がったのは想像通りのピンクのモザイクがかかりそうな絵面であった。


 しかも、真っ盛りかよ。あー、これは刺激が強い。うん、とても強い。健全な男が誰にも秘匿されない場所で見るタイプの類だ。きっと気分転換にテレビを見ようとしたら、おっぱじめた映像が流れていたのだろう。

 すぐさま電源を切る。ここで俺も劣情を抱いてしまったらどうしようもない。行くのは一つ、お縄ルートだ。


 ともあれ、これでここがどういう場所なのか来架ちゃんは意図せず知ってしまったわけだ。

 まあ、俺的には来架ちゃんのこれからのためにも十分な一般教養であるからして良いと思うのだが、問題はこの場に()がいることだ。

 さすがにここに俺がいるのは安心して寝れねぇよな。相手が結衣だったらまだ何か言えたのかな.......バッドエンドしか見えねぇ。

 仕方ない。ここは俺が外で一徹でもするか。潰し方はどうにでもあるだろ、きっと。


「あ、上がりました......」


 俺がそんなことを考えていると脱衣所の扉が開き、来架ちゃんが出てきた。

 来架ちゃんは白いバスローブを纏っていて、美しい濡れ茶髪が背中まで伸びている。また、バスローブの腰紐の下からは白いスラッとした足が見える。

 そして、風呂上がりのせいでいつもより上気した顔が普段の元気さの代わりに、けなげな可愛らしさを醸し出している。

 いかんいかん、そんな見るな。それにしても、この距離からでも風呂上がりのシャンプーのニオイがしてくるな。


 できる限り、平静を装って―――――――


「今日はもう疲れたし、寝よっか」


 やべ、なんか行為の隠語的言い方になった。いや、考え過ぎか。うん、考え過ぎだよな。


 来架ちゃんはその言葉にコクリとうなづく。


「そういえば、寝巻とか持ってきてないの?」


「あ、持ってきてるかもですけど、こっちの方がいいかなと」


 何をもってこっちの方がいいかなと?


「どういうこと?」


「そ、それは......あ、あう.......い、言えません」


 .......なるほど。察したぞ。まさかここで行うと思っているのだな? 大丈夫だ。ここはしなければ出られない部屋とかじゃないんだ。しかしまあ、もうこれ以上遠回しな表現はきついかな。


 そう思って俺は来架ちゃんに伝えた。このホテルの全貌を。余すところなく全て。


―――――――数分後


 俺は机のある椅子に座っていて、その向かい側にベッドに座った来架ちゃんがいる。

 そして、来架ちゃんは告げた。


「無知って恐ろしいですね」


「すまん、俺もそう思った」


 来架ちゃんは顔方火を噴きそうなほど真っ赤にしながら、黄色を基調としたひまわりのパジャマのズボンをギュッと握る。

 理解力があって何よりだ。まあ、もう俺もおしべやめしべみたいに婉曲表現を使わずに保健体育でやるような教え方したしな。そうなってもらわなくては困る。え? どうして説明できたかって? それは企業秘密だ。


 ともあれ、これで残す問題はあと一つとなったわけだ。


「それじゃあ、来架ちゃん。そういうわけだから、ここで俺と二人きりなのは嫌でしょ? だから、俺は外で適当に時間潰してるよ」


 もしかしたら、ファンタズマを減らせるかもしれないしな。


「ま、待ってください!」


 俺が立ち上がった同時に、来架ちゃんが俯かせていた顔をバッと上げる。相変わらず頬が赤みを帯びている。


「夏とはいえ、外で寝るにしても風を引きますし、それに寝ないとしても仕事に差し支えるかもしれません」


 そう言われると痛いな。


「けど、こう嫌な事実を知ってしまったわけだし、一日ぐらいなら大丈夫――――――」


「わ、私は!......凪斗さんを信じてます」


「.......なるほど」


 来架ちゃんの声がだんだん尻すぼみになっていく。不安はやはりあるのだろう。

 いや、思わずなるほどって言っちゃったけど、何がなるほどなのか。それに俺ってそんなに来架ちゃんの信頼度上げたことあったけなー? もしかしたら、信じやすいのかもしれないけど。


「凪斗さんは不誠実ですか?」


「誠実に決まってるじゃないかー!」


 そんな上目遣いされたら断れるわけないじゃないかー! この娘は恐ろしいな。天然天使と見せかけて、天然小悪魔かもしれない。


 「なら大丈夫ですね」とパッと晴れやかな笑顔を見せるとクイーンベッドの掛布団をめくり、左端に座って手招いてくる。

 あまりの警戒のなさに心配になるが、これ以上不誠実さを取るわけにはいかない。


 俺はあいている箇所に座ると来架ちゃんに寝るように指示される。そして、寝るが仰向けは気まずいので横向きになる。

 電気も消して、時間帯的にはどこのカップルも真っ盛りというところだろう。

 横から容赦なく香るシャンプーのニオイはもはや暴力的であった。相変わらず心臓の鼓動は早いし、寝れねぇー。


 すると、隣から笑い声が聞こえてきた。


「ふふふ、なんかおかしいですね。とんでもない間違いをして、すごく恥ずかしいのに、不思議と面白くて笑えてきます」


「そっか。笑えて吹き飛ばせるならいいんじゃないか? まあ、今後は気をつけろよ」


「にゃはは、ここまで印象的だと忘れる方が難しいですよ」


「......確かに」


「それじゃあ、明日は頑張りましょうね」


「ああ、頑張ろう」


 その言葉を最後にこの部屋に静けさが訪れる。壁が厚いのか隣から声が聞こえてこないのが幸いか。


 ともあれ、隣からのいいニオイが漂い過ぎて全く寝付けないが。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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