第40話 理不尽な事案
少し時間をさかのぼってみよう。
俺達は空から降り注ぐギラギラした太陽の日射しと時折吹く温風にグロッキーになりながらも出来る限り広い範囲を調べていた。
そりゃあ、周りから白い目で見られることもあったし、夏にもかかわらずクールビズ関係ないスーツにはうんざりしたさ。
でも、俺達は調査を続けた。そして、この範囲での大まかな情報は取れた。
確かに依頼人近くでいくつかのファンタズマの痕跡を見つけた。
その足跡はいわゆるゲソ痕と違って数日経ってもアスファルトの上であろうと雨が降ろうと残っている。
そして、あらかた調べ終わった(当時の時刻は午後5時頃)後は来架ちゃんの提案でその跡を追ってファンタズマを相当しようというものだった。
まあ、それは良かったのだが、問題は荷物だ。一応数日日程の調査であるので、泊まり込み前提である。そのため少なからずの余計な荷物はあるのだ。
故に、それは置いていくべきだと考えていた。しかし、ここからは俺は3つの大きなミスを犯した。
「来架ちゃん、時間かかるかもしれないけどさ。一度邪魔な荷物置いて来ない? というか、そもそも俺達ってホテルとか取ってたっけ?」
「にゃはは~ん。そこら辺は抜かりないですよ。実は先ほど見つけたホテルで予約を貰ってきたんです。といっても、そもそも泊まるホテルの予約を取ること自体忘れていたかもなんですけどね」
「確かに。俺も不注意だった」
ミス➀ 泊まることはあらかじめ知っていたのにそもそも予約を忘れる。
「にしても、今のご時世でよく取れたな。当日予約も出来る場所もあるけど、前々からあった予約の方ですぐに満席になるからな」
「にゃはは、確かにそういう意味では幸運だったかもです。でも、おかしな話ですよね一日しか泊まれないなんて。しかも、早ければ数時間ですよ?」
「まあ、急に入ったから仕方なかったんじゃないか?」
ミス➁ 暑さでうだって疲れていたからといってその言葉の意味をしっかり考えずにスルーしていた。
「そうですね~、当日予約はこちらの落ち度ですし」
ミス➂ ホテルの名前を聞かなかったこと。
「それじゃあ、そのホテルに荷物置いていこうか」
「あ、そんなことしなくても大丈夫みたいですよ」
「と、いうと?」
「なんと! そのホテルからドローンが送られてきて荷物を先に部屋に運んでいってもらえるらしいです! 位置情報を送ったのでそろそろ来るかと―――――――あ、来たかもです」
そして、飛んできたドローンは妙にピンク色のボディをしていた。加えて、「一夜の情熱って素晴らしいですね」というロゴみたいなのが入っている。
なんとも酷く目立ちそうなドローンだけど、他の運送用ドローンと被らないようになっているのか?
ミス➃ これに関しては難しいかもしれないけど、やはりピンク色のボディにはもう少し考えるべきであった。いや、特にあのロゴに関しては。
それから、俺はタブレットからアストラル探知用広範囲放射線銃(便利な銃)のコードを引く抜く。もうタブレットには周囲の情報が送信されているのでこの銃はお役御免ということだ。
その銃を着替えも入った背負っているリュックサックに詰め込んでいくとその意味ありげなドローンに運んでいってもらう。
「それじゃあ、暑さに負けずシュバッと元気よくいっきましょー!」
****
時刻は午後8時28分。俺は例の建物前に来架ちゃんといた。
「.......」
「どうしました?」
人が少ない路地を歩いて行った先にあるピンク色の電飾で彩られたそびえ立つ建物。
その名前は「元気になれるホテル」という名前でわかりやすいように赤い電飾が使われていた。
.......確かに愛を紡ぐ場所であるからして、それほど利用客が愛をに飢えていたら困るだろうが、だからと言って“ラブホ”はないだろう.......。
ま、まあ、こちらもホテルの予約を来架ちゃんに任せてしまったのが悪いんだが、だとしても名前でなんとなくビジネスホテルじゃないと思わないものだろうか。
「ほら、“元気になれる”みたいですよ!」
うん、気づかないかー。
「そうだね。もういろいろと元気になりそうだね」
主に男の方だけど、な。
「なら、早く元気になりにいきましょ!」
「お、え!? ちょ、待って、あ! 力つよぉ!」
「今日はゆっくりしましょ~」
「ゆっくりできる場所じゃないから! できないから!」
俺の抵抗も虚しく、これがアストラルを使いこなしてきたキャリアなのかと思うぐらい微動だに来架ちゃんを動かすことはできなかった。
そして、なすすべもなく腕を引かれ、地面をにブレーキをかけるという行為も当然意味をなさず、周りの同じく入ろうとしているカップルからクスクスと笑われながらチェックイン。そのまま部屋までゴー。
「へ~、ここ最近はホテルの内装ってピンク色なんですね」
いや、違うから。全然違うから。早く気づいて。
ほら、明らかに棚に怪しげな輪っかが浮き出た小袋とか、確実にモザイクが入りそうな太めの棒とか、小型のバイブ機能もったやつとか置いてあるじゃん。
なんか初めてだから妙に緊張して、変に意識してしまって声が上手く出ないんだよ! 察して!
「とりあえず、これでやっとゆっくりできますね」
できません!
という、俺の心の声が届くはずもなく来架ちゃんは床に運ばれている荷物を確認するとキャリーバッグを置いてゴロンとベッドで横になる。
そして、その上で気持ちよさそうに伸びをする。その光景を見ながら必死に邪な考えを払拭し、勇気を出して告げた。
「来架ちゃん、早いけど、やっぱりここは止めよう! 探せば絶対ここより酷くてもしっかりとしたホテルあるから!」
「ここより酷くてしっかりしてるって矛盾してますよ?」
そうだけど! 察してよ! そこはぁ!
「そ、それに、ほら? 来架ちゃんは気づいている? ベッドがクイーンサイズ1つしかないのを?」
「.......あ」
俺のしどろもどろに告げた言葉に来架ちゃんはようやく気付いた。
まあ、来架ちゃんもあの炎天下の中で頑張っていたのを知っているけど、さすがにね? そこは部屋に入った時点で気づいて欲しかったけど。
来架ちゃんは上体を起こすと恥ずかしそうに白衣の裾を胸元に寄せる。
その動作で割と大きめな胸が少し膨らみを増して、加えていつも元気なポニテの女の子がこうも恥じらってしおらしくなると何とも言えない空気になる。
掌が熱い。心音がいようにバクバクと鼓動を鳴らしている。
変な空気のせいか煌めく瞳に、艶やかな肌と唇。サラサラとした長い髪が色っぽく見えて仕方がない。
「わ、私は.......」
きっと無意識なのだろう。少なからずの恐怖感があるのだろう。しかし、しかしだな、その少しウルウルした瞳を上目遣いで使うのは反則だ。
「凪斗さんを信用しているので.......」
信用しないでくれー! 男は所詮ケダモノなんだー! いや、やらないけどね!? やらないけどね!?
熱ぼったい呼吸を繰り返しながらもなんとか平静を装っていく。だ、だが、目線がもうエロく――――――
「死に腐れええええぇぇぇぇ!」
「えええええええ!? 何やってるのですか!?」
「ふっ、エロい気持ちが暴走しかけただけさ」
「は、はあ.......」
来架ちゃんは怪訝な顔で俺を見る。咄嗟に厨二スタイルでいったが悟られずに済んだようだな。
とはいえ......来架ちゃん、卑猥な棒の存在を知らないからって指で先の方をちょんちょんするのやめて。そんな状態で不思議そうな顔されてもいろいろと反応に困るから。
しかし、やはり来架ちゃんに真実を告げなければいけないようだ。もちろん、俺の口から。
無知は恐ろしい。そして、こんな空間に男を連れて行くのは野に獣を解き放つものだと教えてあげなければ。
そうしないと――――――――俺が所長や結衣に逮捕される。
「来架ちゃん、今から俺の言う言葉をしっかり聞いてくれ」
「ど、どうしました? 顔が怖いかもですけど.......」
「ここは.......」
緊張で溜まってきた唾を飲み込む。この場が炎天下であるように汗が頬を伝って流れて行く。
バックバクな心臓のまま言えなくなりそうになる前に言った。
「ここは“ラブホ”なんだ!」
「..............ラブホとは?」
ば、ばかなああああああぁぁぁぁ!
読んでくださりありがとうございます(*'▽')
おふざけ展開大好きです




