第39話 調査開始
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「それでどうして結衣からどうしてその任務も頼んできたか聞いてない?」
俺は何ともいえない心地で来架ちゃんからアストラル探知用広範囲放射線銃(便利な銃)を受け取る。
「ん~、特には。ただ結衣さん伝手とはいえただ所長が意味もなく任務を追加するとは思えないので。確認の連絡を取ってみますか?」
「ああ、よろしく頼む」
来架ちゃんは青いワイシャツに黄色いネクタイの上に相変わらず着ている腕まくりした白衣のポケットからスマホを取り出すと画面をタップして何かを起動させる。
そして、画面から浮かび上がった液晶ディスプレイに失踪事件に対する詳細を求める言葉を伝えていくと液晶を閉じた。
「これで伝わると思わるかもです」
「電話じゃなくていいのか?」
「所長、あんまり電話でないんですよ。むしろ、こっちの方が伝わるかもです」
電話の方が伝わりそうなのだが.......あの人、メッセージ通知オンとかウザくて切ってそうだし。
そんなことを思いながら手元の銃をふと見る。
その銃はよくあるボディに引き金とまでは一緒なのだが、銃口の部分がパラボラアンテナのように半透明に広がっている。ホログラム的な何かと思ったらしっかりと感触がある。なんだこりゃ?
「これって何に使うんだ? “アストラル探知”とか言ってたからこれで違法ホルダーの痕跡とか見つけるのか?」
「その使い方もありますけど、主に使ってるのはファンタズマの捜査ですね。ファンタズマはあまり表には現れず、スッと気配も隠すタイプもいるので。それを使わなくてもビビッと探知は出来るのですが、ただの残留念痕と間違えてしまうこともあるかもなのでこういったのを使った方が楽なんですよ。ちなみに、礼弥さんはその機能も手袋に取り入れようと研究しているようですよ?」
「すげーな、あの人」
礼弥さんは無能力者だけど、無能じゃないな。むしろ、俺より有能な気さえする。
ともあれ、所長から事件の詳細がなくても任された仕事だ。きっちりやらなければな。
「それじゃやるよ」
「こっちも準備できたましたー。午前11時43分、調査開始。いっちゃってくださーい」
来架ちゃんから簡単な使い方を教わった。
この機械は基本二人で協力して行うらしくて、まず銃を持っている俺が引き金を引いて特殊なアストラルの電波を放つ。
それを銃の持ち手にあるコードから繋がっている特殊なタブレット端末に情報を送る。基本はこの形だ。
「どう? そっちで何か見えて来た?」
「はい。なので、少しずつ移動しましょう」
ただタブレットを持つ人はさらに来架ちゃんのキャリーバッグから取り出したドローンを上空に飛ばして、周囲の肉眼では手に届きにくいところまでスキャニングして周囲の地形を3Dマッピングかしていく。
それと先ほどの送られた情報を照合することでより正確な痕跡位置が割り出せるらしい。
なんか来架ちゃんの方が大変じゃね? と思われるかもしれないが、こっちも大変なのだぞ?
俺が使っている銃は自身のアストラルを媒介にして電波を放っているのだ。それも痕跡を見つけるのにはそんじょそこらの量ではダメで、基本的にフル。
アストラルは基本量が決まっているので使っていく度に倦怠を感じるのだ。しかも、使用量に比例してそれも増してくる。
とりあえずそよかさんの近くの通りから調査を始めたが、範囲もわからな中をひたすら、しかも炎天下の下ではもう.......中学の部活よりもキツイ。主に精神心的に。
「来架ちゃん、一旦休憩しない?」
「にゃはは、そう.......ですね。しましょ」
開始から15分。思わず音を上げた俺はふと後ろを振り向いて来架ちゃんに尋ねてみた。
すると、来架ちゃんもうだるような顔で汗を滝のように噴き出していた。情けなく開けている口から八重歯がチラリと見えるが.......うん、いつもの元気な八重歯の方がいい(疲労からの混乱)。
一先ず近くのアパートの日陰に入ると二人で倒れ込むように座った。もうダメ、暑すぎる。
「とりあえず、来架ちゃんこれどうぞ」
「水筒とうちわですか? 凪斗さん、用意がいいですね!」
違う違う。
「俺のパトロンがいつの間にか入れてた。このバッグ多機能でいろんなところにポケットあるらしくて、そのポケットに入ってた」
「もう増々母親感が増してきてるかもですね」
「全くだ。信用がないのやら」
「信用してるから心配なんじゃないですか? まあ、私的にはそのポジションで認定されてるのはどうかと思うんですが」
「?」
来架ちゃんはあぐらをかくと右手でうちわを仰ぎながら、左手で水筒をグビグビと飲んでいく。すると、僅かな光煌めく汗があご先からのど、鎖骨にかけてスーッと流れて行く。
暑さからか空と似ている色のワイシャツの第二ボタンまで開けているし、そのワイシャツも汗で張り付いて若干透けている。
そう僅かに見えてしまっているのだ、ブラが。可愛らしいイチゴ柄の入ったブラが。
「ぷはーーーーーっ! 美味しぃーーーーーーっ!」
水筒を口元から離すと肺の空気を一気に吐き出すように息を吐いた。絵面的には風呂上りに缶ビールを飲んだおっさんである。所長とか似合いそうだ.......未成年だけど。
「どうしました?」
「い、いや.......」
思わず視線が胸元に寄っていたことを誤魔化すように水筒を口にする。幸い、怪訝な顔されただけで助かった。あ、うっま。スポドリとか気が利くな。
しかし、来架ちゃんは本当に無防備だ。もう少し男の視線とかに気を配った方がいい気がする。普段清純派元気っ娘が少しでも色気を醸し出すと大変な事態を引き起こすんだぞ。天然な魔性に早変わりだぞ!
『ムッツリめ。相変わらずそれだけは信用し甲斐がある』
「誰がムッツリじゃ! って、あれ? 今、所長の声が.......」
「これですよ。これ」
来架ちゃんが指を向けた方には来架ちゃんのスマホから浮かび上がっている所長の姿のホログラムがあった。
その所長は書斎机にいるようで机から頬杖をついた上半身しか映っていない。しかし、なぜ見透かされた......。
『ん? なんだやっぱり考えてたのか。ははははは、相変わらずイジリ甲斐があるな。こっちは君たちの姿など見えていないというのに』
「んなっ!?」
『からかえるかとやってみれば、案外上手くいくものだな。いや、凪斗がわかりやすいのか?』
くっそぅ、やっぱりこの人、苦手!
『それで失踪事件の詳細を調べるだっけな。これについてはすまなかった。追加任務を結衣に伝えた時点で、後は結果を聞くだけに待ち体勢になっていた』
この人でも謝ることあるんだな。
『いま、失礼なこと考えなかったか?』
「いいえ、全くもって。これまで通りの畏怖の念を送っております」
その返しに「そこまで怖がられると悲しいんだが」と少ししょんぼりした顔をし、隣では俺と所長のやり取りを聞いていた来架ちゃんが面白そうに笑っていた。
『まあいい。とりあえず、手短に話すとその辺りには二週間前程から若い女性が唐突にいなくなっているという情報を警察が受けたらしい』
「二週間前というと、依頼者の話と期間が重なりますね」
『ああそうだ。たとえそれが偶然だとしても、調べた方がいいと思ってな。こっちでも調査対象にしたんだ。もしかしたら、依頼者の姉もその失踪事件に巻き込まれてしまう可能性があるからな』
「依頼者の話と失踪事件に関連性があると?」
『まあ、そういうことだ。なければ、それに越したことはない』
「調査範囲ってありますか?」
『具体的な範囲はないな。各々の判断に任せる。とはいえ、その失踪事件もファンタズマ関連であれば我々の仕事だがな』
「その時は任せてくださいよ! 俺達が解決してみせます!」
「そうですよ! ババーンとやってのけます!」
『期待している』
そう言って通話は切れた。範囲は.......まあ、とにかくこの辺り一帯はやったほうが良さそうかな。
「それじゃあ、今日はとことん調査でいいか?」
「了解しましたー!」
そして、休み休み痕跡の調査を続けること8時間――――――――
「......ここは?」
「たまたま空いてたホテルです!」
意味ありげなピンク色の電飾で彩られたホテルが目の前にあった。
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