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第37話 依頼主に訪問

「凪斗、しっかりと準備した? 忘れ物ない? ハンカチはしっかりと持った? 依頼人に迷惑かけたはダメ。おやつは300円までだよ」


「なんで母親目線? 俺を一体いくつだと思ってんだ?」


 来架ちゃんと出掛ける直前に結衣から言われた小学生の母親が言いそうな言葉。その言葉に思わずため息を吐いた。

 これを真面目に言っているのだから余計に始末にを得ない。あんな事件で結衣の気持ちを知った今だから思うが、結衣の“守りたい思考”は余計に強くなっている気がする。

 ......なんというか過保護だ。俺が復帰してから今までの数日、なぜか結衣がずっとソワソワしていた。


「凪斗、オオカミになっちゃダメだよ? 来架も気を付けて」


「おい、待てこら」


「オオカミってなんですか?」


 こんにゃろめ、オオカミ()が来架ちゃんを襲うとでも? なぜにそこら辺の信用がないんだ。つーか、調査しに行くだけだろ?


 とにかくまあ、なんだか事件以降少し表情豊かになったのは言いにしてもその言葉はないよ。もうちょい信用してくれ。

 全くそれを見ている所長は面白おかしく楽しんでいることで。それにしても、礼弥さんからは生温かい視線を感じるのはどうしてだろうか。


 ここにいたら進むものも進まないな。さっさと行こう。


「そんじゃいってきます」


「行ってきまーす!」


 俺はリュックを背負いながら、来架ちゃんも同じくリュックとキャリーバッグを引きずりながら事務所を後にする。


 向かった先は事務所から少し離れた位置にある渋谷区だ。そこにいる依頼主のところへと直接を話を聞くために今は電車で移動中。

 電車から映る景色は渋谷区に近づいていくほど高層ビルで活気づいていく。電車内からでも喧騒が伝わってきそうな感じだ。

 夏でもお盆の季節だからか割りに空いているのが好都合と言ったところか。

 まあ、そんなことより、電車内涼しい~。


「来架ちゃんはお盆の日は帰省したりしないの?」


「私はあんまりしないかもですね。両親も別の場所で働いているのでまず会えないですし」


 大きな黄色のリボンをつけて茶髪をのポニーテールをふわりと揺らしながら来架ちゃんは答える。そして、ニカッと八重歯を見せながら笑う。

 その穢れなき笑みはまるで俺の汚れ切った心を浄化していくようだ。


「来架ちゃんの家系は初めからこの世界で暮らしてきたの?」


「そうですねー、一応訓練校は出てますし。でも、やっぱりお父さんとお母さんの手際は違うかもですね。シュバッとビュビュッと終わらせちゃうんです」


「なるほど、シュバッと.......」


 正直、“ビュビュッ”とは何かイメージできなかった。まあ、とにかく仕事が早いってことなんだろうけど。


「そういえば、能力に対して遺伝とかあるの? 所長からは願った想いが力となって現れるみたいな感じだったけど」


「基本的にはそうかもです。でも、確か両親がホルダーであればARリキッドを使わなくても生まれつき能力を引き継ぐって話も聞いたことありますが、あんまり見たことないですね」


 来架ちゃんは顎に指を当てながらその質問に対して答えた。その動作で揺れるポニーテールから柑橘系のニオイが漂ってくるが、どことなく結衣とは違った。


「それじゃあ、来架ちゃんはどうして錬金術師の(あの)能力にしたの?」


「にゃはは、それは決まっているじゃないですかー! 銃がカッコいいからですよ! 拳銃、マグナム、グレネードランチャー、マシンガン、ミニガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ロケットランチャー、ミサイルランチャーに至るまでそれはもう言い尽くせない魅力があからでして―――――――」


「落ち着いて落ち着いて! 一旦落ち着こう、な!?」


 人目をはばからずキラキラした瞳でと大きな声で次々に銃器の名称を挙げていく。そんな来架ちゃんに白い目と見た目のギャップからの怪訝な目が混じった視線が周囲から送られてくる。

 自分が蒔いた種なので甘んじてその反応は受け入れるが、まさか銃の話でここまでスイッチが入るとは想定外だ。

 まあ、黄色のリボンに頭についた茶髪の尻尾をフリフリさせている元気っ娘が銃を持っている姿を想像してみれば、存外悪くないという気持ちは確かなのだが。


 俺の言葉が聞こえたのか、すぐに周りを見渡すと耳まで真っ赤にして恥じらった顔をしてうつむく。あ、一斉に周囲がかわいい子を見る朗らかな笑みになった。

 そして、照れくさそうに「はしゃぎ過ぎちゃいました」とチラリと見える八重歯とともに笑った。ohu.......天使はここにいたよ。


 そんなこんなで移動中は適当に会話をしつつ、一先ず渋谷に辿り着いた。

 実際来たのは一回あるかないかぐらいで、それも小学生の時であまり記憶にない。なので、実質初めてと言えるかもしれない。

 渋谷駅からすぐ近くに立ちならぶビル、ビル、ビル、の数々。まさにコンクリートジャングル。見上げれば首が痛くなりそうだ。


 ついでに言えば暑い。すんごい暑い。先ほどまで体が冷えてたからそう簡単に汗をかかない分、熱がこもっている気がする。

 周囲のビルが青天からの日差しをダイレクトで反射してくるからまともに周りも見れない。


 すぐ近くにあるスクランブル交差点には半透明の液晶ディスプレイが映っていて、どこかのCMを流している。

 そして、歩行者がCMを見ているうちに車が交通している。恐らく歩行者が間違って赤信号を渡らないための工夫だろう。

 加えて、道路の十字路の中央にも白いポールが立っていて半透明の液晶ディスプレイがポールを一周するように映し出されている。

 液晶ディスプレイは様々な場所に使われていて、掲示板や案内地図なんかもそうだ。これでまだ科学が発達段階なのだから驚きである。


「凪斗さん、行きますよ」


「あ、はいはい」


 横断歩道前にあった液晶ディスプレイがスッと消えていく。そして、一斉に多くの人々が自分の目的地方向に直進していく。

 俺達も依頼主の場所に向かって歩みを進めていく。

 それから、環七通り沿いにあるアパートへとやってくると手袋にアストラルを集中させる。


「ここであっているかもですね」


「そ、そうだな」


 特殊に作られた手袋からは地図が浮かび上がり、赤いマークがある。そして、その近くに俺の居場所を示す青いマークが現れた。どうやら無事に辿りつけたようだ。とりあえず、胸のポケにいれたスマホで事務所に着いたことを連絡っと。


「にゅ? どうしました?」


「い、いや、なんでもない。行こうか」


 さっきから思ってるんだけど妙に距離が近いんだよな。俺が出した地図を確認する時もわざわざ肩がくっつくまで寄ってきて、加えて下から覗き込むようにして様子を尋ねてくるとか。

 ......この子のパーソナルスペースはちょっと健全な男の子に誤解させてしまいかねないな。汚れがない故に危険というやつだ。まあ、どこぞの変態に襲われても普通に勝てるからそこら辺の心配はないが。と、ともかく俺は平静を保たなければ。


 アパートの階段を上がって二階。203号室の加藤さんでいいんだよな、確か。

 ドアのすぐ横にあるインターホンを鳴らしていく。すると、中から「はーい」と返事をしながら歩み寄ってくる音が聞こえた。


「どちら様ですか?」


「反加探偵事務所の天渡と創錬です。この度、調査のためにお伺いしました」


 探偵事務所は表向きの名である。これは余計な不安を与えないためだ。

 ファンタズマや違法ホルダーの認知はあっても、それは実際に見た人が少ないからという理由かららしい。まあ、どうして少ないのかは大体理由がつくだろう。


「あ、そうですか。私は依頼した【加藤 そよか】です。どうぞ中へ上がってください」


 そう言って家に上げてくれたそよかさんは黒髪ショートの女の子であった。物腰柔らかな感じで年齢は恐らく似たり寄ったり。

 Tシャツに少しフワッとした短パンの恰好からして家だと結構ラフなのだろう。まあ、この情報が事件に影響するかどうかわからないが一先ず、やっと暑さしのげる~。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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