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第36話 依頼任務の詳細

「所長、何やってるんですか?」


 本当は声をかけるつもりはなかったのだが、なんだか後が怖かったので仕方なく声をかけた。


「おう、凪斗か........ここで何してる?」


 明るい声で返してくれたと思ったら、すぐに曇った表情で声もワントーン低くなった。たったこれだけでこうも怖くなるとはさすがであり、2つ上とは思えない。


「ま、まあ、ずっと家に閉じこもってたら体もなまりますし、気分転換に外でもと。もちろん、パトロンには結衣もいます」


「結衣は私が差し向けたし当然だな。私もなんだか執務で肩が凝って仕方がない。だから、同じく気分転換てところだな」


 肩が凝るのは正面にあるたわわのせいでは?


「まあ、執務のストレスは大変だわなー。主にやっているのが廃工場での後処理なんだから。全くどこのバカがやったんだろうな。そこら辺どう思う?」


「本当にすみませんでした」


 え、何この人、怖い。なんでこんなにも低い声が出せるの? そもそも女性が出すような声とは思えないんだけど。

 それとやっぱりこの人、加里奈さんと似たような能力じゃなかろうか。妙に人の考えを読んでくるんだが。


 人目もはばからず頭を下げていると後ろから「何してるの」と結衣の呆れた声が聞こえてきた。このどこか冷めたような視線、まさか俺が何かしたと思っているのか。失敬な。

 所長は結衣に気付くとスッと近づいてまるでそれがあるべき姿かのように自然と頭を撫で始めた。そして、何食わぬ顔で俺に「ワンゲーム付き合え」と言ってきた。


 移動してきた先はいわゆるゾンビとかを倒していく最大二人協力プレイの射的ゲームだ。昔、何度かやったことあったか下手だった覚えがある。

 それにしても、所長がどうしてこれを選んだのかは疑問だ。所長は結衣を妹のように溺愛している節があるから、仲間外れにするようなことはない。

 しかし、わざわざ俺と二人で遊ぶとなれば、別の糸があるのか?


 「そんじゃやるぞ」と機械に俺の分までお金を投入すると手元にあったコード付きの二回りぐらい大きいリボルバーのような光線銃を手に取る。

 そして、慣れた手つきで光線銃を構え、それ越しに画面を見る。画面を見ると照準がほとんどブレていない。さてはこの人、割と頻繁にこのゲームやってるな?


 画面でスタートまでのカウントが始まったので、俺も急いで手元の光線銃を手に取ると画面に合わせる。

 ちなみに、結衣はというと後ろにある復刻版ダンレボ(※ダンスダンスレボリューションの略)を表情をピクリとも変えずにやっている。割と上手い。


 ゲームが始まった。場所はどこかの廃校舎の廊下にいて、教室や曲がり角からグレイ型のエイリアンが迫ってくる。

 それを標準を合わせて引き金を絞る。すると、画面では武器がマシンガンなのかババババババッと連続で弾丸が射出されていく。

 しかし、凄まじい数が放たれているのになかなか倒れない。


「頭を的確に狙え。キルスピードが上がる」


「わかりました......ってはや!?」


 画面には残りHP、リロードまでの残弾数、キル数と出ているのだが、開始3分ぐらいで俺がまだ5体に対して、所長は12体と殺しまくっている。しかも、HPはほぼノーダメ。この人、やはりやり込んでるな?


「そういえば――――――」


 所長が変わらない正確さのまま話しかけてきた。正直、こちらに返答できる余裕はほとんどないのだが。


「復帰したら、お前に一つ来架と組んでもらいたい仕事がある」


「来架ちゃんとですか?」


「ああ、結衣との関係性が回復したから、結衣でも良かったのだが.......今、あいつは別の意味で拗らせてるからな。しばらく、お前と離した方がいいかなと」


「俺なんかしました?」


「いや、まあ、何もしてない.......とは言い切れないかもな。ただ直接的な原因じゃない以上。いわゆる乙女的悩みだ。あまり触れてやるな」


「はあ.......」


 乙女的悩みとはどういうことだろうか。別に今日接した感じも普段と変わりない.......感じ? だと思ったが。まあ、強いて言うなら少し母親感があるというか。


「それでちなみにですけど、どんな仕事なんですか?」


 あっ、やべ!? 敵に囲まれた!? 待て待て、ガンガンHP減っていく! やめろ! こっちくんな―――――――あ、所長、フォローあざます。


 正面の画面には「Danger! Danger! Boss enemy!」という英文が赤い表記で点滅するとともに警告音が鳴っていく。そういう演出なのだろう。

 するとその時、背後から多くの拍手と歓声が聞こえてきた。思わず後ろを振り向くと結衣のいた場所に人だかりが出来ている。

 その人だかりのせいで結衣の姿は見えない。別の場所に移動したのだろうか――――――あ、アホ毛が横に動いてる。しかも、あの感じ嬉しそうだな。


「ボスだ。何が起きても気を抜くな」


「は、はい!」


 所長に喝を入れられた。まあ、まさかボス戦まで行けるとは思わなかったけど(ほぼ所長のおかげ)、どうせならクリアしたい。


「そういえば、“どんな仕事か”って聞いてたな。簡単に言えばある宗教団体を調べて欲しいのさ」


「宗教団体?」


「ああ。私達の仕事はファンタズマを倒すことと違法異能力保持者(アストラルホルダー)を捕まえることだが、それらは基本的に一回警察の方で処理されることが多いんだ」


「それはまたどうして?」


 あ、リロードリロード。


「それが刑事事件なのか特務事件なのか判断がつかないからさ。そして、刑事事件で解決できなさそうな案件がこっちに回ってくる。しかし、当たり前だが無能力者の方が多いご時世だ。その大抵が警察で処理される。それに、私達は新宿にある本部から近いしな。唯一の東京にある支部としてもほとんど雑用。お前が戦った上級種がSSRぐらいだ」


「そんなソシャゲのレアみたいな表現しなくても.......」


「だから、裏では不始末事件の再調査。表向きでは探偵業さ」


「ということは、宗教団体を調べて欲しいという依頼があったんですか?」


 ボスのゲージが半分まで行ったか。あ! こいつ、半分言ったからって第二形態に変身して、攻撃パターン変えてきやがった!

 にしもて、それでもHPがまだ7割ある所長は以上かよ。俺はあと3割もないぞ。


「そういうことだ。まあ、調査といえど、私達の本職は警察だ。違法行為に手を染めている場合があれば、その場で逮捕できる権限を持っている。だからまあ、相手は時折クレイジーな行動をするからな。そこら辺は気を引き締めてやれ」


「その宗教集団を調査する場合によっては入信する必要があると思いますがいいですか?」


「それは構わない。むしろ、実体を調べるにはそっちの方がいい。しかし、間違ってもミイラ取りがミイラになるってことはやめてくれよ」


「大丈夫ですよ。そういうのって、入信する人は大体心に闇を抱えてる感じじゃないですか」


 お、残りあとちょっと。


「大丈夫じゃないから言っているんだ。相手が違法ホルダーの場合もあるからな」


「!......なるほど。その場合、何か動きを見せたら捕まえればいいですか?」


「ああ、そうだな。捕まえるか、場合によっては――――――――」


 ボスのHPがあと少しというところで俺はボスのゴリ押し攻撃にやられてしまった。残すは所長のみだが.......半分もあれば勝ったも同然だな。

 所長は銃の引き金を絞ったままボスの動きに合わせて照準を動かしていく。ゲテモノみたいなボスの頭に余すところなく銃弾が当てられ、銃から鳴るガガガガガッという効果音とボスの「グワァ!」という声だけが聞こえてくる。


 すると、所長はおもむろに片手で銃を持ち直すと照準を合わせる。そして、引き金から離していた人差し指を引き金に当て――――――引いた。


「殺せ」


『congratulation! The world is now protected!』


 所長の言葉はやたらと重く聞こえた。いや、聞こえたじゃない。実際に重いのだ。いわゆる命の重さ。


「殺したくなければ強くなれ。ただし、殺されそうなときは迷わず殺せ。それが私達の()()だ」


 殺す(倒す)のは何もファンタズマだけではない。違法ホルダーも場合によっては同じなのだ。

 その忘れていた敵の存在を改めて知らしめられた俺は返す言葉が見つからなかった。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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