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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第32話 埋まる空白

「二人とも落ち着いたか?」


「「はい.......」」


 散々騒ぎまくった後、所長に拳骨をくらわされた。理不尽なり。

 その元凶を作ってくれた加里奈さんんは「とっても面白いの見せてくれてありがとう♪ それじゃあね」と言って颯爽と出て行ってしまった。

 この世界に入ってから妙に女難な気がするが気のせいだろうか。気のせいと思いたい。


「それじゃあ、説教.......と行きたいところだが、私にも用があってな。爆発の後処理とか閃光の原因説明の書類とか」


 うっ、痛いところを突いてくる。ほんと、申し訳なく思ってます。


「それで凪斗、言いたいことは言えてるのか?」


 それは俺の説教に関することだろう。


「いいえ。俺達が赤鬼を倒した直後くらいに所長たちが駆けつけてくれたので何も」


「そうか。まあ、なら、減給ぐらいで私の説教はチャラにしてやろう」


 え、俺、勤務して1ヶ月経たずに減給ですか? それはさすがに勘弁――――――


「いいよな?」


「「.......はい」」


 とかまあ、いえないですよね。はい、わかってましたよ。

 それに何あの全く目が笑ってない笑顔。どういう技術でその笑顔できんだよ。


 俺の泣きたい思いを知っているのかどうかわからないが、所長は通り過ぎざまに俺の肩をポンと叩く。


「説教は任せたよ。女泣かせ君?」


「わかりましたけど、その仇名はなんですか?」


 所長はそれだけ伝えると病室を出ていく。

 俺はその光景を見届けると足を伸ばした。


「はあ、脚が痺れる~。二斬も崩していいぞ」


「私は大丈夫」


「無駄に意地張ってるとあの人が戻ってきた時に大変だぞ」


「それは困る」


 ちょっとした冗談で言ったのに二斬はシュバッと両足を伸ばした。どうやらわりにトラウマらしい。

 俺達は足の痺れが取れるまで雑談(という名の先ほどの反応に対しての二斬に一方的な言及)をして、大体良くなった後それぞれのベッドに座った。


「凪斗、腕大丈夫?」


「ああ、問題ない。ホルダーは治り早いんだろ? すぐに治るさ」


 そう言っても二斬は浮かない顔をする。

 恐らくは自分が勝手な行動をしたせいでこうなったのだと負い目を感じているのかもしれない。

 勝手に行動したのは俺自身なのにな。


 とにもかくにも、俺にはようやく清算するべき時が来たようだ。

 俺が忘れていた時間、気づかなかった時間、守られていた時間、それらに対しての。


「二斬、単刀直入に聞く。お前は俺が小学生の時に仲良くしてた"相場 結衣"なんだろ?」


「うん。ずっと黙っててごめんなさい。でも、どうして気づいたの?」


「俺はさ、どうして二斬が俺を守ることに固執するのか気になってたんだ。だから、気になって調べた。ついでに礼弥さんからも半ば自己犠牲行動にも見える行動を止めるよう説得して欲しいって頼まれてたからな」


「兄さんが.......そういえば、説教って所長が凪斗に言っていたのはそういうこと?」


「まあな。さすがに今回のは度が過ぎたしな。だから、まず本当に――――――今まで助けてくれてありがとう」


「え?」


 二斬はキョトンとした顔をする。まあ、それはそうだろうな。

 説教って言うぐらいなんだから不満や愚痴の一つは出てもいいところだろうけど、正直どこをどう怒ればいいかわからん。

 俺は高校の時、あるいはそれ以前から気づかずに守られていたのだから。感謝の言葉を述べることは当然だろう。


 しかし、二斬はすぐに暗い顔をする――――――


「私はただ私のやりたいようにやっただけ」


 と思いきや、長いもみあげを指でクルクルとし始めた。ついでにアホ毛も揺れている。

 よく見てみると顔が少し赤いし、二斬なりの照れなのか?


「言ってしまえば、俺は感謝することばっかなのかもしれないな。俺がのうのうと生きている間に二斬はこの世界で大切な人を守るために己を磨き続けてきた。そして、アストラルを解放して髪や瞳の色が変わってまでも、俺が高校で過ごしている間もずっと守ってくれたんだろ?」


「凪斗は大切だったから。けど、結局凪斗をこっちに引き込んでしまった。私があの時バッグに気を取られてなければ」


「いやいやいや、どう考えてもあれはお前のせいじゃない。俺がお前を二斬だと気づかずに早とちった行動をした結果だよ。いわば自業自得。それに俺はこの世界に来て別に嫌だなとか思ったことないぞ?」


「え?」


「だってさ、これまで守ってきた二斬を今度は俺も守れるってことだろ? まあ、二斬に比べればまだまだだろうけどさ。それでも、今回は本当に心の底から嬉しかったんだ。俺の力で二斬を窮地から脱せさせたことを。これまでの恩返しが一つできたことを。といっても、同時に助けられてもいるからチャラになってるけど」


「チャラになんてならない。私がさせない。今もこうして凪斗と話せているのは、あの時助けてくれたおかげ。それに、私は返しきれないほどの想いを今もずっと胸に抱いているから」


 二斬は両手を合わせると祈りを込めるようにそっと胸に近づけた。

 とても幸せそうな笑みを浮かべている。普段表情がわかりずらい二斬が口角を上げているのだ。それだけでそう思うのは十分だろう。


「俺さ、一つ決めたことがあるんだ」


「決めたこと?」


「もっと強くなることは当たり前なんだけど、一番になるよ。トップだ、トップ」


「どうしてそう思ったの?」


「今度は俺が二斬を守りたいって気持ちもそうなんだけど、強くなって素早く駆けつけてファンタズマを倒せれば二斬みたいに過酷な道を選ぶ子が少なくなるんじゃないかと思って」


「――――――――!」


「聞いたよ。両親がファンタズに殺されたということを。実際の詳細までは聞いてないけど、小学生の頃に二斬が突然消えた理由ってそういうことだったんだって今頃になってわかった。最初は別れの挨拶ぐらいしてけと思ったけど、そんな事情があったとはな」


「話す必要もないかと思って」


「そこはデリケートな話題だから隠していて当然だろうよ。それで、俺はこの世界で戦って思った。もし、二斬があの時襲われていなかった時はどうなっていたんだろうかって。きっともっと幸せに―――――――」


 気が付くと二斬の手が俺の口を覆うように塞がれていた。

 そして、両足をまたぐように片膝がベッドに乗っている。

 顔が近い。少しで鼻先でも当たりそうな感じだ。

 少し潤んだような瞳から目が離せない。

 ふわりとゆれる銀髪から香ってくる髪の香りに思わず鼻孔がくすぐられる。って、ボーっとしている場合じゃない。


「ふ、二斬りさん!?」


「結衣。これからは昔みたいに結衣って呼んで」


「ゆ、結衣さん? はしたないですよ? 今どきの女の子がこんな大胆な.......」


「さっきは声で興奮してたくせに。それに昔と変わらない距離感」


「こんな距離感一度もねぇわ!」


 咄嗟に上体を逸らす。これで距離は取れたが、これ以上迫られたら後はないぞ.......ってあれ?


 二斬.......結衣は俺の胸に顔を埋めるようにして顔を隠すと体を震わせる。

 鼻をすする音やしゃっくりをするような呼吸が聞こえる。

 どうやら泣き顔を見られないための対策のようだ。


「凪斗に気付いてもらえた」


 結衣が呟き声で言った言葉。

 そういえば、所長が過去に二斬と話したことを話していたっけ。それで結衣が「大切な人に思い出してもらえなくなる」って言ってたんだっけな。

 なるほど、結衣は自己矛盾を抱えたままこれまで頑張ってきたんだな。


 姿が変わってしまって前とは髪色なんかは全然違う。けど、それは俺を守る上では支障はない。

 しかし、どこかで気づいて欲しいという思いがあった。けど、俺が気づけば絶対に首を突っ込んでくることになる。

 そんなどっちつかずの思いのままでもあったわけだ。


 結衣はそっと顔を上げる。

 涙で目は軽く腫れており、それでも流した涙を拭おうとしないまま目を見てくる。


「凪斗、気づいてくれてありがとう。本当に無事でよかった」


 どうやら結衣はそっちの気持ちでかたをつけるようだ。まあ、由衣にとってそれがいいのならいいのだろう。

 全く、泣いているのにとんでもねぇいい笑顔見せやがって。

 女の子が上に乗っているだけでドキドキが止まらないのに、さらにドキドキが加速していくじゃねぇか。

 それに方向性は違うけど、有言実行してしまったな。

 表情が崩れるほど泣かせるってやつ。


 ****


 ―――――――【反加 美琴】視点――――――


「ハッピーエンドですね、所長。これも手のひらの上ですか?」


「バカ言うな。人の心なんて繊細なものを容易く操られるほど器用な人間じゃないよ、私は」


 病室の外で壁に寄り掛かって二人の話を盗み聞いていると礼弥が話しかけてきた。

 どうやらコイツも妹のことが気になったらしい。何だかんだのシスコンめ。


 すると、礼弥は突然私に頭を下げてきた。


「ありがとうございます。今回は僕のわがままに付き合ってもらって」


「私は別に構わないよ。それに私はただの助太刀人でしかない。この問題を解決したのは凪斗だ。感謝の言葉を言うならあいつの方だ。だから―――――」


 そっと病室を覗いてみる。

 凪斗が結衣に泣きつかれて慌てふためいている......と思いきや存外いい雰囲気だ。このムードを壊すのもなんだろう。


 そっと扉を閉める。


「あいつに甘いものでも奢ってやれ。バカみたいに飛びつくぞ」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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