第28話 初戦#3
「はあはあはあ.......」
俺は一旦赤鬼から距離を取ると乱れた息を整える。
動きながらの集中強化には慣れたつもりだったけど、状況が違うだけでこんなにも疲労するんだな。
まあ、俺が単に余計な力を出してしまっているだけの話だが、初戦がこの相手なんだから勘弁して欲しい.......って誰に言い訳しているんだろうか。
とりあえず、増援が来るまでもう少し時間稼ぎをしないとな。
結構長く時間を稼いでるつもりだったが、まだ10分しか経ってねぇ。
赤鬼がこのままジッとしてくれれば――――――なんてのは当然こないよなー。うん、わかってた。
赤鬼は何事もなかったように立ち上がる。しかし、その額には青筋が走っている。
見た目は黒鬼なのに青筋を走らせた赤鬼とは何とも色が多いことで。
こんな余裕ありそうな言葉を少しでも吐いてないとメンタルが持たないぜ。
「ガアアアアアア! コロス! コロス! モウカンゼンニオコッタ!」
赤鬼はイラ立ったように腕を薙ぎ払っていく。ストレスがピークに達して暴れ出したようだ。
どんどんと地団駄を踏みながら怒りのボルテージを露わにしていく。
その揺れは全体に伝わり、少し離れた俺の場所にまで振動が伝わり、半壊しているこの場所の至る所から砂埃を振り落とす。
少し埃臭いな。
その怒りの様子に冷汗が止まらない。やり過ぎた感があるが、そうじゃないのだ。
この冷汗は確かに恐怖によるものだが.......これは恐らくあの赤鬼の違和感に対しての恐怖。
なんというか、すげー怒ってるよアピールに感じるのだ。
怒っているということはそれだけ感情に真っ直ぐということで、行動も直線、単調になりやすい。
しかし、それをあえてダシに使っているとしたら?
これまでのあまり理性的じゃない行動が布石とすれば?
考え過ぎだろうか。しかし、なぜかあの地団駄まで踏んで怒る姿に違和感を感じて仕方がないのだ。
「ガアアアア! コロスウウウウゥゥゥゥ!」
「!」
赤鬼は散々自段差を踏み地面にヒビを入れた所で突然両拳を地面に叩きつけたのだ。
その一撃はヒビをさらに広くしていき、同時にこの場に砂の結界を作りだした。
せき込むほどの砂埃が舞い上がり、視界は最悪。この場にいてはいつラッキーパンチをくらってもおかしくない。
咄嗟にその場から跳躍する。
すると、俺の体に影が差す。赤鬼がいた、それも頭上に。
その瞬間、全身から冷汗が噴き出て、頭の中にけたたましいほどの警報が鳴り響く。
キケンキケンキケンキケン! と口うるさく聞こえてくる。やはりあの違和感は正しかった。
「シネエエエエェェェェ!」
こいつは―――――――
「左腕に集中強化あああああ!」
―――――――理性的だ。
思わず叫んだ。
心の中の"死ねない"という感情を引っ張り出すために。
赤鬼の拳が左腕に突き刺さる。
アドレナリンのせいかほとんど痛みも感じないが、スローに見える現在で左腕はキッチリねじり折られた、耳に嫌な音が残るほどに。
そして、その拳は左腕を押し切り、左腕ごと胴体押し込んでいく。
殴られた衝撃が体を貫通して伝わってくる。あばらも軋んだ音がした。
「ごはっ!」
俺は真下の地面に叩きつけられた。
気が付けば地面をバウンドしていて再び空中を軽く跳んでいる。
左腕にほぼ全てのマギを集中してガードしていたせいで、叩きつけられることを考えていなかった。
おかげで背中と腰を思いっきり叩きつけられて、咄嗟に下半身に力が入らない。
内臓を傷つけられたのか強制的に吐き出された空気とともに血が目の前に舞う。
ああ、やばい。視界が霞んでやがる。直撃をモロにくらって生きているのが不思議なくらいだ。
だけど、時間の問題。現状避けることも出来ないので、あのまま赤鬼が落ちて来れば俺の死は確定。
クソ.......やはり付け焼刃な修練がダメだったのか? いや、そうだったら俺は二斬を助けられていなかっただろう。
しかし、結果はこのザマだ。
相手が悪かったと言えばそうなのかもしれないが、それで片付けたくはないな。
結局、俺は二斬のヒーロー足り得なかったということだ。
俺が小さい頃に二斬に語った夢は叶いやしなかったってことか。
「いや、違う!」
違う! そうじゃない! それで終わらせてたまるもんか!
俺はずっと二斬に重荷を背負わせてきた! 二斬がヒーローとしてずっと俺を守ってきた!
その恩返しのために! 今度は俺が二斬を救うために! ここまで戻って来たんだろうが!
俺がこのまま殺されれば、当然二斬も殺される!
「状況を理解しろ! 予測される行動を考えろ! 自分が取るべき行動を考えろ! このままやられていいはずがない! 俺は......俺の出来る行動を!」
その時、俺はしっかりと考えたのかわからない。
しかし、咄嗟に突き出した右手にマギを集中させるとそのまま放電させた。
右手を半分犠牲にしての最高出力。その電撃は赤鬼の左目を焼いた。
その僅かな誤差が俺の生死を分けた。
「行くよ、ゆーちゃん」
「わ、わかったよ、いーちゃん」
幼い二人の女の子の声。
一人はハツラツとして強気な声で、もう一人は内気で弱弱しく感じる声だった。
その声の二人組は同時に鎌を振るった。
一人は鎌を赤鬼の頭に直撃させて赤鬼の拳の振りを遅らせ、もう一人は鎌を俺のスーツの襟に引っ掛けてその場から引っ張っていく。
赤鬼が拳を叩きつける。轟音と衝撃が俺を襲う。
しかし、それが気にならないほど俺を抱えるように受け止めた内気な幼女と赤鬼一発かましてきた強気な幼女が気になった。
そして、その二人は告げる。
「大丈夫だったか? 凪斗」
「だ、大丈夫ですか? な、凪斗さん」
二人の容姿はあまりにも二斬と瓜二つであった。
「ゆーちゃんといーちゃん.......?」
俺の頭はダメージで行くとこまで行ってしまったのかと思った。
俺を抱えるように背後にいる二斬にそっくりないーちゃんともう一人横にいる二斬にそっくりなゆーちゃん。
白に近い銀髪にぴょんと跳ねるアホ毛。そして、ファーのついたフードジャンバーにスカートにブーツ。
少し違うところがあるとすれば、ゆーちゃんは右目に紅の瞳がありもう片方は黒目、いーちゃんは左目に紅の瞳でもう片方が黒い瞳。
それから二人がそれぞれ持っている鎌は持ち手の両方に鎌がついている感じではなく、(サイズは一般的じゃないが)普通の鎌。
赤鬼の攻撃で風が吹き抜ける。
その風で幼き女の子の髪がゆらゆらとたなびいていく。
それによって柑橘系のニオイが漂い、感じていたホコリ臭さを和らげていく。
やや明るさが残る中月光に照らされた二人の紅い瞳は宝石のように輝いていた。
さながらその幼女二人は――――――双子の死神と思った。
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