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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第25話 古き記憶(結衣)

――――――【二斬 結衣】視点――――――


 私は病弱だった。


「なぁなぁ、今度はこれであそぼーぜ!」


「えー、僕はもう少しこれで遊びたいよー」


「私は遊具で遊びたい」


「あーもう! なら、順番でいいから早く遊ぼうぜ! 遊ぶ時間が短くなっちまう」


 そう言って男女3人組はボールを持った男の子を筆頭に広いスペースまで移動していく。

 そんな光景を私は木陰から羨ましそうに眺めていた。


 夏の強い日差しにも暑さにも負けずに元気いっぱいに遊ぶ姿は私にとっては太陽のように眩しかった。

 私は病弱だったから、つばの広い麦わら帽子を被り、夏だというのに日差しが肌に当たらないようにという意味で長袖を着ていた。

 色は熱がこもらないように白に準ずる色。そして、長時間日向にいてはいけない。


 子供だった私の心は当然つまらないと思った。

 しかし、日向にずっと立っているとどうなるかを良く知っていたので、どれだけ羨ましく思っても木陰から動くことは出来なかった。

 そんな私を周りの子供や大人は奇異な目で見た。

 それは仕方ないと思う。だって、日向に出て遊びもしない長袖を着た子がずっと木陰で座りながら眺めているんだから。気味悪がられても仕方ないと思った。


 それでも外に出ていたのはきっと夢見ていたからだと思う。

 こんな私でも気にしないで声をかけてくれたり、変に気を遣いすぎたりしない人を。

 王子様を探していたわけじゃない。もっと普通で、言うなればただの庶民だ。

 私はただ私を私のまま見てくれる人に出会えないかと願っていた。


 しかし、私の想いとは裏腹にそのような人物は現れなかった。

 仕方ないことかもしれない。ただでさえ気味悪がられているのだ、雪のように白い肌は。

 きっと声をかけてくるのはどこぞの変態か、よっぽどの物好きか。

 もちろん願わくば後者だが、度々前者を見かけては逃げた日のことを覚えている。

 そして、一年はあっという間に過ぎた。


 それでも私は夢を捨てきれずにいた。

 それは小学2年生ながらすでに孤立していたからだ。

 病弱、消極的であれば、周りに不自然な肌(ちなみに、この頃は黒髪黒目だ)。声をかけられない材料はこれでもかと集まっていた。


 何度か声をかけてくれそうな子はいた。しかし、その子は全て仲いい子に「止めときな」と言われて勝手に退いてった。

 その時からだいぶ悟り始めていた。きっと自分はこれからずっと一人で生きていくのだろうと。

 ずっと待ちの姿勢である自分が嫌になって、消極的で動けない自分が嫌になって、日向もロクに歩けない体が嫌になって、皆と違う肌色が嫌になって。


 そして、全てが嫌になりかけた時、とある少年はひょこっと現れた。


 それはいつも通りの休日の公園。

 その公園は広いため、多くの子供達がかけっこをしたり、サッカーをしたり、ドッヂボールしている子供が多く、また遊具があるためそちらにも子供がいる。

 そんな光景をいつも通りに自分も遊んでいる姿を投影してぼんやり眺めていると青いボールを持った黒髪で少しツンツンとした少年がジッと見ていた。


『何してるの?』


 不意に声がかけられた。

 その言葉に私は思わず声が詰まる。そして、持ち前の消極性が発生して勝手に表情を暗くしていく。

 「ああ、またやってしまった」と思った私だったが、その黒髪のツンツン少年は特に気にした様子もなく隣に座ってきた。


『いやー、すげーいるな。俺さ、この街に引っ越してきたから、とりあえずボール持ってって公園いけば誰かと友達になれないかと思ったんだけど難しいな』


 少年は話しかけるようにしゃべりだす。

 それに対してどう声をかければいいかわからなかった。とりあえずなんか言葉を言った。


『そ、そうなんだ。私も。えへへ』


 何が「えへへ」なのだろうか。そして、気持ち悪いほどの引きつった笑み。

 こんな性格だったからか家でも全然笑わなかった私が精一杯作った笑みであった。今思えば黒歴史である。

 しかし、その少年はその笑みに変な顔をすることもなく、むしろ瞳を輝かせて言った。


『ほんとか! ってことは、お前もここに引っ越してきたのか!?』


 その言葉に「とりあえずここで否定したらこれまでと同じになる」とでも思ったのかひたすら頭を縦に振ったのを覚えている。

 とはいえ、どうにも嘘をついている感じは否めなかったが。

 しかし、きっと咄嗟にとった行動であっても正解だったと私は思う。


『だらさ、俺と友達になろうぜ!』


 少年はそう言った。私の黒髪と少年の黒髪が横から吹く風に少し揺れる。

 ありふれた言葉だ。ほとんどの人が軽く使える言葉。

 しかし、その言葉は私の冷え切った心を温めるのに十分な熱量を持っていた。

 嬉しそうに言う顔から嘘であるとは微塵も感じず、だからこそ白黒だった世界がカラフルに色づいたかのように心が跳ねた。


 少年からしたら大した言葉じゃなかったかもしれない。

 だけど、私にとっては初めて出来た友達。きっと一生忘れることのない友達。そんな風に思っていた。

 でも、私はまだ全力で喜ぶことが出来なかった。


 それは私が病弱であること。

 相手は男の子だ。カードゲームならなんとかなりそうだが、体を使った遊びは大抵のものは無理だ。

 そして、話していて同い年だとわかると尚更そう思った。


 なら、嘘をついてしまうか。自分は動けるけど、日陰にいる方が好きだからここにいると。

 でも、それではいずれバレてしまうし、友達になった以上もう嘘はつきたくないと思った。

 だから、正直に話した。せっかくできた友達が離れてしまうリスクを追ってでも。


 すると、少年はおもむろに立ち上がる。

 ダメかと思ったけどそうじゃなかったようで、座る私の前で少年はボールを持って仁王立ちした。

 それから、「立って」と要求してくる。


『よし、立ったな。それじゃあ、キャッチボールしようぜ。このボールを言葉に見立てて、いくぞ!』


『だ、だから、激しい運動は出来ないんだって――――――』


 少年は有無も言わさずボールを投げた。

 私は投げられたボールを咄嗟に取りに行こうとしたが、そのボールは私が思っている以上にふんわりとふっくりと落ちてきてただ手を伸ばしていれば取れるような速度だった。それなら普通にキャッチできる。

 そして、キャッチすると少年は告げた。


『それが言葉のキャッチボールなんつって』


『.......』


 思わず沈黙してしまった。あまりにものボケのセンスのなさに。

 つまらな過ぎた。つまらな過ぎたはずなのに―――――――


『.......ぷっ、くふふふふ』


『おい笑うなよ。今の割とうまかったと思ってたんだぞ』


『ふふふっ、あはははは』


 なぜかどうしようもなく笑いが込み上げてきた。なぜかは今の私にもわからない。それでもとても腹がよじれるぐらいに笑ったのを覚えている。


 それから、転校してきた少年は私と同じクラスになり、私達は二人で遊ぶようになった。

 それは時折だったけど、少年は声をかけてくれては相変わらずのボケのセンスで、私は小馬鹿にするように少年を笑った。

 そのおかげか少しずつ心に元気が出て、運動もし始めた。きっと心のどこかでもっと一緒に遊びたいと思っていたのだろう。

 少しずつ少しずつでも努力していくうちに、私の体はだんだん病弱とは無縁になってきて、暗かった顔も明るくなったおかげか家族内でも明るくなった。


 その変化は止まることを知らなかった。

 私が明るくなり、運動できるようになるとクラス内でも私の見方は変わってきたのだ。

 要するに友達が増え、挙句の果てに小学5年生の時にはそれなりに整っていた容姿のおかげか告白されるまでに至った。少しだけ高飛車になった。

 これは少年がもたらしてくれたものだと思った。それにきっとあの時勇気を出したおかげだとも。


 するとある日のこと、少年と遊んでいる時、突然こんなことを言った。


『俺、ヒーローになりたい』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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