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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第23話 単独戦闘#2(結衣)

――――――【二斬 結衣】視点――――――


 やばい、やばいやばいやばいやばい。

 寒気がする。冷汗が止まらない。体が震えている。心臓がドクドクとうるさい。

 まさかここに上級種が来るなんて。どうしよう。中級種なんかとは比べ物にもならないぐらい強い。

 いや、落ち着け。ここで取り乱しても何も結果は変わらない。まずは深呼吸だ。


 私は声を押し殺すように口を覆ていた右手を放すと肺に思いっきり空気を送り込んでいく。

 体の中に空気が入っていくのがわかる。心臓の音は未だうるさいけど、後2,3回.......少し落ち着いた。

 なら、どこか身を隠せる場所を探そう。


 私は息を潜めるように、足音を立てないのように機械の裏へと隠れる。そして、そこから入り口の方へと覗いていく。

 こちらに足音が近づいているのはここがテリトリーだからか。もしくは、倒したオオカミの血に気付いたからか。

 どちらにせよ、ここに近づいていることは確かだ。


「ア? チノニオイ?」


 来た。

 声とともに頭を掻きながら現れたのはファンタジーに出てくるオーガのような巨体、そして角。現代風で表せば――――――鬼。それも体を血で染めたような赤鬼

 その鬼は昔話に出てくるようにトラ柄のパンツを履いていて、角もトラ柄だ。

 そして、腕や胸筋、背筋、脚のどこからどこまで筋骨隆々で殴ったらビルでも破壊できそうな感じがする。

 幸いなのは無手であること。あれにこん棒、ましてや金棒なんてあったら致死率はさらに上がってた。

 とはいえ、無手でも戦えば致死率を超えるけど。


 どうするどうする。どうやってこの場から逃げる?

 上級種はハイランカーでもなければ一人では倒せない。現状で倒せるのは所長ともう一人。

 でも、所長は常に忙しいし、もう一人は出張中だ。

 ならば、応援を呼ぶか? いや、今物音を立てればすぐに見つかる。

 それに相手が上級種であるならば何か能力を持っているかもしれない。それ次第では逃げられない。


 額にかいた汗が頬を伝わり、首まで流れてくる。

 速くなりそうな鼓動を抑えるために、出来るだけ大きく鼻から息を吸って僅かに空けた口から吐いていく。

 手汗も酷い。皮手袋が少し気持ち悪い。


 再び落ち着てきたら、少しだけ欲が出てしまった。それはここで何もせず逃げ出していいのかということ。

 上級種はハイランカーがいなければ、基本的に多数で戦う。しかし、ここで上級種の例えば能力がわかるだけでも、討伐終了時の戦死者の数も変わってくる。

 能力はもはやかなりの欲だ。少なからず、相手の動きや癖がわかるだけでも十分。

 それさえ見つかれば――――――――


―――――――ドガアアアアアアァァァァン!


 私が見ていた鬼は突然勢いよく走り出すと一つの機械を破壊した。

 その破壊は既に壊れていたために爆発することはなかったが、瓦礫が足元まで飛んできた。

 な、何が起きた? まさかバレた?


「ン? ナンダイヌッコロダッタカ。マギラワシイ」


 赤鬼はそんなことを呟くと手を機械から引き抜く。その手には肉片とともに地面に滴るほど血がベットリとついていた。

 どうやら私と戦わずに別に隠れていたオオカミがいたらしいが、あの威力は反則過ぎる。

 壊した機械はほとんどが木っ端微塵になって、機械にオオカミの胴体が刺さっている。

 恐らく掴んで叩きつけた感じだと思うが、自分もああなると思うと気持ち悪くなってくる。


 自分の体の調子がおかしくなってきたのか。少し周囲が冷えて感じる。

 体が完全に恐怖してしまっている。まともに足が動くかどうか怪しい。

 そんな状態でも、観察を続けていると赤鬼は頭を掻きながら独り言をつぶやいた。


「ンー、ココサイキンオカシイ。オレノワケタノウリョクノヘイタイガゼンインヤラレテル」


 やはり赤鬼があのオオカミどもに能力を分けていたのか。

 しかし、実際に戦ってみた感じあまり能力を使っている感じはしなかった。

 ということは、筋力に関わらない能力ということ。他の炎や氷を使ったり、もしくは自分の体に身体強化以外で変化をつける何か。

 

 下級種では単純に使いこなせていなかっただけで能力を使っていない可能性もあるが、赤鬼が能力を分けられるとわかっただけでも十分にいい情報だ。

 後は隙を見て逃げるだけ。


―――――――このままでいいの?


 不意にそんな言葉が頭の中に流れてきた。何がこのままでいいのかと聞いているのか。

 どう考えても危険な状況。これ以上ここにいるのは死を待つようなもの。


―――――――戦わないの?


 戦っても勝てるような相手じゃない。無駄に死をさらすだけ。


―――――――それはとっくの昔に覚悟した事じゃないの?


 覚悟はしてる。だけど、犬死することが覚悟を示すことじゃない。

 赤鬼がここをテリトリーにしていることがわかった。なら、後は追うを呼ぶだけ。


―――――――ここで倒さなくていいの?


 先ほどから何を自問自答している? 逃げるタイミングを逃したら―――――――


―――――――赤鬼が凪斗を殺すかもしれない可能性を残しておくの?


 そういうことか。私はどうやら私自身に死んでもあの赤鬼を殺せと言っているらしい。

 本当は死にたくない。死んだら、凪斗をこれから先も守れないかもしれないから。

 でも、守るといったら今も同じ。


 恐らく本来果たすはずの任務を行っていないから、私に捜索隊が出てる。そして、凪斗のことだから必ず私を探し、見つける。

 そして、私を助けるために戦う。昔と変わらず。

 可能性の話。だけど、もっとも起きうる可能性が高いと思っている話。


 ならば、私は凪斗が死ぬかもしれない可能性を出来る限り排除するのみ!


 私は震える足をバチンッと叩き、立ち上がる。今の音で恐らく私の存在は気づかれただろう。

 けど、結局戦うんだ。バレることには変わりない。


「そこの赤鬼」


「オウ?」


「私が八つ裂きにしてあげる」


 震えそうな声を誤魔化すように張り上げながら、両手でラヴァリエを構える。

 ラヴァリエを持つ両手が震えているせいか、ラヴァリエ自体も僅かに微振動している。

 目の前で対峙したからこそわかる圧倒的威圧感。心が負けそうになっているとわかる。

 しかし、もう自ら退路を断った!


「オマエガヤッタノカ?」


「!」


 赤鬼はそう言うと姿を消した。

 その瞬間、肌がゾゾゾッと襲われる感覚のままにラヴァリエを地面を思いっきり叩きつける。

 それによって発生した目くらましの砂煙とともにそのまま空中に躍り出る。

 そして、私は中央にあった柱にラヴァリエを刺してそのままぶら下がる。


 すると、私がいたところに突然赤鬼が現れて、右拳を大きく振りきっていた。

 赤鬼はその拳圧だけで工場の壁に風穴を開けていた。凄まじい威力。当たったらひとたまりもない。

 しかし、赤鬼にはこちらには気づいていないようだ。

 ならば、そのまま首を狩る。


 ラヴァリエを柱から抜き取ると大きく振りかぶって、体を縮める勢いと共に振り下ろした。


――――――ガッ


「な!」


 ラヴァリエの刃は赤鬼の首筋に僅かしか刺さらなかった。

 すると、赤鬼は右拳を後ろに大きく横なぎった。それに当たらないように赤鬼を蹴って逃れると再び地面を思いっきり叩いて砂煙を発生させる。


「クソ! ドコダ!」


 赤鬼は私が発生させた砂煙を手で払い飛ばすと私の姿を探す。

 姿も見せずに攻撃したことにイラ立っているのか声を荒げている。

 そんな赤鬼の姿を物を流していくレールの陰から見ながら、私は頭の中で勝機を見出そうとしていた。

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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