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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第21話 線になった点と点

「あっつ......」


 現在は事務所がある建物の屋上にいる。

 それは少し考え事をするためにここに来たのだが、どう考えてもミスチョイスだったな。あっつ。

 一先ず買ってきた缶ジュースでも飲んで少しでも暑さを軽減するか。


 右手に持っている缶のプルタブをカシュッと開ける。少し振れてたのか炭酸が抜ける音がした。

 右手から感じるひんやりとした冷たさを感じつつ、さらに喉にもひんやり感を伝えていく。うっま。


 一先ず体を冷やしたところで俺は少し前に所長に聞いた話を再び考え始めた。

 これまでも考えていたのだが、頭が固いのかどうにもこうにもつながらないために聞いていた話をまとめてみようと思ったのだ。


 まず整理すると俺は二斬の同級生だ。二斬に出会ったのも高校の時だ。しかし、二斬は以前より俺のことを知っている感じがする。そうじゃないといろいろ辻褄が合わない気がする。

 そして、二斬は昔ファンタズマに家族が殺された過去を持つ。それ以来、大切な人を守ることに執着し始め、礼弥さん曰く俺もその一人らしい。


 それから、俺が礼弥さんに頼まれたのは二斬の幼い頃にいた人物を探して、二斬が守ろうとすることを説得すること。

 .......いや、この言葉だとおかしいな。正確には二斬が自分を犠牲にしてまで守ることに執着することってところか。

 その説得材料のために俺は色々考えていたし、今いるメンバーと積極的に会話していたけど有益な情報を得られず。


 所長の中で気になった会話を整理してみるか。

 まず気になると言えば、ARリキッドを使うと体の一部に変化が訪れると言っていたこと。

 それによって、二斬はもともと黒髪であったのが今のような白に近くい銀髪になり、瞳の色も紅くなってしまった。


 それから、初出勤の時も確か俺に昔.......小学生の頃に女の子がいないか聞いてたな。でも、俺が知っているのは黒髪の女の子だし、それに名前は確か同じでも苗字が違う――――――――


『苗字を変えることになったんだよね』


 礼弥さんが何気なく言った言葉.......そうだ、ここが引っかかってるんだ。


 二斬は小学生の頃誰かと仲良くなった。しかし、ファンタズマによって小学校に通うことが難しくなりアストラルの研究施設に引き取られた。

 そこで二斬は仲良かったその子のために、その子がファンタズマに殺されないように苗字を変えてまで異能力保持者(アストラルホルダー)を目指した。

 そして、力を得る時にもとの髪と瞳の色を失った。

 

 ホルダーの仕事はファンタズマを倒すことだ。だがどうだ?

 二斬は普通に高校に通って過ごしていた。周囲に全く悟られることもなく、溶け込んでいた。

 しかし、用が無ければ高校には来ないし、ましてや俺なんかに話しかけることもない。

 それはきっと俺がファンタズマに狙われてたとかそう言う理由で.......違う。だったら、もっと別のやり方でいいはずだ。


『もしかしたら大切な人に思い出してもらえなくなる』


 所長が言っていた言葉だ。いや、所長が二斬から聞いた言葉の方が正確か。

 頭に一筋の光が通ったような気がした。いや、気がしたじゃない。

 ......そうか。そういうことだったのか。二斬は変わらず一生懸命なだけだったんだ。

 

 点と点がハッキリと一つの線になったような気がした。頭に雷が落ちたとでもいおう衝撃であったが、それが事実なら俺は二斬にハッキリと伝えなければいけない。


 俺は右手の缶をへこませるほど強く握ると一気に飲み干した。そして、すぐに所長のいる書斎まで走っていった。

 そして、勢いよく書斎に両手を置くと所長は俺にビビってた。


「どうしたどうした? 一度落ち着け」


「はあはあはあ.......ん、はい.......」


 短い距離ではあるが夏場の全力疾走はすぐに体が放熱するな。顔やら首やらから凄い汗が流れて、アゴ先から垂れてる。

 全く冷たい飲み物で体を冷やした甲斐がまるでないな。でも、それ以上に緊急なんだから仕方ない。

 一先ず俺は深呼吸すると所長に聞いた。


「所長! 確か通り魔事件の調査で二斬と来架ちゃんを行かせるって言ってましたよね? それ、来架ちゃんじゃなく俺に回してもらえませんか!」


「どうしてだ?」


「出来る限り早く伝えた方がいいと思いまして。じゃないと、()()()()で無茶な行動をするかもしれないので」


 そう言うと所長はニヤッと笑った。まるで俺がその言葉を言うのを待っていたみたいに。


「よし、そういうことなら―――――――」


「あっれー? すいません、結衣さん見ませんでしたか?」


 そう言って唯一の作業部屋から現れたのは白衣を着たポニーテールこと来架ちゃんだ。

 来架ちゃんは不吉な言葉を言いながら辺りをキョロキョロと見回す。


 俺は咄嗟に物置部屋、もはや礼弥さん専用となっている指令部屋に顔を覗かせるが、どこにも二斬の姿は見当たらない。

 相変わらずの改造部屋だ。いくらこの建物が私有物だからって事務所に部屋が多すぎるのはどうかと思うんだが。


「来架ちゃん、今二斬を探している理由は?」


「そろそろ通り魔事件が起こりやすい午後5時ぐらいになりますし、移動した方がいいかなと」


 所長はかなり前からこの任務があることを二斬に伝えていたんだな。

 ということは、二斬のことだから必ず事前にどんな事件なのか情報を集めるはず。


「ありがとう。来架ちゃん」


「え、あ、はい。どういたしまして?」


 来架ちゃんは状況がわかってなさそうにキョトンとした顔をする。

 その姿を尻目に見ながら机の上に置きっぱなしになっているタブレット端末について触れた。

 電源を入れると俺が最後に整理していた資料とは変わっていた。


 俺が最後に弄っていたのは通り魔事件だが、今開いてるのは同じく警察から回ってきた被害者は全員手足がもぎ取られていて胴体がないという惨殺事件。

 本来なら今日中にまとめて所長に提出するつもりだったが、二斬は恐らくついで感覚で討伐任務を実行してしまったのだろう。

 あいつ自身の信念のために。


「所長、上司の指示なしに行動するとどうなります?」


「そうだな.......」


 所長は背もたれに寄り掛かると腕を組んだ。まだ西日とは程遠いが窓ガラスから書斎に光が入り込んでくる。


「警察での流れはよく分からないが、少なくともうちではやることが討伐であるからして常に危険と隣り合わせであり、死とも隣合わせだ。だから、基本的に現場でなければ私の指示に従ってもらうことになるな」


「つまりルールを破ったと?」


「まあ、そういうことになるかもな。結衣の事情も知っているが、一度説教しないといけないらしい」


「なら、その役目。俺にやらせてもらっていいですか?」


 少し早口で語尾が強くなってしまった。それだけ怒りと急ぎたい葛藤が溢れ出てしまっているのか。

 きっとそうなのだろう。少なくとも、怒っていることは確かだ。

 俺は二斬がどんな思いでこれまで過ごしてきたのか知らないし、今もどんな思いなのか正確にはわからない。


 だけど、俺がこの世界に足を踏み入れた以上はもう戻れないだろが。

 だから、強くなる。もうあいつに心配かけないように。守ってもらわなくてもいいように。そう思ったんだ。

 

「あいつの無表情がぐちゃぐちゃに泣き崩れるまで叱ってきます」


 俺は事務所を出ると走り出した。体に雷を纏わせて、誰よりも、何よりも早く結衣のアストラルを辿って足を動かした。

読んで下さりありがとうございます(*゜∀゜*)

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