第20話 強化訓練#3
『凪斗、全身にマギを放出させろ』
『マギって何ですか?』
『マギって言うのはアストラルによって可視化されるオーラのことだ。私がお前を歓迎した時に見せたあの球体もそれによって作り出したものだ。もっともただのマギの放出は大して威力は持たないがな』
そう言って所長は右手を掲げると渦巻まいた球体を作り出す。
その球体からは異様な圧を感じた。恐らくそれからアストラルの気配を感じ取っているからなのだろう。
『そして、このマギを体の部分......たとえば腕なんかに集中的に纏わせるとその部分が強化され、防御と攻撃力がともに向上する。いわば、お前が電気で筋肉を刺激して潜在的力を引き出すようなものだ。試しにやってみるといい』
所長にそう言われた俺はいつも通り体に紫電を纏わせるとさらに脚部にマギが集中するように意識した。
そして、その場から一歩踏み出してみる。
床を軽く踏み込んだはずなのにバンッという音ともに俺の体は急激に加速した。
いつもなら3歩は足を動かして移動するはずの距離を1歩で移動している。
そのあまりの速度間に俺は恐怖して咄嗟に地面に両足をつけてブレーキする。
しかし、ブレーキは出来たもののその勢いを殺すことが出来ずに前方につんのめって転がっていく。
そんな光景を見ながら所長は言った。
『どうだ? それがマギにによる『集中強化』っていう基本的なマギの使い方だ。しかし、それはマギをかける量で効力が変わってくるし、一か所に集中させる分他の防御が薄くなる。そこを突かれたら終わりだ。だから、お前には瞬間的にマギによる集中強化させるという訓練をする』
『瞬間的って継続的には無理なんですか?』
『無理だ。時間が足りん。言っただろう? 一朝一夕で強くなるものではないと。それに私が一週間と言ったのは私に取れる最長の時間であり、同時にお前への罪滅ぼしの一種だ.......この世界に巻き込んでしまったことのな。だから、お前にはなればすぐに実践で使えるやつを教えてやるというわけさ』
俺は一週間という短い時間の中、ほとんど寝ずに全ての時間を修練に捧げてきた。
やる内容は全て基礎や体力アップとからしいが、どう考えても一週間で会得するのは難しいものばかりだった。
だから、所長はその中からいざ戦闘になった時に使えるものだけをまずピックアップしてくれた。
とはいえ、それもまた会得が難しいのはわかっていたつもりだったが、体がその感覚を覚えるという時間を考慮してなかった。
『999.......1000.......がはっ』
倒れ込むように体を伏せる。
動きやすいように気がエタ運動着も上から下まで汗でベットリ。肌につく感覚も気持ち悪い。
腕立て、腹筋、背筋、スクワット。これら基本の筋トレメニューを各種1000回、それも初回からで本題に入るためのアップだというから驚きだ。
最初に腕立てをやると後々他に響くかもしれないと思っていたが、最後にやるのも地獄だった。
腕が痛くて上がらない。筋肉が異常に張っているような感覚がする。力も入らない。
『ほら、立て。残された時間は少ないのだぞ?』
『は.......はい......』
俺は動きそうにない腕を無理やり動かしていく。
腹も背中も脚も張った状態で何が出来ようというのか。
『さて、これからやってもらうのはマギを正しい方向に素早く動かしていくものだ。戦闘で疲弊した状態は今のような感じだ。さらにダメージを受けていればさらに集中力をかくだろう。本来なら出来るようになってからなのだが、今回はそれを省略する――――――否、同時進行だ』
『わ、分かりました』
熱い呼吸が口から出したくてたまらない。冷たい空気を吸いたくてたまらない。少しは落ち着いてきたが、体はかなりだるい。筋肉痛は確定だな。
所長は足を肩幅に開いて両腕を広げる。そして、右手にマギを集中し始めた。
『右手のマギを素早く左手に移す』
そう言って右手だけ大きく膨れ上がっていたマギを右肘、右肩へと移動させていき、左肩、左肘、そして左手へと移動させた。
それが出来れば今度は両足も含めてランダムに、さらに出来れば肘や肩、頭と部位を増やしてどんどん流動的に動かす場所を増やしていくらしい。
『それじゃあ、それが出来たら私を呼べ』
『え? これだけですか?』
『これだけだ』
そう言って所長は帰ってしまった。
ここからは俺の修練をダイジェストで送ろうと思う。
***
俺は一人修練場に残って先ほど言われたことを意識する。
最初に踏み込んで走った時はただ纏わせたマギの量を増やしただけなので、今回の膨らませるとは少し違うらしい。
右手にマギと呼ばれる体を纏うオーラを集中させようとした。しかし、自分の理想通りにマギが集まらずほんの少し膨らんだだけであった。
所長が見せたバスケットボール並みの膨らみとはわけが違う。比べるのもおこがましいほど小さかった。
1時間経っても大きさは変わらなかった。
2時間かけても大きさは変わらなかった。
試行錯誤しながらいろいろなことを試したが初日は出来なかった。
***
2日目、案の定筋肉痛になった。その状態でやる筋トレは地獄だったが、自分が望んだことなので同じ量をきっちりやった。
所長からヒントをもらった。俺が思っていた通りイメージをしっかり持つというのは正しいらしい。
ただそこからもう少しやりやすい方法を自分で考ろという。
そこからのヒントが欲しかったのは言わずもがなだが、とりあえず様々な方法で夜遅くまで考えては試し敗し、考えては試し失敗しを繰り返した。
飯も食わずに集中してやっていた時はさすがに二斬に説教された。
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3日目は趣向を変えた。
俺は自分の体でどうにかこうにか出来ないかとずっと考えていたが、それが煮詰まり始めたのでいわゆる気分転換かつ発想の転換という意味合いで考え始めた。
そこで俺が考え付いたのは物を使った何かを出来ないかと考えた。
二斬に説教された際、二斬の武器いついて尋ねてみるとアレもマギによって具現化された武器らしい。
その武器は俺がやろうとしていることの発展形という。
俺はその言葉から家から引っ張り出してきた親父が使っていたゴルフボールを持ってきた。
それを右手に乗せてゴルフボールを包むようにマギを纏わせる。
マギは空気みたいなものなのでそれで大きさを形作り、ゴルフボールを抜き取ってしまえば一先ず右手にマギを集中させて何かが出来ると考えたのだ。
その発想は結果から言えば成功だった。ただし、成功でゴルフボールでの修練が終わった頃には一日も終わっていたが。
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4日目は前とやることは変わらなかった。
ただゴルフボールからボールの大きさを野球ボール、ソフトボール、サッカーボール、バスケットボールとだんだんと大きくしていった。
ゴルフボールでのやり方を参考にしたら、存外時間がかかることはなかった。恐らくやり方に慣れたからなのだろう。
そして、途中で今度はその大きさを維持したまま左手に動かす練習。
これがまた難しいのなんの。
大きさを維持して動かしているはずなのに肩に上がるまでに半分の大きさにまで小さくなっているし、左手まで流すころにはそのふくらみは無くなっている。
なら、右手と同じ要領で右肘、右肩にボールを作ればいいのでは? と考えると出来ても流動的には無くなってしまう。
その難題をクリアすることはその日では叶わなかった。
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5日目。所長に生ごみを見るような目で見られた。それは俺の構図にある。
結局思いつかなかった俺はバスケットボールを自腹でいくつか買って、俺が横になって両腕に沿うようにバスケットボールを置いたのだ。
確かに変な目で見られてもおかしくないが、これにはしっかりと意味がある。
俺はバスケットボール並みに集中させたマギを維持した方法が思いつかなかった。
なので、バスケットボールをいくつも腕に沿って置いて、最初のボールから次のボールまでマギを移動するよう意識した。
その試みは成功してボール頼りでありながら左手まで流すことに成功した。
後は反復練習あるのみ。ボールが使わずに済むまで繰り返していく。
集中力が増したような気がした。
気が付けば疲れなどを気にすることもなく、自分はひたすらマギの流動的操作をしていた。
もっとも残り2日で俺が望む練習まで行くか不安だったが。
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6日目の途中でようやく流動的操作を得とくした。当然ボールも使わず、両足も含めて。
所長からは「おせぇ」と言われた。本人的にはかかっても2日目の途中で呼ばれると思っていたらしい。
とはいえ、集中させたマギの大きさには驚きの様子であったが。
本来やろうとしていたことも押しに押しまくって、余った時間で押し得ようとしていたことは当然ない。
まあ、仕方何してもやはりショックは大きかった。その余った時間で教えてもらうのが秘奥義とかだったりすると酷く悔やまれた。
そんな俺の気持ちを知る由もなく急ピッチで修業は始まった。
まずやることは単純であった。所長が指定した箇所にマギを集中させていく。
「左手、右ひざ、左肩、右足、右手、頭、右耳、左腕」「え? え? え?」と途中指定されると思っていなかった場所の指定もありながら、その日は一日それで潰えた。
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最終日、俺が修練場に向かうと所長はテニスの跳ね返す練習かと思うぐらいのカートのかご一杯に入ったテニスボールを横に立っていた。
所長曰く「これを避けて瞬発的な動きを体に身に着けろ」とのことでまさしく鬼コーチかと思った。
しかし、これをクリアできれば本来会得するはずだったものは会得できるというので、俺は気合を入れてその修練に挑んだ。
そして、ココアシガレットを口に咥えた所長の投げたテニスボールは――――――俺の意識がハッキリした頃には頭を弾き飛ばしていた。
速いなんて感じじゃなかった。まずテニスボールが見えないのだ。
地面に寝かされ起き上がろうとしたそばから頭を射抜かれる。そして、後頭部から床に叩きつけられる。クソ痛い。
しかし、それが俺の望んだことであるために言い訳の使用もなく、所長は善意で"本気"で付き合ってくれているのだ。
俺はこれまでの自分で切り開いてきた道を振り返り、避ける。
瞬発的に足を集中強化して避け、次の予測される攻撃、自分の行動を考えながら再び瞬発的に足や手に集中強化をして地面を蹴る。
一つでも当たれば当然の如く横殴りのボールの雨が来て、再復帰まで時間がかかる。
さらに所長はボールを全て投げ終えるとその壁や天井に反射して帰ってきたほとんどを掴んで投げるという荒業に出たので、休む時間はほぼゼロだ。
時間経過とともに速さに目が慣れてきたのか、体の動きが自分の思考速度に追いついてきたのかボールに当たる回数が減った。
加えて、最初は大きく横に移動していたが、10時間経つ頃には無駄な動きを排除して捌けるようになった。
そして、俺は瞬発的集中強化を得とくすることに成功した。
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