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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第19話  強化訓練#2

「さあ、どこからでもかかってこい」


「ああ、やってやるさ!」


 俺はクラウチングスタートをしたように低い姿勢で飛び出すと高速で移動した。

 所長の目線は全くこちらに動く様子はなく、体の向きすら変えない。

 そして、俺が所長の背後に回って突っ込もうとした瞬間、頭で振り返った所長と目が合った。


 思わずゾゾゾッと鳥肌が立ち、感覚的に突っ込んではいけないと理解した。

 だから、その場から動き出すと所長の周囲をグルグルと回り始めた。

 先ほど振り向いたのは恐らく俺の行動を読んだからではないと思う。その他に俺の動きを感じ取れる何かがあったはず。


 .......そういえば、アストラルを得たばかりの俺が二斬を救おうとした時、どうして所長は二斬の居場所がわかったんだ?

 まあ、途中で見かけてその方角を覚えていたというのもあるが、もしそうじゃなかったら別に何かで知り得たということになる。


「所長、一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「走り回りながら質問とは余裕だな。もしかしてそれで気を逸らすつもりか? まあ、いいなんだ?」


 所長は腰に手を当てると俺の話に耳を傾けた。


「所長はどうやって僕の居場所を特定したんです?」


「あー、そういえばまだ言ってなかったな。といっても、私自身は何もしていないお前が居場所を知らせているんだ」


「どういうことです?」


「アストラルは強いエネルギー核だ。そして、アストラルはアストラルを引き寄せる。つまり誰かがアストラルを使えば、その気配をある程度の距離なら勝手に捕捉してしまうんだよ。だから、もう相手と敵対している時点では気配立ちしてもほぼ無意味」


「つまり戦闘中で不意打ちするのは難しいと?」


「まあ、そう言うことだ。とはいえ、あんまり使う機会はないのだが、お前のような肉眼で捕捉しにくい相手にはうってつけってことさ」


 なるほど。ならば、今のように周囲を回っている状態は常にそこに気配が残留している場合はどうなんですかね!


 側面から勢いよく飛び出すと顔に向かって蹴り込んだ。しかし、それは左腕で止められる。

 距離を一旦取るとすぐに接近し、膝に向かって下段蹴り。だが、それも軽く上げた左脚だけで受け止められる。

 弾かれたまま逆回転するとそのまま遠心力を活かした右の裏拳。それは右手で受け止められ、咄嗟に繰り出したサマーソルトキックも左腕で防御される。


 俺はすぐに距離を取って再び所長の周りを走り始める。

 全ての一連の動作はほんの数秒で行った攻撃だ。しかし、どれも通用しなかった。

 時間が止まったかのような感覚で動いたにもかかわらず、その動きは全て見切られ防がれた。

 弄ばれている感覚がしなくもない。ならば、さらに電力を上げるか。

 

***


「はあはあはあ......」


「ようやくくたばったか。三回も攻め込んできやがって。全く面白い奴だ」


「面白くねぇ~」


 所長を円の外から動かすという名目の修練は制限時間30分を使い果たしても動かすことが出来なかった。

 しかも、3回もトライしているにもかかわらず、所長は汗一つかいていない。

 まるで岩を殴っているかのように固いし、動きは読まれるし、当たったらなぜかこっちが痛いし、投げ飛ばされるしでタイムアップと同時に天上を眺めるように大の字で寝た。


 体中の穴という穴から汗が出ているかのように噴き出してくる。

 これもアストラルによる新陳代謝の向上が原因らしい。おかげでワイシャツはべっちょりだ。

 体の中に熱がこもり続け、熱い吐息しか出てこない。のど乾いた。


 それにしても、今の3回は凄く壁を見たような時間であった。

 当然長くこの仕事についていた方が強いのは当たり前だ。しかし、ここまで壁があると何だかちょっと心がやられてくるが我慢だ、我慢。

 せめて一撃でも直撃出来れば良かったと思ったが、それすらも叶わせてくれない辺りがより現実感を帯びている。

 けどまあ、そこは経験値を集めていかないといかんよな。よっしゃ、もう1回いくぞ。


 そして、俺が動こうとすると丁度頭の近くに所長がやって来た。

 俺は思わず目線を逸らす。なぜなら目の前には滑らかなタイツによる曲線美からのタイトスカートの中がそうになっていたからだ。

 当然、タイツがあるから中が見えないとわかっていても、目を逸らすのは当たり前だろう。それにこの人は危険だ。


「なんだ? 興奮しないのか?」


「俺でからかうのはやめてください。それと、どっちにしろ見えないです」


「なら、タイツを脱いでここでもう一度こうやったら見るのか?」


「所長は俺をどれだけの変態と思ってるんですか? 俺は良識のある足フェチです!」


「そんなに堂々と性癖を暴露されてもなぁ.......」


 もう今更所長に何を隠そうともバレるのは時間の問題なんだ。今バラしたとて痛くもかゆくもないわ!


 所長はゴミを見るような目を一瞬向けると自分でもそれに気づいたのか気を取り直すように1回咳払いをする。

 そして、一歩後ろへ下がってくれたので、俺は上体を起こした。

 すると、所長は質問してきた。


「なあ、お前はどうして3回も挑もうと思ったんだ?」


「どうしてとは?」


「そもそもこの目的はお前の能力値を測るものだ。それはお前自身も気づいていただろ。そして、それは1回測れば十分だ。確かに、プライドの問題やら単に負けず嫌いやらと男にはありそうだが、お前には別の目的があるように感じた。だから、3回も挑んだのだろう?」


「.......」


 俺は伸ばしていた両足を戻してあぐらをかくとその質問に答えた。


「俺は恩返しがしたいだけですよ」


「恩返し?」


「俺はこの世界があることを知って初めて自分が"生かされている"のだと気づきました。常にいつ死んでもしくない中、こうして生きているのは守ってくれる人がいるからのことだと。そして、ひょんなことにこの世界に迷い込んだ俺はチャンスだと思ったんですよ。今度は自分が守ってあげる番なのだと」


「それは.......結衣のことか?」


「まあ、そうなりますかね。二斬は身近で俺をずっと助けてくれていました。あいつはあの夏の夜で俺が傷つけられた時のことを後悔しているようですけど、別に二斬が悪いと思っているわけじゃありませんし、なんならこの命は二斬に助けられたようなものです。命の恩人に何もしてあげられないのはダメだと思うんですよ」


「それで3回も挑んだと? だが、一朝一夕で強くなるわけじゃないぞ」


「わかっています。異世界ファンタジーの主人公みたいなチート能力や最強ステータスじゃないことはあの3回で痛いほど実感しました。それでも早く強くなれるならそれに越したことはないでしょう? 早く強くなれればそれだけ二斬を危険な目に合わせなくて済むということですから」


「.......なるほど。お前も結局似ているのだな」


 所長は何かをボソッと言った気がした。しかし、何を言ったかわからなかった。

 ともあれ、これが俺の本音であることは確かだ。

 本来なら、俺は二斬が来てくれなければあの夏で死んでいたのだ。今さながら強くてニューゲーム。

 新しい環境にて、不思議な能力という意味ではその言葉は割にピッタシだと思っている。


 俺は強くならねばならない。

 もっともっと強くなって二斬が俺にしてくれたように、今度は俺が二斬を守るんだ。

 だから、俺は―――――――


 ゆっくりと立ち上がる。濡れたワイシャツに空気が触れて冷えたせいか肌に当たるとひんやりと感じる。


「所長、ナンバーワン(最強)を目指すってのはアリですか?」


「ああ、アリだと思う」


 所長は笑わずにそう告げた。そして、こうも言った。


「じゃあ、手っ取り早く一週間で今の3倍強くしてやるよ。当然、その分密度も濃くなって、睡眠は人間が活動できる最低限でな。出来る限り早く強くなりたいんだろ?」


 それはそれはとてもいい笑顔であった。人をイジメることに喜びを見出している真正なるドSの顔だ。

 数字も妙にリアリティがあるから以上に怖い。

 俺は、うん、間違いなく地雷を踏み抜いた。


「そんじゃあ、今から口も叩けなくするほど鍛えてやる。私もお前の不眠不休に付き合うんだから覚悟しやがれ!」


「今、不眠不休って言った! 不眠不休って言った! もうさっきの言葉とちが―――――――あああああああ!」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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