第184話 最終決戦#4
「フィナーレだ? 終わらせるだ? ここをどこだと思っている! 俺の精神だぞ! つまりは俺はここでは神に等しいのだ!」
「ごちゃごちゃうるせぇぞ。三下に見えるぞ?」
「それにどれだけお前が有利であろうがここでお前を倒すことには変わりない!」
「なたば、このオレに証明してみせろ! 貴様らの強さをな!」
その瞬間、俺と親父の周囲の空間に無数の黒い穴が出現した。例のワープ穴だろう。そして、その穴から飛び出してきたのは無数の剣だった。
まるで串刺しにしようという勢いで一斉に襲い掛かってくる。それに対して、親父が空中に炎の渦を展開させた。
「炎熱渦!」
それによって、周囲の剣は一瞬にして消し炭になっていく。一体どんな高火力なんだその炎?
「凪斗! 俺も全てを防ぎきれるわけじゃない! 機動力が高いお前が先に奴に向かって走れ!」
「わかった!」
俺は体を倒していくと光の尾を引いてその場から脱出していく。そして、向かっていくのは正面にいる閻魔ただ一人。
「させるか!」
閻魔は現実世界と同じように両腕から二本ずつの腕を生やしていくとそれを長くのばし、鞭のようにしならせて襲って来る。
ただでさえ親父と張り合った実力の持ち主なのかわからないが、その高速で振るわれる腕は速すぎて糸のような細い残像しか捉えられない。
しかし、その僅かな残像で軌道を読みながら着実に前に進んでいく。わずかに腕や足を斬られてしまったが、十分に動けるレベルだ。
その瞬間、俺の走る目の前で斜めに細長に伸びたワープ穴が出現した。
それを見た瞬間、妙な嫌な気配がしたので咄嗟に高くなってる方へと移動していくと案の定腕が飛び出し、薙ぎ払ってきた。
僅かに俺のしゃがんだ際の上がった髪の端が空中で散っていく。あと数センチ上に頭が合ったら頭が切断されてたな。
「まだ終わりじゃないぞ?」
「!」
閻魔はしゃがんだ時の僅かな失速を見逃さなかった。残りの五本の腕を再び俺の正面に出現させたワープ穴から伸ばしてきたのだ。
避けれるかどうかは五分五分。しかも、その蹴られるかは確実に命があるかどうかの判断だ。タイミング的に避けれても確実に片腕が吹っ飛ぶ――――
「考えすぎは良くないぜ」
その瞬間、俺の真上から親父が大剣を下に向けて落ちてきた。それによって、閻魔の五本の腕が四方に吹き飛んでいく。
その親父の後ろ姿は理一さんに似てるような気がした。なるほど、理一さんは親父のこういう背中に憧れて大剣を使っていたわけか。
「先に行くぞ、親父!」
「全く速いな、子供の成長ってのは」
俺は親父を追い抜くと素早く閻魔に接近し、固く握りしめた右拳を振り抜いた。
しかし、それは閻魔の最後に残った左手で受け止められ、素早く右腕を再生させると空間から剣を取り出してそれを振り抜かれる。
俺はそれを左手のアルガンドで受け止める。そして、素早くその場にしゃがむと大剣の柄を持った親父が閻魔めがけて大剣を投げ飛ばした。
「くっ!」
しかし、閻魔は直撃する寸前にところでバックステップしながら勢いを殺しつつ、両腕で大剣の腹を掴んで止めに入った。
大剣の勢いに押されるまま閻魔はズズズッと後ろに下がっていく。そんな絶好のチャンスを逃す俺ではない。
「雷槍」
俺はそれを刃那さんから教えてもらった空間剣精製をイメージして右手の周りに五本の雷で作った槍を作りだし、右手を振るうとともに槍を飛ばした。
俺の追撃まで受け止められなかった閻魔は四肢にそれぞれ槍が突き刺さり、さらに残りの一本は大剣の勢いをダメ押しするかのように当たり、大剣は閻魔の胴体を貫通させた。
「ククク、ハハハハハ! やるな! さすがオレが求めた至高の肉体だ。だが、こんなもので俺が死ぬわけなかろう。俺の中にある核が壊れぬ限りな。
だが、当然その核はオレの体の中を絶えず巡っている。どこにあるかもわからないお前らには到底壊すことは不可能だ」
「どうも弱点教えてくれてありがとう。だったら、その肉体を全部燃やし尽くせば終わることだろう?」
「言っただろう? ここは俺の精神だと。いくらダメージを受けようが、核を傷つけられなければこの肉体は復活するし、お前の炎ごときで傷つけられるものではない」
「なら、壊れるまで攻撃するだけだ」
「やれるものならな。だが、ここからは俺のターンだ!――――暗黒重力場」
閻魔は周囲に再びワープ穴を無数に出現させるとそのワープ穴同士を接触させた。
すると、ワープという異次元同士に化学変化と言うべきものが起こり、その場に強力な重力場が発生していく。いわゆるブラックホールみたいなものだ。
そして、そのミニブラックホールに体が持っていかれそうになる。しかも、手足別々のミニブラックホールに捉えられているせいか体が捻じれていきそうだ。
「これで終わりではないぞ? さらにこの空間に傷つけた次元のひずみがお前らを襲う!」
閻魔がそう言うと先ほどまで何もなかった空間に無数の切れ目が出来始めた。
そして、その切れ目は俺の腕や足の上にも発生していて、明らかに嫌な予感がするそれらに逃げたくてもミニブラックホールに掴まって動けない。
「とくと味わえ――――空間断裂」
その瞬間、俺の手足の上に発生したその空間は僅かにズレていき、それに合わせて俺の手足もズレていく。
「「うああああああ!」」
直後、俺は激しい痛みに襲われた。ここが精神体であるせいか血が出るわけではないが、ズレた手足から絶えず激痛が走り続ける。
ズレた空間にいる限り痛みを受け続ける。そう思った俺はとにかく足を踏ん張らせて、歯を食いしばって重力場に盛らないながらその空間の切れ目から離れていく。
案の定、俺が腕を動かしていくと同じように切れ目も移動していった。厳密には切れ目は移動していないのだが。
しかし、状況は最悪。辺り一帯にある重力場と空間の切れ目によって俺の足は完全に殺された。せめて重力場がなければ......いや、消す方法ならある!
だが、肝心の閻魔を倒す方法が見つからない。あいつは「核がある」と言っていたが、同時に「体の中で絶えず巡っている」とも言っていた。
あいつがこんな状況で下手な嘘をつくはずないし、ここはあいつのホームであいつは勝ち誇ったような顔をしていた。
つまり、あいつは俺達じゃ殺せないと思っていて、最初の俺達の攻撃は様子見ってところか。
だがもし......可能性があるとすればこの力しかない。まさしくご都合主義全開のように発言したこの能力をフルに使わなきゃな!
「親父、素手であいつを圧倒できるか?」
「......あぁ、最初の僅かな時間だけな。何か策があるんだな?」
「策って程でもない。ただ一瞬あいつを怯ませるだけだ。後は連続で隙を与えないように攻撃を叩きこむ。それだけだ」
「なら、最後のアシストは俺に任せておけ。俺に秘策がある。だから、頼むぜ凪斗。最後に立派な男になった所見せてくれ」
「わかった。任せろ」
そう返事をすると親父は重力場と空間の切れ目がひしめく一帯へと突っ込んでいった。
「バカめが」
そう言って閻魔は両腕を動かすその前に俺は電撃の放電をイメージして対異能能力をこの一帯に展開させた。
「無能空間」
俺中心に膨れ上がった波動が次々と重力場と空間の切れ目を飲み込み、消滅させていく。
その突然の事態に閻魔は驚きつつも、正面から迫る親父に対処しようと両腕を構えるが何も発動しない。
「能力が使えない......! クソ、どういうことだ!?」
「俺相手によそ見は厳禁だぜ」
「ぐはっ!」
親父は閻魔へと接近するとまず思いっきり顔面に一発入れて素早く膝蹴りを入れるとともに回し蹴りで蹴り飛ばした。
閻魔は地面を転がりながらも素早く体勢を立て直すも、その後ろに俺は素早く移動していた。
「もうここはお前の空間じゃない! 俺達の空間だ」
雷を纏った素早い攻撃を連続で与えていく。十分な感電をしたのか閻魔は痺れて動かないまま吹き飛んでいく。
そして、その正面に立った親父が閻魔の肉体を思いっきり蹴り上げて、閻魔は死に体のまま宙に浮かびそのまま落下していく。
「親父、行くぞ」
「任せな。ちゃんと合わせてやるよ」
そう言って俺は無能空間を解除して走り出した。そして、右手に持つのは雷で作りだした剣。対する親父も手には大剣を持っている。
それから、俺達は阿吽の呼吸で交わるようにして閻魔へと最後の一撃を与えた。
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