第183話 最終決戦#3
閻魔は図体が大きくなって気も大きくなったのが、もうすでに勝ち誇った笑みを浮かべている。
そして、おもむろに一本の右腕を振り上げると俺に向かって振り回してきた。
「くっ!」
俺は咄嗟に次の足場へと飛び移るが、右手が元居た俺の足場に直撃した瞬間に起こった風圧で体が持っていかれる。
壊れた瓦礫は壊れた後で尚宙に浮いている。俺自身には反重力のような感覚は感じない。物体にだけ作用する類の能力? それとも単にあいつのマギによる操作なのか。
「次だ」
閻魔はそう告げると俺を追って右手を横薙ぎに振るっていく。背後から家や岩盤、ビルを粉砕しながら迫りくる巨大な手。
その手に追いつかれないように次々と別の足場へと飛び移っていく。すると、背後ばかり注意を向けていると前面からもガガガッと激しい音が聞こえてきた。
すぐに正面を向くと左手が同じようにして迫っている。挟み撃ちでぺしゃんこにしようってか。ここは上に逃げる......いや、あえて後ろへと下がるべきだ!
俺はあえてギリギリまで両手が迫ってくるのを待つと一気に距離を取るように後ろに下がった。すると、閻魔は左右から挟み撃ちにしようとする手の他にその二つの手に合わせて上下からも挟もうとしていた。
つまりはあの状況で上に行っても下に行っても叩き潰されて終わり。掌の中も今頃無数の瓦礫だらけであろう。冷静な判断が出来ている。まだ大丈夫。
「上手く躱したな。次はどうだ?」
そう言って閻魔は手に挟んだままの瓦礫をそのまま胸元まで引き寄せる。そして、バスケでパスするみたいに手に詰まった瓦礫を一斉に投石してきた。
おいおいマジか!? その質量弾を避けるのはさすがの俺でも不可能だ。となれば、一か所に集めてやる!
「電磁重力球」
両手を胸の高さ程までに挙げて、両の手間に雷を発生させる。そして、その雷を球体状に圧縮していくとそれを目の前に放った。
すると、中心に核となる雷の球体がそこからさらに紫電の球体をを作り出し、周囲の瓦礫を吸い寄せていく。
瓦礫が吸い寄せられているのは少なからずの金属が反応しているからだ。まあ、さすがに木とかは避ける必要があるけど、このおかげでほとんどは球体の方に集まっていった。
「さて、お返しと行こうか!」
俺はその瓦礫の塊となった電磁重力球に向かって走り出す。そして、右手に体程ある巨大なアルガンドに変えるとそこ瓦礫をぶん殴って飛ばした。
その狙いは正しく弱点かもしれない赤い核。弾き出された重力球は瞬く間に閻魔の赤いコアに当たると爆散する。
「あああああ!」
ダメージを食らったかのような叫びを閻魔がする。どうやら、あそこが核で間違いなさそうだ。
閻魔の巨大な体が大きく前後に揺らめく。そして、頭が前に垂れていったかと思うと巨大な一つ目で俺を睨んだ。
「ぐふっ!?」
その瞬間、真下からアッパーカットが来ていたことに気付かずにその攻撃をモロに食らってしまった。体が重力で押し潰されてるみたいに体が拳に張り付いていく。
それでいて衝撃が一瞬にして全身に駆け巡って頭がクラクラする......くっ、脳震盪か。それに、今の一撃で内臓もやられたみたいだ......口に血の味がする。
閻魔が体を揺らしたのは演技か? いや、攻撃が当たった瞬間は確かに苦悶の表情をしていた......つまりほんのわずかな油断を突かれたわけか。
やがて、拳の突き上げも終わり俺は空中でさらに高く飛んでいく。空に浮かぶ曇天がだいぶ近い。先ほど雷雲にしたせいかゴロゴロと唸りを上げて青白い光を明滅させている。
「お前をここで殺す!」
「そう簡単に殺されてたまるかって!」
体にかかる勢いが次第に弱くなっていくと今度は自由落下していく。ははっ、まさか人生初のスカイダイビングがこんな形になるとはな。よし、まだ余裕がある。焦っちゃいない。
俺は体を大きく広げてバランスを取って落ちていく。すると、閻魔が六本もある腕の指先から計三十もの砲撃を放ち始めた。
赤い光が俺に向かって迫ってくる。それを今度は体を一直線にするようにして落ちることで落下速度を加速させながら、体を左右に傾けて砲撃の雨を避けていく。
赤い砲撃が流れた線の尾を引かせすぐ横を通り抜けていく。しかし、それだけの終わらないのかその通り過ぎた砲撃は軌道を大きく変えて俺を追ってきた。ホーミング性あんのかよ!?
しかし、こんな空中にいる時点で着地なんてしたら下半身が持っていかれるわけで、だったらこの落下スピードを活かしてやることは一つ。
「お前の肉体をここでおいて行け」
「やなこった!」
閻魔が六本の腕を俺に合わせて差し向けてくる。前門の手に後門のホーミング砲撃ってか? どっちいってもバッドエンドじゃん。けど、その前に!
「先に一発食らいやがれ!」
「がああああ!」
ズドンと俺が右手を振った瞬間に閻魔へと光が落ちた。そして、直後に聞こえるのは雷鳴が唸りを轟かせる音。それによって、閻魔の行動が一瞬止まった。行ける!
俺は閻魔の固まった指に手をかけるとそのまま勢いを殺さずに転がるようにして、足が下になるように向きを変えた。そして、狙いすましてのライダーキック。
「ダメ押しの一発だああああ!」
俺はアルガンドを装着した右脚に空中から雷を落とした。これによって、雷撃を纏った俺の蹴りの威力は重力加速度と合わせてバカみたいな威力になったはず!
そして、その蹴りが閻魔の赤い核に直撃した瞬間――――俺の世界は真っ白に包まれた。
*****
ふいに目覚めるとそこは天井も地上も果てしなく白に覆われた世界。地平線らしき方にも永遠と白が続いている。
「死んだのか?」
「ま、そう思っても仕方ねぇな」
「!?」
ふいに聞こえてきた大人の声。俺よりも若干低い声でどこか懐かしい感覚がする。
そして、すぐさま聞こえてきた方向に目を向けてみるとそこにはあごひげを僅かに蓄えた男の姿があった。
.......ああ、感覚でわかるってきっとこういう感じを告げるのであろう。自然と胸に何か熱いものが込み上がってくるこれが。
「親父......か?」
「世間一般的にはそうなるな。まあ、実際親父らしいことは何もしてやれてねぇからあんまり胸を張って返事はできねぇ」
そう言う親父――――天渡炎治の姿は最初に閻魔に会った時とそっくりな姿だったが、その時よりも優しい笑みを浮かべる男であった。
そして、俺に近づいて来るとそっと俺を抱きしめてきた。
「良かった......無事に生きててくれて。良かった......こんなにも大きく育ってくれて」
筋肉質な胸と腕、ゴツゴツした指の感触が伝わってくる。しかし、そこに体温は感じない。まるで人形に抱きしめられているかのように冷たい。
あぁ......そう言うことか。いや、別に悲しくなんかは......ない。俺自身、どこかでわかってたことだから......それに俺も同じになっちまったし......。
そう思うと無性に涙がこみ上げてきた。写真ぐらいでしか顔を思い出せなかった親父にやっと会えたけど、それによって失ったものも大きい。
嬉しさと悲しさが同時に襲ってきてもはやどっちの感情かまるでわからない。すると、親父はそっと俺から離れて頭に手を置いた。
「泣くな。男ならヒーローみたいにカッコよくねぇと。それにまだ全て終わっちゃいねぇ」
「終わってない......?」
「ああ、ここは奴......閻魔の精神体みたいなところだ。つまりは一番閻魔の命に近い場所。
まだ閻魔は死んじゃいない。ここで俺達が決着をつけようじゃないか」
「......ぐすっ、そうだな。親父」
親父はそっと俺の背中を叩く。正しく励ますという意味でであろう。すると、俺と親父の目の前に地面から黒い影が現れた。
そして、そこからは俺が先ほどまで対峙していた一つ目の閻魔が現れた。しかし、腕は左右一本ずつで足もある人型の形であった。その閻魔は怒り心頭の様子でこちらを睨む。
「さて、堂々のフィナーレを飾ろうか」
「ここで全て終わらせる」
俺と親父は息を合わせたように身構えた。
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