第181話 最終決戦#1
加里奈さんに現場まで送ってもらっている時に所長の思惑を聞いた。聞いたすぐには「言ってくれればいいものを」とか思ったが、よくよく考えてみれば自分の体がどうなってでも向かっていたと思った。
故に、所長はあえて俺にあのような態度を取ることで、俺に体に加わった急激な負荷を取り除こうと考えてくれたのかもしれない。
本当に俺のことを見透かしてばかりの人だ。親父はなんて人を弟子に置いたのか......いや、あの人も割に手玉に取られてたんだっけ?
そんな僅かな心の余裕を持ちつつ、現場に現れた時にはすぐにその余裕は消え去った。
崩壊した街並み、昼のような明るさを作り出す炎に、死屍累々となっている街の人々。風が黒煙を運んできて、焦げ付いたニオイに全身が包まれるようだった。
そして、地上には異形となった閻魔とボロボロの結衣達。それから、天から降りそそぐ無数の巨大な火球。一つ一つが高火力の爆弾であるかのように地上に触れれば爆発し、地面を赤熱させる。
ここに来るまでに通って見てきた景色とはここだけが一変していた。それを作り出したのが天災でもなければ、たった一人の最凶のファンタズマによって。
俺はすぐさま走り出した。そして、高速で移動しながら指先から天に向かって落雷の火種となる電気エネルギーを送り込んだ。
それからは結衣達に直撃しそうになった火球を落雷で素早く破壊していき、窮地を脱出させる。ありがとう、皆。後は俺が引き受ける。
「凪斗......!」
擦り傷や土煙で汚れた結衣が目を輝かせてこちらを見る。結衣にとっては俺が最後の希望なのだろう。この二年間、俺が死んだという雰囲気の中でも結衣だけは信じていたみたいだからな。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「ヒーローは遅れながらも必ず現れるもんだからな。にしても、随分と遊んでくれたみたいだけどな」
「こうすればすぐに来ると思ってな」
不敵な笑みを浮かべる閻魔に対して、こっちも不敵な笑みで返してやった。決して余裕がないことを悟られてはいけない。
「親父の顔を初めて見るけど......そんな感じなんだな」
「安心しろ。すぐに会わせてやるからな」
「いかにも悪役が言うセリフって感じで逆に安心したぜ」
「お前は殺すのか? 親父を?」
「そのためにこの二年、お前に対抗できるだけの準備を整えてきた。いいか? 俺を舐めてると痛いぜ」
「なら、その証拠を見せてもらおうか」
あいさつ代わりの会話はここで終了。次はあいさつ代わりの拳の語り合いってわけか。俺も多少ながら体のダメージは残ってる。短期決戦で決めるには丁度いい。
閻魔がニヤりと笑う。その瞬間、辺りに砂煙を残して消えていった。それに合わせて俺も全身に纏わせた雷をそのままに動き出す。
次の瞬間には一秒と満たない刹那の時間で互いの攻撃が決まっていた。
俺と閻魔の突き出した拳は互いを一撃で沈めんばかりの威力で交わっている。
閻魔の拳の二つを両手で受け取めたものの三つ目の拳が顔面に当たる。その一方で、俺は閻魔の腹部に鋭い蹴りを与えていた。
互いのぶつかった衝撃で両者距離を取るように地面を転がっていく。しかし、すぐに体勢を立て直すと次の行動に移った。
走り出すとすぐさま閻魔に肉薄し、拳に装備したアルガンドで叩く。しかし、それは閻魔の左腕でガードされ、逆に三つ縦に並んだ拳を俺の左レバーへと深く抉り込むように放ってくる。
閻魔の踏み込んだ足を蹴ることで後ろに下がりつつ、それを左腕でガードしながら威力を減少させていく。それでも腕が余裕で痺れるほどの威力なのだが。
吹き飛ばされて地面を転がりながら受け身を取るとすぐに閻魔を見た。だが、いない。どこだ......上か!
気づいた頃には閻魔が足を踏ん張らせて落ちてきた。それを転がって避けるも、閻魔を中心に地面が大きく凹んでいくために俺が欲しかった距離までは取れなかった。
そこに追撃とばかりに閻魔が右腕をダダダンと連続で叩きつける。しかし、そこは地面。紙一重で避けた俺は両足で閻魔の顔を挟み込むとバク転する勢いで閻魔を投げ飛ばしていく。
そして、すぐさま体勢を立て直すと巻き上がった砂煙の中から閻魔は拳に炎を纏わせて正拳突きのような構えをした。
「炎貫」
閻魔が空間に正拳突きをするとその衝撃が放たれた炎を回転する槍のような形状に変えて高速で飛んでくる。
その三つの炎の槍の周囲には衝撃波も発生しているのか辺りの瓦礫を吹き飛ばしながら、一切の障害をも焼いて貫いて向かって来る。
「雷銃」
俺は右手で人差し指と中指を揃えるようにしてを指鉄砲作るとその指先から電気エネルギーを凝縮させたエネルギー弾を作り出し、三つの炎の槍に対して迎撃していく。
放った三つのエネルギー弾は途中で炎の槍とぶつかると三つの大規模な爆発を起こして焦土となっている地面に三つの穴が出来た。
「さすがにもういいだろ? 時間稼ぎは」
「バレてたか」
閻魔に見透かされるようにそう言われ、もう隠す必要はないのでハッキリ返答した。
閻魔の言う通り、俺のやっていたのは閻魔の小手調べもあるがそれ以上に戦場で倒れている所長達や結衣達に避難してもらうことだった。
ここはより激しい戦場になる。そして、閻魔のスピードに追い付けるのは俺しかいない。それに庇ってる余裕はない。あいつを全力で倒すことに集中したいからな。とはいえ......
「お前の動きはなんとなくわかった。ここからはずっと俺のターンだ」
「何を言いだすかと思えば。お前が見たのはお前の親父の能力だけだぞ? 俺のもう一つの能力を見ても同じことが言えるのか?」
「恐らくな」
「吐いた唾は飲み込めんぞ」
閻魔が若干イラ立ったような顔をしている。いいさ、その顔をすぐに屈辱の顔に変えてやる。俺の全力で持ってな!
「雷電負荷......百パーセント」
全身に纏わせたマギを全て雷へと変換させていく。それによって、肉体及びマギの能力が大幅に向上した。
これはいわば諸刃の剣といえる。無理やり筋肉に電気信号を送って通常人では出しえない力を発揮させるものだからな。
体の負荷が半端じゃないのだ。それについ数時間前には別の能力を発現させたことによってもう既に体にダメージはあるにもかかわらず、それを使うってことは傷口に塩を塗るのと同じ。
だが、短期決戦と決めた今。俺は閻魔に対して出し惜しみはしない。あいつをなすすべなく圧倒する。
「いくぞ」
「ハッ、来――――いっ!?」
「遅い」
閻魔が言葉を言いきる前に閻魔の顔面に拳を叩きこんだ。そして、殴り飛ばされた閻魔は俺の雷の拳によって痺れて動かなくなり、その間に俺は高速で反対側に回り込み連続で殴る。
十数発と背中に叩き込まれ吹き飛んだ閻魔は追撃に来た俺に対して、自身の正面にワープを作ることで避けた。
しかし、俺にはそれは関係ない。閻魔の特性は過去に親父が対峙した時に残した記録に残っていた。
閻魔はワープする時、必ず空間の一部が揺らいで風が発生する。そして、長時間異空間に留まることは出来ず、必ず数秒後には地上に現れる。
故に、俺のやることは一つ。全身の感覚を研ぎ澄まして違和感のある風の揺らぎを捉える。だが、狙うのは必ず大きな揺らぎだ。
俺の横から現れた拳ではなく、両足を捕らえるように地面から現れた手でもなく、それらを躱した先に出てくる本体を。
その瞬間、俺の広範囲に広げたマギの探知は距離十五メートルの所で不自然な揺らぎを確認した。そして、その場所の一瞬で移動すると現れた閻魔の顔を掴み、ワープ穴から引っ張り出す。
「爆雷」
それから、思いっきり地面にめり込むほど叩きつけると顔面を掴んだ手から電気エネルギーを暴発させた。
その瞬間、白い閃光と共に半径五メートル範囲には雷の結界ともいえる青白い雷が半球状に拡散していった。
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