第178話 捨て身の一撃
――――二斬結衣 視点――――
私達が一般市民を襲うファンタズマを掃討する一方で、所長達と閻魔の戦いはついに始まった。
まず最初に仕掛けたのは理一さんと金剛さんだった。
おじいちゃんが高速で閻魔へと間合いを詰めていき、勢いを思いっきり乗せた→拳を閻魔に叩きつける。
しかし、閻魔はそれを右手で受け止めた。逃げた力が地面に伝わって凹ませるほどであったにもかかわらず。
「さすがに力は強いな」
「止めておいてよく言うわい」
おじいちゃんは素早く左拳のフックで閻魔の顔面を狙いに行くが、拳の挙動すら見えないその一撃を避けられ、掴まれた右手を振り回されて吹き飛ばされる。
すると、そこに理一さんがジャンプ斬りで思いっきり攻めてきた。それを紙一重で躱す閻魔であったが、大剣が地面に直撃した瞬間、地割れを起こしながらそこから思いっきり爆発させた。
まるで火山噴火のごとき勢いで炎の柱が天へと昇っていく。するとその瞬間、天へと昇った炎は急速に爆心地へと集められていく。
「炎は効かないと言っただろう。返すぞ」
炎を圧縮する勢いで周囲の煙をかき消した閻魔はその球体となった高密度の炎を理一さんに撃ち放つ。
「だったら、同じ炎を引き継いだ俺にも効かねぇよ!」
理一さんはその炎の球体を大剣の腹で受け止めるとそのまま真上に弾いた。そして、閻魔に近づくと大剣をまるで双剣で攻めているような連撃で攻めていく。
しかし、そのどれも閻魔の手で弾かれていく。そして、理一さんが振り下ろした大剣をそのまま足で踏み、地面に固定すると腹部に思いっきり右拳を入れていく。
理一さんは体を大きくくの字にさせて吹き飛んでいった。しかし、もはや誰かがダメージを負うのは覚悟であるように、所長とおじいちゃんが立て続けに攻める。
所長は高く跳躍すると鞭を利用して炎の球体を掴み、それをもう一度閻魔へと投げ返す。
「お前らには学習能力がないのか?」
閻魔は淡々と言葉を吐くとその炎を右手で受け止め、さらに回転をしながら背後方向からやってくるおじいちゃんに向かって炎を投げた。
おじいちゃんはそれを両腕をクロスさせながらもそのまま突っ込んでくる。
大きな爆発が起こった。瞬く間にこの場所一帯を明るくしていき、曇天に吸い込まれるように煙が昇っていく。
しかし、その煙から顔面と両手の籠手がボロボロになって破壊されながらも、鋭い眼光をしたおじいちゃんが速度を変わらずにして突っ込んでくる。
「脳筋ジジイめ」
「じゃが、それでもお主への十分な抵抗手段にはなる」
おじいちゃんは鋭く拳を腰まで引いていくと閻魔に向かってストレートに放った。しかし、その正拳突きともいえるその攻撃は閻魔が後退すれば届くはずも――――
「ぐはっ......!?」
「何を驚いておる。ただの拳圧じゃ」
閻魔は体に走る強い衝撃に血を吐いた。拳から放たれた衝撃によって内臓を傷つけられたようだ。
そして、空中でバランスを崩した閻魔に追撃の一撃を与えていく。
閻魔は咄嗟に腕をガードさせるが、閻魔が叩きつけられたのは真下の地面で衝撃を逃がすことも出来ずに、二人を中心に大きく抉れるような地面の凹みが出来る衝撃に閻魔は襲われた。
しかし、それは閻魔を仕留めるにはいかずに閻魔が自身の周りに炎を出すと同時におじいちゃんは距離を取った。
その場所一帯は閻魔によって燃える大地が作り出された。しかし、そこに大剣を引きずらせながら理一さんが走ってくる。
「裂炎衝!」
大地に広がる炎を吸収しながら大剣を赤熱させ、地面からオレンジ色の火花を散らしながら大剣を振り上げる。
「さすがにワンパターンすぎるだろう。やはり人間はこの地に住むにはふさわしくないな」
「何言ってるんだ? それは私へのプレゼントだからお前が変に思うのは当然だ」
閻魔に迫る炎の斬撃に閻魔は呆れた声を上げた。そして、同じようにその斬撃を炎でコントロールしようとすると横から伸びてきた鞭が炎の斬撃を掴んで上に投げていく。
それを行った所長に閻魔が怪訝な顔を浮かべるとその一瞬の隙をついておじいちゃんが突っ込んできた。
閻魔は咄嗟に拳が飛んでくると身構えたが、おじいちゃんは閻魔の体を掴むとそのまま羽交い絞めにしていく。
「クソ、何をする......!?」
「この老いぼれと共に黄泉の道へと行こうじゃないか」
「!?」
おじいちゃんはどうやら捨て身で閻魔にダメージを与えるつもりのようだ。そんなの危険すぎる! だって、それじゃあおじいちゃんが.......。
いや、これもきっと覚悟の上だろう。それを証明するように所長は迷いなく行動で示した。
「反逆の檻」
所長は真上に投げた炎の斬撃を下に弾いていく。しかし、それは閻魔から離れすぎていると思うとまたそれも弾いていく。
そしてやがて、所長は鞭を巧みに振るって閻魔とおじいちゃんを囲むようにして鞭の結界を発生させ、その鞭の結界の中で炎の斬撃を乱反射させていく。
所長の能力はカウンター技。つまりはもともと閻魔が作った高威力の炎に加え、理一さんの炎が合わさり、それをさらに何十、いや何百と膨れ上がらせるようにかうんたーを繰り返している。
「さすがに、この威力はお前でも耐えられるかどうか未知だろう」
「やれ、美琴!」
「うるらああああああ!」
所長は鞭を大きく振るうとその炎は閻魔の正面へと迫っていく。
反射された炎は威力が増しているのを示すように最初よりも十倍ぐらい大きくなり、数十メートルと離れたこっちまでジリジリと痛いほどの熱が伝わってくる。
「クソがあああああ!」
その炎が閻魔に直撃するとその場には直系三十メートルほどの巨大な火柱が立った。
それは正しく天を焼き焦がすという表現が最適なほどの勢いで、周囲に爆発による熱波と衝撃波をまき散らしながら燃え続ける。
今は夜なのにまるで昼間のようだった。もともと広がっていた火災の時点で昼間のように明るかったが、それはどちらかというと比喩表現に近くて、しかし今は真夏の昼だった。伝わる熱さは夏以上。
爆風で周囲の瓦礫の一部が吹き飛んでいき、それによって一種に巻き上がった砂埃が音を立てながらあっと言う間に私の体を飲み込んでいった。
咄嗟に鎌の先端を地面に刺して耐えていくが、軽い私の体はすぐに吹き飛ばされそうになっていく。
ここら辺の住民の避難は所長達の様子を見ながら完了させていたので心配ない。でも、割に近くにいる私達は結構不味い。
体が炙られてるかのように全身が熱い。それにほぼ黒に近い砂埃が視界を悪くして、勢い任せに飛んでくる瓦礫がぶつかってくる。
近くにいたファンタズマは漏れなくその爆発で巻き込まれて散っていった。今私が耐えられているのはアルガンドの応用でマギによる特殊防御壁を作っているからだ。
これはこっちに気が回せるほどの余裕がないほどに所長達は本気だったということ。
あの攻撃を最初から狙っていた時点で初めっから余裕はなかったのかもしれない。だから、最初に私達に掃討戦の方へ向かわせたのだろう。
十数秒と天へと昇り続けた炎がだんだんとその直径を小さくしていき、やがて明るさが元に戻っていく。
すぐそばを駆け抜けていった瓦礫を乗せた砂煙も正面にはすでになくて、わずかに爆心地から天に向かって煙が昇っていくのみ。
すると、その煙から何かが飛び出していく。ボロボロな布切れみたいになったおじいちゃんであった。
どうやらアルガンドの防御をしていたらしくて、丸焦げと言った感じではなかったがあまりに生きていることを示す存在感が希薄している。
それにおじいちゃんはまるで誰かに捨てられるように飛ばされて出てきた。そんなことをできるのは......一人しかいない。
「......っ!」
その瞬間、私は思わず全身がゾッとする感覚に襲われた。それは爆心地で揺らめく煙の中から不敵に笑う口元を僅かに見たからだった。
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