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第177話 閻魔

――――二斬結衣 視点――――


「ここが気配を捉えた震源地です」


 兄さんがそう告げて見る場所はまさに地獄を体現したような感じだった。

 視界一杯に広がるのはあっちこっちに散乱した瓦礫や多くの火の手を上げる家屋。跋扈するファンタズマに逃げまどう人々。


 空が焦げるような熱と煙でもってその場は昼間のように明るかった。つまりはそれだけ蹂躙された後であるということ。


「行くぞ」


 所長は淡々と告げる。しかし、強く握りしめた拳がこの光景を目の当たりにした感情を表している。


「所長、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。もっとも私は凪斗ほど土壇場で感情を上手くコントロールできないと思うから、何とか感情を押し殺してるだけさ。最大の力でもって応戦するためにな」


 少し心配になって声をかけてみたらそんな様子だ。明らかな作り笑顔を浮かべて無理をしているのがわかる。


 いや、その感情はもはや当然なのかもしれない。なぜなら、今から倒しに行くのは凪斗の父親であり、所長の師匠である天渡炎治さんなのだから。


 周囲から熱波と叫び声とファンタズマの奇怪な声が響く間を抜けていく。すでに警察が周囲の封鎖をしているが、ファンタズマ相手ではそれですら荷が重い。


「結衣、愛依、来架、刃那、ヤガミ。お前ら三人は周囲のファンタズマを掃討しろ。それから、逃げ遅れた人の救出活動も任せた。閻魔の相手は私達がやる」


「ま、そういうこった。頼んだぜ」


「恐らく、ワシらは加勢は出来ぬからな。周囲のファンタズマを退けるだけでよい」


「わかりました。ご武運を」


 返事をするとすぐさま周囲のファンタズマの掃討に取り掛かる。とはいえ、所長達の行動が気にならないかと言えば嘘になる。


 なので、周囲のファンタズマをすぐさま蹴散らしつつ、所長達の様子を観察した。

 所長達が向かっていくのは丁度中央付近。その場所はややくぼんでいて、この場の地形は若干円錐型だ。


 ということは、そう地面が変形するほどに強い力を起こしたという証明になる。そして、それを起こした人物は中心に立つ顔に包帯を巻いた男ただ一人。


「二年前の借り。返しに来てやったぞ」


「......」


 所長の高圧的な言い分に閻魔はただ黙っている。すると、今度は理一さんと金剛さん(おじいちゃん)が口調を強くして告げる。


「ふむ、ワシらが恐ろしくて声もでんのかね? その包帯の下にある口は縫われているのか?」


「まあまあ、そう言ってくださんなって善さん。ただまあ、本当にビビってるってんなら話は別だけどな、エンテイ......いや、閻魔さんよ」


「俺の名を知っているか」


「「「!?」」」


 理一さんの言葉に反応した。正確には名前だけど。すると、先ほどまで沈黙を貫いていた閻魔は話し始めた。


「俺の名を知っているということは、前の闘いでその場にいた者かもしくはあの裏切り者に聞いたかのどちらかだな」


 裏切り者......それは恐らく刃那さんのことを言っているのだろう。

 確かに、刃那さんは閻魔の右腕的ポジションにいて、前には私達の敵として戦うほどに演じた完璧な人だ。ということは、そう思われるほどに刃那さんは危険な潜入調査を遂行したということになる。


 しかし、手下のカーロストに似たようなことをした人が言うセリフじゃない。たとえカーロストが独断でやったとしても、それを閻魔が黙認していれば同じこと。


「だがまあいい、お前らのことは体がよく覚えている。強くなってくれて大変うれしく思う」


「勝手に上から目線の物言いだな」


「お前ら三人合わせても俺の方が強いであろう? となれば、俺がそういっても何の問題もあるまい。

 それにそこの若い男女に関しては特にこの体は喜んでいる。もっとも、その喜びは他ならぬオレ自身も含まれるがな」


「てめぇに言われたって嬉しくねぇんだよ!」


 その瞬間、理一さんが高速で飛びだしていき、両手に作り出した炎を纏う大剣のアルガンドを下から振り上げるようにして投げ飛ばした。


「じゃれてるのか?」


「違うわい。ワシへのキラーパスじゃよ」


 閻魔はそれを素手で受け止めようとするとその直前で全身に鎧のアルガンドを纏って現れたおじいちゃんが、閻魔の目の前で大剣の柄を掴み思いっきり横薙ぎに振るう。


 像ですら真っ二つに出来るような一撃であったが、それは閻魔が左手一本で受け止める。

 その勢いは風だけで周囲に盛大な砂埃を上げるほどであるのに、最強クラスのおじいちゃんの一撃でもピクリとも動いていない。


 すると、おじいちゃんは素早く大剣を離し、その場から離脱していく。その直後、閻魔の真上にいた理一さんが落下と振り下ろしを合わせた一撃で閻魔を襲う。


「赤熱雅狼っ!」


 真っ赤に熱せられた大剣は閻魔の頭へと吸い込まれていくように落ちていくが、その一撃すらも閻魔は左手一本で受け止めた。

 しかし、その大剣の纏う炎と赤々とした熱を帯びた刃が閻魔を襲っていく。


「温いな。この程度か?」


「だったら、その温さに油断しな!」


 閻魔は理一さんの炎と熱をもってしても平然としていた。やはりこの炎と熱への絶対的な耐性が炎治さんの炎の使い手としての特徴なのだろうか。


 しかし、それを予想していたとばかりに所長が閻魔の右腕を茨の鞭で拘束し、さらに高速で駆け付けたおじいちゃんが左腕に向かって思いっきり拳を叩きつけた。


「チッ!」


「そらよ!」


 その瞬間、刃を抑えるために遣っていた力は横方向に曲がることで抜けていき、それによって閻魔の手から離れた理一さんの攻撃が閻魔の頭へと迫る。


「小賢しい!」


 しかしその瞬間、閻魔は自身の体から炎と熱を噴出してその風で理一さん達を吹き飛ばしていく。

 そして、その炎は自分の顔に巻かれていた包帯を一瞬にして焼き尽くし、ずっと隠してきた顔を露わにした。


「久々に生を見たな」


「ああ、つっても俺達ばっか年を食ったようでなんか割にあわねぇけどな」


「じゃが、これで真実は明らかになったわけじゃな」


 過去の炎治さんを知る三人は少し懐かしむように告げる。しかし、その姿勢に油断はない。対して、閻魔は静かに微笑していた。


 閻魔の顔は凪斗がおじさんになったらという感じであった。

 わずかに顎髭を残し、若干緩い目元をしながらもその瞳には決してブレないなにかを感じさせる。凪斗の目や顔立ちはどうやら父親ゆずりであるらしい。


 そして、その顔には一番大きな特徴として右目の眉から鼻を通って左の頬まで大きな傷がつけられている。しかも、その傷跡は斬られたというより、焦げている感じに近い。


 すると、閻魔はその顔を右手で抑えると真っ暗に遠雷が聞こえる淀んだ空を眺めた。


「あぁ、未だに疼く。疼いて疼いて仕方がない。

 空気に触れればジリジリと火傷の痛みを感じるこの苦しみが、苛烈な戦闘をした七年前の戦いを思い出す。

 オレが奴の体を乗っ取った直後に置き土産に残していったこの傷が!」


 しかし、その割には閻魔は楽しそうな顔をしていた。まるでその時の戦いが自分の喜びであったかのような。


「悦に浸ってるとこわりぃがこれ以上お前に時間をかけるつもりはないんでね」


「言っておくが、それはお前の体じゃない。私の師匠の体だ。身勝手に使われるのは困る」


「前とは随分と性格が変わっておるのぅ。その時にはまだ人格が残っていたのか、それとも......とにもかくにも、弟子の不始末は師匠であるワシがつけんとな」


「お前らに勝てるのか? 唯一、オレに届きうる存在とオレとが融合した究極生命体に」


 閻魔は不敵な笑みを浮かべて三人を見つめる。すると、三人はハッキリと告げた。


「「「なめるな!」」」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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