第176話 戦う覚悟
なんで? どうしてこうなった? 俺はどうして置いてかれたんだ? 俺の目的を話して俺の決意を伝えたはずなのに。
そもそも閻魔らしき気配が伝わってきた時、どうして全員は時が来たみたいに一斉に動けたんだ? 俺の知らない二年間で一体何が?
そんな俺の切迫した表情が加里奈さんに伝わったのかその疑問について答えを教えてきた。
「皆......薄々勘づいていたのよ。エンテイの正体について。特に直接戦った美琴、理一、善さんにはね。
確信はなかった。だけど、数々の疑問はあったみたいなのよ」
「疑問......?」
「まず凪斗君が知らない七年前の愛知で起きた三つ巴の戦い。その戦いはファンタズマ、違法ホルダー、特務とどの集団も最大火力でもって戦ったため熾烈を極めた。
しかし、その中でファンタズマとの戦闘が乏しかった違法ホルダーが先に全滅し、大将戦でも違法ホルダーのリーダーは閻魔に殺されて、凪斗君のお父さんである天渡炎治との戦いになった」
「加里奈さんはあの戦場にいたんですか?」
「私の能力は敵の撹乱や上手く行けば味方にも出来る能力だったから......いや、きっと聞きたいのはそっちじゃないわね。
私はそこでは特務側として戦った。スパイってこともあり、その時にはカーロストもまだ単独で動いていたしね」
「それじゃあ、加里奈さんもその戦場の全てを知ってるってことですか?」
「全てじゃないわよ。いつどこで死んだかもわからない特務官の戦いを全部見たわけじゃないから」
そういう加里奈さんの瞳は悲しみを帯びていた。今でも思い出すだけで辛くなる記憶が刻まれているように、腕を組む指に力が入っている。
「砂煙と灰が舞い、血と煙の臭いが周囲を満たしていく。まさに地獄で、足場の踏み場もないほど瓦礫と死体が広がっていて、そんな戦場の真ん中で炎治さんと閻魔は戦っていた。
それは正しく常人を超えた私達でさえ目で追えないほどの速度で、それでいて私達全員の力を合わせたような火力でもってね」
「親父は......そんなすごかったんですか......」
「そうね、貴重な自然とはいえ、相手は一線を画す真理だったもの」
その言葉に衝撃が隠せなかった。が、真理だって!? それって二年前に所長が教えてくれた第一世代型を超える理を司る第零世代型の能力。
しかも、それを閻魔が持っていただなんて!? 何の冗談だ......って思いたいけど、その言葉が凄くしっくり来ることはあった。
俺が初めて閻魔......いや、その時はエンテイか。そいつに接触した時、エンテイはいつの間にか俺と愛依ちゃんの近くに現れていたし、エンテイが刃那に支えられながら去っていく時も、剣を召喚する刃那の能力ではありえない消え方をしていたし。
そもそもそいつの通常スピードが明らかに当時の俺では追いつけないほどであった。今でも正直わからん。
親父はそんなバケモノを相手にしていたのか......そして、今やそのバケモノが親父を取り込んでって......聞けば聞くほどにムリゲー感が漂って来る。
しかし、俺は引けない。相手が親父であると分かった以上、それは息子である俺が閻魔に終止符を打つべきだ。たとえ、親父の姿をしていたとしても。
「その閻魔の能力って?」
「【時空を渡る者】......単純に言えばワープ。もちろん、それだけじゃないと思うけど、その能力は確かにある」
「ワープか......もはや速度の話じゃなくなったかもしれねぇな」
俺が速かろうとその前に場所移動されてしまえば終わり。だったら、場所移動される前に攻撃すればいいという理屈になるが、そんな安直な方法で戦う相手なのか......俺のことだから結果自爆覚悟で能力フルに使ってありそう。
「そういえば、その疑問って結局なんですか?」
「ごめんなさい、話が逸れてしまっていたわね」
俺が軌道修正を促すと加里奈さんはそう謝って話を続けた。
「要点だけ言えば、決着がついたかのように起こった巨大な爆発の中で閻魔も炎治さんも姿を消していたのよ。忽然とね。
とはいえ、戦いが戦いであったために自爆のような形で閻魔を仕留めたと思われたの。私も思っていたしね」
「でも、違ったと?」
「違う......とは正確に言いきれない。だけど、炎治さんを良く知る琴美、理一、善さんがその消えたことに妙な不信感を抱いたらしいのよ。
聞けば、戦う前に『息子のために命は張れない。勝てないと踏んだら全力で逃げる』って言ってたみたいだし」
「だけど、結果そうなったってことはやむを得ない状況になったということでは?」
「私もそう思ったし、そう告げた。しかし、半分納得した感じでも、もう半分ではやはり胸に残る違和感を隠せなかったみたい。『炎使いが爆発の炎で死ぬわけがない』って。
まあ、実際別の事件で炎治さんを確実に殺そうとした違法ホルダーが大量の爆薬を爆発させて殺そうとした時もケロッとしていたみたいだし」
「親父もバケモンかよ......」
親父のことはよく知らない。しかし、今考えれば親父はずっとこんな危険な場所に息子の俺が立ってほしくなかったんだろうな。
だから、俺の幼い時に親父は姿を現さなくなった。親戚には「警察官として殉職した」と嘘をつき、実際本当に死んだ......とされている。
考えてみれば、親父の体は今閻魔の器となっている。となれば、親父が生きている可能性も0パーセントということはなくなってくる。
でも、親父が戦って張り合えるほどの相手で、ニ年前の俺は手も足も出なかった。そんな相手に本当に勝てるつもりでいたのか?
親父が生きている可能性が出てきた以上、俺は殺す気で戦えないのでは? となれば、相手は殺す気でいて間違いなく殺される。
クソ......さっきの俺の信念はどこ行ったよ! もしかしたら、所長は俺のこういう気持ちを見透かしていた?
「そして、ニ年前の凪斗君が愛依ちゃんと潜入捜査した事件。そこでエンテイと実際に対峙した三人はその気配やかすかに感じたマギで疑念を強くし、今回の凪斗君の言葉によって疑念が確信に変わった」
「そうだったんですか......」
「その疑念についてはすでに皆に知らせてあってね。そして、いざ戦う時になったら覚悟を決めて戦うと決めていたらしいのよ。
それから同時に、凪斗君を閻魔と戦わせないという意味も含めてね」
「......」
「琴美曰く、『わかりやすい』だそうよ。考えてることが炎治さんと似てるみたいで」
なるほど、俺がよく「エスパーかよ」って思ってたのは過去に親父との付き合いがあったからか。道理でよく見透かされるわけだ。
「そして、凪斗君が戦うと決めた時に戦わせないように代わりに戦う。それが琴美達の決めたこと。
たとえ相手が最強最悪のファンタズマであっても、炎治さんの姿をしているのなら息子である凪斗君に戦わせたくないって気遣いよ」
あの行動を俺のためを思った行動ってことか......でも、それでも俺は......。
すると、加里奈さんが突然イタズラっぽく口調を変えるように提案してきた。
「でーも、私ってば最悪な女スパイだったわけだし、悪いことをするのが本業なわけで凪斗君がここから出ていこうが見過ごす自信があるな~。で、どうするの?」
俺に答えを委ねるように視線を向けてくる。そんなの決まってる。
たとえ、親父が助かる可能性があろうと親父がこの世界に足を踏み入れさせないように俺を生かしたことを考えれば、きっと俺に平穏無事に生きて欲しいのだろう。
だったら、最後に親父に元気に成長した姿を見てもらわなくちゃな!
「俺、親父に会い行きます! そして、感謝を込めて全力でぶっ倒します!」
「日本語がめちゃくちゃよ。でも、いい覚悟だわ。ついてきなさい」
そして、歩き出す加里奈さん。俺は体中に走る痛みを感じながらも、力強く立ち上がりその後を追っていった。
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