第174話 二年前とエンテイの真実
......真っ暗だ。真っ暗の中に自分がポツンと立っている。自分の存在だけがヤケにハッキリ見えるけど、周囲に光を感じるようなものはなにもない。
ここはどこだ? 感情が溢れだしてそこからもう記憶がおぼろげだ。カーロストを圧倒したのは覚えてるけど、その後に体に急激な負荷が襲ってきて......ショック死でもしたのか?
だとすれば、ここに意識があるのがおかしい。まだ俺の決着も完全には果たせてないというのに。
......あ、光だ。右方向から急に光が刺し込んできた。そっちに向かえばいいのか?
進んでもいいのかすらわからない。でも、このまま暗い世界に閉じこもってたらダメな気がする。だったら、その光に進んでみようか。自分がどうなるかもわからないけど、行かないよりはマシかもしれない。
*****
「......と」
「?」
「凪斗......!」
「ゆ......い......? 結衣!?」
目を開くと明るさを感じた。そして、視界一杯に映ったのは死んだと思われた結衣であった。思わず死んだかとも思ったが、周囲に皆がいることからそうじゃないとわかる。
ともかく、結衣が生きてた。それだけで今はいい。早く起き上がらないと.......っぐ!?
「痛ってぇ.......」
「ダメ、動いちゃ。今、凪斗は急激な体にかかった負荷で体がボロボロな状態。今はそのまま横になってて」
「わかった.......カーロストは? あいつはどうなった? それに結衣は大丈夫なのか?」
矢継ぎ早にそう聞いていく。それに対し、結衣は俺の手を握りながら一つ一つ答えていった。
「カーロストは凪斗のおかげで気絶している。それに一応、来架がファンタズマになっても破壊できないようにガチガチに金属で拘束してる。
それから、私に関しては大丈夫。私は怪我一つもしてない。加里奈さんが最後に思いとどまってくれたおかげで」
そういう結衣はそっと後ろを振り返った。その方向を目で追うと壁に寄り掛かったままの加里奈さんの姿があった。拘束してる様子はない。拘束しなくても逃げないということか。
そして、そこから俺は二年間のことや加里奈さんと結衣にあった出来事を聞いた。結衣も俺がいない間、かなり寂しい思いをしていたみたいだ。今度、ちゃんと埋め合わせしないとな。
にしても、加里奈さんがカーロストの部下であったことが驚きであった。俺が加里奈さんと初めて病院で会った時からすでにカーロストの元にいたとは。
理由が理由であるために同情もするが......いや、これ以上のコメントはしなくてもいいだろう。反省やお詫びの気持ちは加里奈さんが一番分かってる。
すると、俺の近くに所長や愛依ちゃんやらと皆がわらわらと集まってきた。刃那とヤガミは邪魔しないように遠くで見守ってるだけ。
「さて、凪斗。お前も結衣と再会できたことだし、そろそろお前の積もる話でも聞かせてもらおうじゃないか」
「主にあの二年前の黒丸製薬の地下研究所爆破事件からどうやって生き延びたのかってことをですね」
まあ、その所は気になるよな。俺も話すつもりだったし。そして、俺は所長達に俺の二年間の活動報告をした。
二年前のあの日、俺は結衣を逃がすことに成功した後、あと残り時間も三十秒を切った所での巨人型ファンタズマとの戦闘。もちろん、死ぬことを覚悟した。
あの時の俺は体の八割を恐怖で襲っていた。結衣を逃がすためという口実で自分自身すらごまかすようにして強気で立ち向かい、そしてそのファンタズマを倒すための一撃を放った。
だが、その一撃が直撃した後、崩れた瓦礫が突如破壊されたのだ。その時にいたのが刃那とヤガミであった。
逃げる気力もなく、二人に助けられた俺は車に乗せられてその場を逃げるように移動していく。その時の研究所の爆破といったら凄まじいほであった。一瞬、昼間になるみたいに。
その光景を目に焼き付けたまま移動してきた先はどこかの廃墟のビル。エンテイの仲間であった二人だからてっきり俺は捕まったかと思ったが、そうでもなかった。
というのも、そこにエンテイはいなかったからだ。そして、二人は俺に告げてくるのだ「もう敵じゃない」と。
その言葉の意味を聞くと俺にはかなり衝撃的なものであった。
それは刃那の立場であった。というのも、刃那のやってることは厳密には加里奈さんと同じ。つまりはエンテイ側についたスパイだ。
エンテイという存在の動向を探るためにずっと俺達から離れて潜入調査をしていたらしい。そして、俺達と戦ったあの時も、エンテイに忠誠心を捧げてることを示すように積極的に戦ったらしい。
殺す気はなかったらしいが、殺す気で戦わないとエンテイにバレてしまう恐れがあったらしいので、あの時俺と愛依ちゃんが共闘して勝ったことは結果的には喜ばしかったことらしい。
そして、ヤガミは至って単純だ。強い奴をぶちのめしたいのとカーロストをぶちのめしたいという理由。
ヤガミは実験によって作られた人工ホルダーだ。ただし、能力は使えずに、体の身体機能が上がっただけ。
まあ、そのARリキッドモドキの研究は実際、ファンタズマ化した人間にそれを投与して能力が発現するかどうかの実験のために、まずは普通の人に投与して能力が発現するかの実験だったわけだしな。
ヤガミはその研究での言わば被検体だ。次々と同じような立場の仲間が死んでいって、唯一自力で逃げ出した人間。
俺達が黒丸製薬を襲撃するということをカーロストがエンテイに告げていたことを聞いていたらしい。そして、俺はそこに来た二人に助けられた。
刃那がヤガミを誘ったのは利害が一致した故のことらしい。エンテイにどうやってバレずにここまでやったのかは定かじゃないが、ともかく俺が助かったのは二人のおかげなのだ。
そして、俺は半年の時間を費やして体を回復すると残りの一年半はエンテイの動向をずっと追っていた。
また、それと同時に刃那から聞かされたエンテイの正体とその爪痕を見に行ってた。
つまりは今から七年前に愛知で起きた大規模な三つ巴の戦い。そこで戦死したと言われる俺の親父――――天渡炎治についての調査だ。
刃那の情報をもとに親父が訪れたとされる場所をいろいろと巡った。親父は俺がかなり小さい頃に死んでしまったらしいので、俺自身はあまり親父に関して知らない。
だが、知っていけば案外チャランポランとした人で割にいい加減なところも多かったらしいのだ。しかし、いざ戦闘となればたとえ上級種であろうと完勝。絶対的な“エース”であった。
そう、“エース”であったのだ。そして、そのエースの師は金剛 善で、逆にその弟子は反加 美琴と焔薙 理一であったのだ。
だから、二年前に所長から聞かされた親父の話ではぐらかされたのもそういう理由があったらしい。言わば、気を遣ってくれたみたいな。
でも、今はもう十分に知ってる。七年前の三つ巴の戦いで、なぜか親父の死体だけが見つからなかったということを。恐らく、一番に隠したかった事実はこの部分。
どうして戦場にないのかはわからない。ただ、親父が最後に戦っていたと言われるのが、その当時最強と言われていた閻魔と呼ばれるファンタズマであったらしい。
しかし、誰もが親父の死体だけが見つからないと言っていたその真実を同じくその三つ巴の事件で疾走したとされる刃那が知っていた。
そして、聞かされた答えは酷くシンプルで、俺にとっては胸糞悪いものだった。
『エンテイの正体は閻魔。それも凪斗君のお父さんの体を乗っ取った最強のファンタズマなの』
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