第171話 悪意#1
俺が殴り飛ばした巨人型ファンタズマへと姿を変えたカーロストはその体躯を宙に浮かせ、すぐさま地面に引きずられるように飛ばされていく。
その際、十数体のファンタズマも巻き込めた。まずは先制の上出来な一撃と言えよう。しかし、これ終わるわけがない。
「やってくれるな。しかし、そうでなくては意味がない」
「相変わらずの上から目線だな」
再びカーロストに向かって走り出す。周りの皆からはきっと突然消えたように映っただろう。まあ、それほどまでに力を上手く扱えるようになったという意味なんだけど。
「小癪な」
カーロストは再び腕を振るってきた。今度はタコのような足も全て使って。目の前からは一つ一つがまるで岩石が迫ってくるような迫力と勢いで、リーチも攻撃範囲も広いから他の皆だったら苦戦ものだろう。
しかし、俺の速度であれば迫ってくる時間なんて「避けてください」と言っているような十分すぎる時間だ。もう一撃お見舞いしてやる。
俺はカーロストの攻撃を避けながら足や腕に乗って伝って走る。すると、再びカーロストのラッシュが来たが、俺の速度を捉えきれていないのか当てることもできていない。
そして、肩まで走っていくと頬に向かって思いっきり飛び蹴りしていく。その反動で空中へと翻すと俺に向かって拳がやってくるが、それを当たる直前で体を押し上げるように触れながら避けていく。
そこまで来たら、再びカーロストの肩に華麗に着地。後は繰り返すように攻撃を続けていく。
カーロストもファンタズマという強力な肉体を得たとはいえ、生物としての器が存在してるために俺の電撃を乗せた攻撃が効いているようだ。
体が痺れているのか動けていない。加えて、攻撃するたびに俺の速度も徐々に上がってきているので、捉える動作すら追い付いていないようだ。
そして、やたらめったらに振り回すカーロストの腕を足場にして再び、正面から巨雷拳を決めようと右手に巨大なアルガンドを作り出した。
「食らいやがれ!」
「ふむっ、十分に器として成り立っているな。上出来じゃ。ならもう、後はお主を殺すだけだ」
――――ガンッ
「!?」
俺の巨大な拳は突如としてカーロストの眼前に現れた壁に寄って防がれた。その腕の反動をもらい、一旦距離を取ろうとするとその壁は膨張していった。
カーロストを中心とするように青白い透明な半球がカーロストの全身を包み込むように広がっていく。
その膨張した壁に直撃した俺は体の全面が潰されそうな感覚になりながら押されていき、カーロストを包み終わった所で膨張が止まり吹き飛ばされた。
さすがの俺も足場のない空中を移動することは出来ない。どこかに金属製の何かがあれば電磁力を発生させることも出来たが、それも叶わず地面に叩きつけられた。
咄嗟に背中にマギを集中させて防御を高めたが、叩きつけられた衝撃だけはさすがに拭えない......か。
とはいえ、すぐに体を起こそう。隙を作られないように。
「やっぱり壁......だよな?」
カーロストを見てみればやはりカーロストを包む壁がある。すると、カーロストは意気揚々と自分の能力を自慢してきた。
「ククク、見よ! これがワシの能力【拒絶する者】じゃ。ワシがファンタズマとなった後にARリキッドを打ち込んで発現した能力なのじゃよ」
「まさか全ての攻撃を弾くなんて言わないよな?」
「ククク、そのまさかじゃ」
「先輩、私も手伝います」
「私もです!」
嫌味ったらしく笑うカーロストに歯噛みしていると愛依ちゃんと来架ちゃんが話しかけてきた。すると、近づいてきたのは二人だけではなく、所長達や刃那、ヤガミもいる。
「凪斗、二年前は助けてやれなくて済まなかった。積もる話もあるが、お前と一緒に来た奴らは味方なんだよな?」
「はい、そうです」
「いっちょ前に強くなって戻ってきたか? どこの主人公だ」
「この老いぼれも目を見張る速度と威力じゃった。流石弟子じゃな」
「親父に追いつけましたか?」
「「「!?」」」
俺がそう言うと所長、理一さん、金剛さんは一瞬驚いたような表情をするも、すぐに俺がこの二年間何をしてきたかおおよそ予想がついたような顔をした。
「一先ずは、あのマッドサイエンティストを倒さなくちゃね」
「最近、凪斗の野郎の付き合いがわりぃせいで暴れたりなかったんだ。さっきの雑魚狩り準備運動も終わったし、あのふざけた野郎をぶっ殺す」
「遺言は済んだかね? 安心せい、その肉体は貴重なサンプルじゃ。有用に使わせてもらう」
カーロストはあくまで上からで、もはや自分が買ったとでもいうような言葉だった。それに対する俺達の気持ちは揃っていた。
「「「「「ほざけええええぇぇぇぇ!」」」」」
そして、俺達は一斉に動き出した。まずは俺とヤガミ、理一さん、先生が前線へと駆け出して、後ろから残りの四人が先に攻撃を仕掛けた。
来架ちゃんがアンチマテリアルライフルを、愛依ちゃんが氷の巨大な剣を、所長が巨大な岩を鞭で持ち、刃那が空中に大量の剣を展開させて一斉に壁に向かって放った。
―――――ドガアアアアァァァァン!
「「「「!?」」」」
壁に直撃した瞬間、大きな衝撃音と岩と氷の破片が散らばっていく。しかし、壁には一切のヒビすら入っていない。
「無駄じゃ。ワシの壁は何人の攻撃をも防ぐ」
「なら、これはどうだ!」
俺は巨雷拳を、理一さんは炎に大剣を纏わせ、先生とヤガミは拳でもって一点に集中するように攻撃をぶつけていく。
しかし、触れてもなんともなっていない。ただ固すぎる。もちろん、全力で攻撃したが、びくともしていない。
「実はな、こんなことも出来る」
「「「「ぐっ!?」」」」
そして、カーロストは一か所に固まっている俺達に自分は壁に影響されずに攻撃を加えてきた。
薙ぎ払った腕が俺達を捉え、それぞれバラバラに地面へと吹き飛ばし叩きつけていく。
なんだ今の......!? 俺達の攻撃は通らなくて、あいつの壁は通った。ってことは、まさかあの壁は所有者は干渉を受けないのか!?
「恐らく見てすぐに分かっただろう? ワシの能力の真骨頂を。
ワシの能力はワシが拒絶するあらゆるものを防ぐ。つまりはワシ自身がワシを拒絶するならば当然ワシもお主達に攻撃できない。じゃが、なぜ自分自身を拒絶するのじゃ?」
「まさに攻防一体......ただでさえ図体デカくて馬鹿力な上に、相手の攻撃を絶対に防ぐ防御ときたか。一筋縄じゃいか」ないな
「そういうことじゃ!」
カーロストは所長達に向かって攻撃を仕掛けた。すると、所長はその拳に向かって鞭を振るった。
本来なら、岩に鞭を叩きつけても意味ないのだが、その鞭はカーロストの攻撃を反射するように軌道を捻じ曲げた。
そして、カーロストは弾かれると思っていなかったのか、咄嗟に身構えるがそれは壁に防がれる。
「チッ、ダメか」
「今のはちと焦ったが、お主の能力はどうやら攻撃に対するカウンターのようじゃな。しかし、カウンターしたそれはお主の意思が乗る故にどうやら壁の影響を受けるらしいの」
「親切丁寧にどうも。だが、私の【反射する者】が効かないとなるといよいよ手詰まりだな。攻撃してくる腕や足をちまちま攻撃した所で意味なさそうだし」
「さぁ! 存分に踊れ!」
そう言ってカーロストは手足を鞭のようにしならせながら動かしてくる。それを最小限に避けようとするが、その攻撃範囲と速さに皆は避けることが出来ずにダメージを食らっていく。
そして、俺も近くにいた仲間に気を取られてカーロストの攻撃をモロに食らっていく。全身がすぐにボロボロになってくるのがわかる。一撃一撃がとてつもなく重い。
するとその時、カーロストは突然なぜかピタッと攻撃を止めた。それから、「そろそろじゃの」というと元の人間サイズに戻り、白衣のポケットから一つの装置を取り出し放り投げる。
その装置からは映像が流れ始めた。その映像の先には椅子に縛られた結衣とナイフを持った加里奈さんがいた。
その瞬間、体に痺れを感じるように恐怖した。おい、まさか......やめろ。
「そういえば、お主達はどうしてもう一人いないのか気にならなかったらしいが無理もない。ワシの優秀な部下である加里奈君がこうしてお主達に能力をかけていたからな」
ま、待ってくれ加里奈さん......違うよな? それで結衣を助けるんだよな? なぁ、そうだろ?
「カーロスト、貴様!」
「ここで怒鳴っても助けられないじゃろう。それは非効率というものじゃ。それにこれから行うことには覚醒のための手順として必要な事じゃ」
「待て......待ってくれカーロスト!」
「無駄話じゃったな。これこそ非効率。さあ、殺せ」
「待てええええ!」
しかし、その叫びも虚しく映像の向こう側の結衣は加里奈さんによって刺された。
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