第170話 借りを返す
――――氷月愛依 視点――――
突然の落雷。それも上級ファンタズマを一撃で葬る威力でもって、荒れ狂う戦場の中で現れた三人組。
そして、その三人組には二年前に死んだと思っていた凪斗先輩もいた――――あまりにも意外な組み合わせで。
「何とか間に合ったみたいだな」
「しっかりメンテナンスしたのに、凪斗君の能力でもうイカレてるわ、これ」
「どうでもいいけど、やっぱ俺、なんでサイドカー?」
バイクを運転してきたのはカーキー色のパンツにジャケットを着て、額にゴーグルをつけた凪斗先輩。
その後ろに乗るかつて敵として戦った私の姉である氷月刃那に、サイドカーのる凪斗先輩と戦ったヤガミという男。
つまりは凪斗先輩の仲間のうち、二人はもと敵ということになる。一体この二年間で何があったというの?
周りの皆も突然の先輩の登場で驚きを隠せない様子みたい。無理もない、死人が蘇ったようなものなんだから。
ともかく、一度近づいて聞いてみよう。どうやって助かったのか、この二年間どうしてたのか、なぜ元敵同士と組んでいるのか、バイクの後ろに乗るお姉ちゃんがちょっと近すぎるとか。
「凪斗せんぱーい!」
「おう、愛依ちゃん! 久しぶり!」
そう言って、先輩は気さくな感じで大きく手を振って返答した。あーもう、何が「久しぶり」よ! こんだけこっちが心配してたとも知らずに! 一発食らいなさい!
その決意で近づきながら凪斗先輩に思いっきり飛び蹴りしていった。その行動にギョッとさせる先輩であったが、すぐに避けられた。それも先輩の意思じゃなくて。
「お姉ちゃん.......?」
「どうしたの?」
「こっちが聞きたいわよ」
先輩は躱したのではなく、躱された。バイクの後ろに乗るお姉ちゃんによって。
お姉ちゃんは先輩の肩を引くとそのまま私に持たざる豊満な胸に先輩の顔を押し付ける。それもそれは大事そうにギューッと。
明らかにお姉ちゃんの様子がおかしい。言うなれば、落ちている。この二年間、一体何があったのかキッチリ説明してもらいたい!
「刃那、ちょっとここでは」
.......刃那? なんで呼び捨て? なにこれ、ちょっと別の殺意湧いてるんですけど。
先輩が引き離すとお姉ちゃんは悲しそうな表情で渋々拘束を解く。あいつは姉ではない。敵よ!
「ちょっと、落ち着けって愛依ちゃん。色々積もる話もあるけどさ。俺も決着つけないといけない相手がいるから」
そう言って、先輩が見据える先にいるのはカーロスト。カーロストは不遜な態度を崩さない。まるで来るのを待っていたみたいに。
そして、私は先輩の言動を眺め始めた。
*****
―――――主人公 視点――――
「よう、随分と逃げ回ってくれた割にはどうして会う気になってくれたんだ?」
「ワシにもいろいろと都合があるのじゃよ。それよりも、現れたということは新たな器としての自覚が出来たということでいいのかな?」
「冗談はその中身までにしとけよ」
そう軽口を言い合うと俺達は笑った。もうこれ以上の言葉の交わし合いは時間の無駄だということが一致したのだ。
俺はバイクから降りると刃那とヤガミに周囲のファンタズマの処理を頼んだ。そのことに刃那は嬉しそうに応じ、ヤガミもめんどくさがりながらも引き受けてくれた。
そして、俺はカーロストに近づいていく。曇天から降りそそぐ雷も止ませ、この場には強い風が降って砂埃が舞う。なんとも戦いの場にふさわしいことで。
「中身はいらん。殺せ」
カーロストはそう告げてファンタズマに指示を出すと一斉にファンタズマが襲ってきた。しかし、どれも下級。中級とこちらの様子を伺うレベルのものばかり。
それに対して、俺は右手に込めた雷を薙ぎ払うように動かしていく。遠くに伸びた雷が手前に直撃し、近い者同士がそのまま感電して消し炭にした。
「ほう、雷の威力が上がっているか。随分と強くなって嬉しいぞ」
「上から目線だな」
すると、カーロストは再びファンタズマを送り込み、今度は上級ファンタズマを数体送り込んできた。
しかし、それも俺の威力を高めた雷の前では無力。素早く電撃を飛ばして同じように灰に変える。
「雷の速度を舐めんな」
「ククク、ここまでか。それなら、さぞお喜びになられるだろう」
「エンテイがか? そいつはどこにいるんだ?」
「一番高い所じゃ。この世を見渡せるな。だが、そこにお主が向かうことはない。なぜなら、お主はここで死ぬぅ――――っ!?」
カーロストがしゃべってるのがうざかったから思いっきり殴り飛ばしてやった。それによって、カーロストは地面を転がっていくが、まるで老体とは思わせない機敏な動きで復帰した。
「人がせっかく話してるところを」
「校長先生とじじいの話程長くて無駄な時間はねぇんだよ。ただ今は......自分の罪を悔いてろ」
「ククク、鋭い目つきをしよるの......勝てるものならな!」
カーロストがそう叫んだ瞬間、一斉にファンタズマが動き始めた。そして、カーロストも両腕を三本ずつの触手に変えていくと俺に飛ばしてくる。
全身に雷を纏うとゴーグルをつけて移動した。このゴーグルは単純に砂埃が発生しやすいこの場所のためのものだ。
向かって来る触手を手にアルガンドを装着し、手刀の形に変えるとそれを切断し、躱しながらカーロストに近づいていく。
そして、カーロストに近づくとその手を顔面目掛けて突き出した。しかし、それは首を傾けられて避けられたので、すかさず蹴りを入れて吹き飛ばしていく。
胴体からくの字に曲がって飛んでいくカーロストは地面をワンバウンドして、地面に両手をつけながらブレーキしていく。しかし、そこは当然射程圏内。
「天雷」
真上に手を伸ばしていくとそこから上空に向かって電撃を放つ。そして、手に繋がったような感触を感じるとそれを引き下ろすように手を下に向けた。
「ぐああああああ!」
その瞬間、ドンッという振動と共にカーロストの頭上から雷が落ちた。それに直撃したカーロストは全身を巡る痛みに叫ぶ。
時間は数秒もない。しかし、その雷の威力は地面を凹ませるほどで、カーロストも死んでておかしくない火力。しかし――――
「さすがに......出し惜しみしてられんなぁ」
「さすがにファンタズマだけあって並外れた耐久力に回復力だな」
もはやカーロストはカーロストという人物の姿と記憶を宿したバケモノでしかない。その瞬間に、今にも変わる。あいつが喜び震えた作品の一つに。
カーロストの体がボコボコと膨張し始めた。そして、膨れ上がった肉体は服を破り、全身を黒に染めながらどんどんと自身の影を大きくしていく。
そして、俺の大きさなんか当たり前に超えて行き、二年前に見た巨人型ファンタズマのように両腕が三本ずつ生え、足はタコのような感じで人の上半身と頭がある。まるでクトゥルフのキャラのどっかに良そうだ。
「どうだこの姿は! 恐れろ! 泣け! 喚け! お前らもいずれこうなるということを頭に刻み込め!」
「ふざけんな。誰しもがお前のようなバケモン志望だと思うなよ? それに、お前がバケモンだとすれば、俺はヒーローとしてお前を倒す」
「やってみろおおおおお!」
カーロストは大木を数十本まとめたような腕を伸ばしてくる。それを俺が躱すたびに地面に衝撃音と振動が伝わっていく。
そして、そのうちの一つの腕に乗ると一気に駆け上がる。
それを良しとしなかったカーロストは、残りの五本の腕で掴もうとしたり、叩いたり、腕に沿って薙ぎ払っていくが、他の腕に躱しつつ巧みに距離を詰めていった。
「俺もあの二年前のファンタズマには借りがあるんだ。それをここで晴らさせてもらうぜ――――巨雷拳」
右拳にマギを集中させていくと右手につけたアルガンドである手甲を自分の体の倍以上に巨大化させていく。
そしてそのまま、その巨大な拳でカーロストを思いっきり殴り飛ばしてやった。
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