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絶対捜査戦のアストラルホルダー~新人特務官の事件録~  作者: 夜月紅輝
第2章 忘れたものと思い出すもの
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第16話 初出勤#3

 場所は移ってファミレスにいる。ちょっと遅めの昼食と共に目の前にいる天然パーマで黒ぶち眼鏡のいかにも気の弱そうな男の人と一緒にいる。

 その人の名前は【二斬 礼弥】さんで苗字からわかる通り二斬の兄妹である。


 人は少なくなったが、まだそれなりに雑多な音は周囲から響いていく。

 どこもかしこも美味しそうないい匂いが漂っていく中、俺は注文したデザートのみを実食中である。


「いいのかい? お昼なのにちゃんと食わなくて?」


「いいですよ。今日はまだ大して仕事してないですし。礼弥さんの資料整理手伝っている方がよっぽど仕事している気がします」


「あはは、うちの妹が迷惑かけたみたいだね」


 礼弥さんは少し恥ずかしそうに頭をかいて笑っている。なんというか失礼な印象だが、確実に昔イジメられてそうな気がする。

 俺はこの話題を変えようととりあえず先にやっていた仕事についての話題を振った。


「それにしても、凄いですね。この安全チョーカーの原案が礼弥さんだなんて」


「あはは、僕は案を出しただけだから凄くはないよ。凄いのは作ってくださった方達だよ」


「でも、それってあくまで礼弥さんの提案が無かったら作られなかったってことですから。それにこれで暴走による被害死傷者数を減らせているのならやっぱ凄いことだと思いますよ」


「あはは、そうかな。ありがとう」


 実際見たが礼弥さんのプログラミングは凄いものだった。

 俺はプログラミングに詳しくないのだが、安全チョーカーの睡眠薬の仕組みを簡単に言うとアストラルに直接アクセスするデータを作り、そしてアクセスした疑似感情をインストールさせて発現。

 いわば自己催眠のような行動を無意識に行わせて暴走者を眠らせているらしい。

 説明している時の半分も理解できなかったが、少なからずその説明をしている時の礼弥さんの顔は活き活きしていたのを覚えている。


 俺は緑色でシュワシュワと炭酸が抜けていくメロンソーダを一口飲むとふと気になったことを聞いた。


「礼弥さんが無理してまでついてきたのって、もしかしなくても妹さんのためですよね?」


 礼弥さんは俺や二斬達と違いアンチホルダー――――――つまり無能力者だ。

 異能力保持者(アストラルホルダー)の主な仕事はやはりファンタズマを狩ることが多く、そのため支部の全員がホルダーなんてのはザラにあるらしい。


 また、アンチホルダーは基本的に好かれない。それは単純で足手まといになるから。

 まあ、ホルダーかそうでないかを簡単に、そして極端に比較すると大人と子供みたいな力の差になるからな。

 加えて、異能を持っているかどうかは非常に大きいから仕方ないと言えば仕方ない。


 礼弥さんは目の前にあるタブレット端末を左手で支え、右手のそれぞれの指で何かを操作しながら答えていく。


「まあね。実際戦闘には出れないし、今回も僕の失敗で天渡君を巻き込んでしまっているから大きいことは言えないんだけど、やっぱり心配なんだ」


 礼弥さんは右手を止めると俺を見る。


「結衣はただ一人の家族だからね」


「―――――――!」


「.......時に、天渡君は異能力保持者(アストラルホルダー)はどうやって生み出されるか知ってる?」


「それはARリキッドを体に撃ち込むんじゃないんですか?」


 現に俺はそうやってホルダーになったんだし。

 しかし、礼弥さんはゆっくりと頭を横に振る。


「天渡君のような感じは特例なんだ。普通は幼い時から戦うために必要な訓練や知識を受けて、その上で選別されようやくARリキッドの使用が認められる」


「そんな工程が.......」


「そうしないと体が負荷に耐えられないからさ。現に天渡君の体は耐えきれていない。これを見て」


 礼弥さんは右手でタブレット端末を操作すると俺に見えるようにそれを立てる。

 すると、画面には俺の3Dモニターが映し出されていた。また右腕に着目するようにいろいろと吹き出しが出ている。


「これが初交戦時の君の姿だ。君は雷を操る力のせいか余計な負荷をかけてしまっている。本来ARリキッドを打ち込んだ後は体を慣らすために2,3日は安静にしていないといけないんだ。天渡君は急な体の変化に気付いたかい?」


「はい。やたら外の空気が鮮明に聞こえるようになったし、視力が上がったりしました」


「恐らく所長からも話を聞いていると思うけど、それが人間のリミッターを外した状態なんだ。けど、それは逆に本来はリミッターがされていること。それが意味するのは通常時に起きる肉体の崩壊を防ぐため」


 礼弥さんは一つの吹き出しをタップする。その吹き出しには右腕の裂けて火傷したような跡が残っていた。


「これは君がさらに体に負荷をかけた時に起きた体の損傷だ。つまり体がアストラルの能力を制御できていないということ。扱えた電力も君が思っていたような感じじゃなかったんじゃない?」


 まあ、確かに。あの時体に纏っていたのは静電気のちょっと強い感じで最後に自損覚悟の攻撃の方が圧倒的に高電力だった。


「それが今の体の限界だよ。だから、君はすぐに気絶した」


「.......なるほど」


「さらに君の能力には問題が一つある。それは――――――――」


***


 俺はファミレスのお手洗いの前でガックシとうなだれていた。まさかそんな問題があったとは。

 その問題はあくまで体がアストラルの急増化に慣れるまでの話って礼弥さんは言ってたけど、どうにもそんな感じはしないな。

 まあでも、ここで礼弥さんに分析してもらったのは助かった。欠点ぐらい知っておかないとこれから病院が第二の実家になってしまうからな。


 それにしても、所長がどうしてアンチホルダーにもかかわらず礼弥さんを起用するのか分かった気がする。

 礼弥さんはいわばこの支部最強の分析班であり、サポーターみたいだ。大きな作戦の時は所長と共同で指示しているみたいだし。

 いやー、こう考えるとこっちに来て良かったかもしれない。

 年齢も21と割りに近いし、話も面白いし。


 お手洗いから戻ってくると礼弥さんは相変わらずタブレット端末を弄っていた。

 お昼も過ぎてファミレスも少し閑散として来ていたので、俺達も戻ろうと声をかけようとすると俺に気付いた礼弥さんは座るよう指示をしてきた。


「どうしたんですか? 急に?」


「いやー、なんというかさ。伝えておかないといけないと思って」


「何をですか?」


「僕と結衣のことだよ」


「......どうして急に?」


 思わず怪訝な顔をする。

 礼弥さんは一度その流れになった時、自ら話題を変えて流れを反らした。にもかかわらず、どうしてまた自分からその話題提供をするんだ?


 礼弥さんは頭を掻きながら答える。


「どうしてと言われるとね、今の結衣が不安定だからなんだ」


「不安定? まあ、俺が二斬の視界にいるとまるで母猫の如く近くにいますけど」


「あはは、やっぱりね。それは恐らく両親の死が原因なんだ」


「.......それはもしかしてファンタズマに殺されたということですか?」


「その通りだよ。僕と結衣の両親はファンタズマに殺された。うちの両親は"かけおち"したらしくてね。他に助けてくれる血のつながりはなかったんだ―――――――ってどうしたんだい?」


「自分の浅はかさを悔いているだけです」


 思わずテーブルに肘をつけて頭をもたれさせる。

 まさか何気なく言った言葉にそんな真実があった(伏兵がいた)とは。嫌な気分にさせてしまっているだろうな。


「なんかよくわからないけど、そんな落ち込まなくちいよ。結衣は別に駆け落ちした両親に怒っているわけでもないし、むしろロマンチックに夢見てた方だから」


「それならいいんですが.......」


 え? なら、あの時蹴られた理由は照れ隠しってことになるんですが。

 俺は一先ず姿勢を正すと耳を傾けた。


「けど、当然話はそこで終わりじゃない。僕達はホルダーを生み出す人達によって拾われて今こうしてここにいる。まあ、いろいろ面倒ごとは多くて()()()()()()()()()()()()()()()


「大変でしたね」


 だが、ハッキリ言うと俺にはそこまで重たい境遇に同情できるほど大変な目には合っていないのでわからない。すげー他人事みたいな返答しかできなかった。

 すると、礼弥さんは急に真剣な顔になる。


「実はね、君に頼みたいことがあるんだ」


「頼みたいこと?」


「結衣は両親を失ってから大切な存在を守ろうと今までずっと努力してきた。そして、それは君も()()()()ということだよ」


「.......」


「君には昔いた結衣の大切な人を探して欲しい。そして、その人に結衣に無理しないよう説得して欲しい」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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