第157話 GP-666撃破戦#1
カーロストを追うためにはこのターミナルの昇降台を利用しないといけないが、その前にあの目の前にいるロボットを倒さなければ話にならん。
一秒でも早くカーロストを倒すためには逃げ隠れの戦いは非効率。多少のダメージは覚悟で戦うほかない。
まずは深呼吸で......よし、先ほどよりも冷静に見えるようになった。リュック邪魔だな、下ろそう。
「ゆーちゃん、いーちゃん、準備はいいか?」
「オッケー!」
「だ、大丈夫です!」
「んじゃ、いくぞ!」
俺は先手必勝とばかりに右手をロボットに向かって突き出し、反動を抑えるために左手で支えると右手にマギを集中し始めた。
そして、それを雷の球体に変化させると一気に解き放つ。
「雷砲!」
右手から放たれた雷の砲撃は空気を割るような轟音とともにロボットへと高速直進した。しかし、ロボットはそれを空中移動ですかさず躱していく。
右側に避けたか。だが、それ自体の行動はもはや予想済み。問題はどっちに避けるか。ちなみに、そっちは元気っ子コースだ。
「そりゃああああ!」
右側にロボットが移動した瞬間、ゆーちゃんが鎌を大きく振りかぶり、ロボットへと思いっきり振るった。
ロボットは咄嗟に左腕で鎌の攻撃を防いだ。だが、どうやらゆーちゃんの一撃は思っている以上の一撃で左腕に切り込みが入ったな。
とはいえ、結衣と同等の力を持つゆーちゃんでも切断しきれないとなるとこっちの想定以上に固いのかもしれないな。
「今度は俺の番だ!」
ゆーちゃんが左腕を振るわれて吹き飛ばされる一方で、俺はゆーちゃんの安全を信じて走り出し、跳躍する。
相手はロボット。つまりはどんなに体を固くしようと全身が精密機器であることには変わりない。
その機械にとって天敵は電気。過剰な電気にお前は耐えられるか!
「雷拳!」
右拳を強く握り、大きく振り上げたまま体を捻って鋭く突き出す。その拳にロボットはすかさず反応し右拳を突き合わせる。
どうやら機械故の人間の認知能力を超過したセンサー見たいものがあるんだろうな。人が相手でもないから心を読んだり、裏をかくのも無理。
どちらにせよ正面突破しかないのなら、俺の過剰電圧とともに食らいやがれ!
――――ガンッ!
俺のアルガンドの籠手とロボットの金属の拳がぶつかり合う。しかし、俺の拳には雷が纏ってあるんだ。
それでお前は落ち......るわけねぇよな、そんな簡単に。
俺の攻撃は拳越しに確かに通電している。だが、どうにも効果があるように見えない。つまりはそういう対策もバッチリなようだ。
空中だとさすがに制御が効かないな。ロボットはそれを考慮して左拳を素早く振るってくる。
俺の頭からひざほどもある拳をまともに受けるのは良くないが、場所が場所だ。しかたな――――
「凪斗さん!」
とっさに防御のために身構えた俺だが、その左拳の攻撃をいーちゃんが防いでくれた。
そして、俺達はロボットに胴蹴りしてその反発で台に戻ってくる。
「助かった、いーちゃん」
「ど、どういたしまして。それよりも......あのロボットをなんとかしないと」
「凪斗の感電で落ちてくれれば問題なかったけどな。けど、傍から見てれば凪斗の雷は中を通っても平気というよりは外皮の上を走ってるようだった」
「ってことは、どこかから中へ思いっきり雷を流し込んでやれば、あいつもショートするってわけか」
「可能性の話」
「でも、結衣の分身であるゆーちゃんの言うことだ。試してみる価値はある」
その言葉にゆーちゃんは嬉しそうに笑う。オリジナルの方の結衣ももう少し愛想よくすればいいのに。
ともあれ、その試すにしても問題は......
その瞬間、ロボットは両腕を突き出した。そして、手のひらからミニガンの銃口のようないくつもの筒がひとまとめにされたものを出し、それを高速回転していく。
「考えてさせてくれる時間は与えてくれなさそうだ! 避けろ!」
ロボットの両手から凄まじい勢いの銃弾が放たれていく。それらは俺とゆーちゃん、いーちゃんを狙っていてそれぞれ円形の台の外側に押し出すように撃ち放っていく。
跳弾した銃弾がいくつかターミナルに直撃してるが、ここはもはや壊れないことを祈るしかない。
そして、俺達を台の橋まで押しやるとロボットは突き出していたミニガンから一気に大砲の筒へと形を変えて、そこから高出力のエネルギー弾を放った。
すかさず飛びあがる。こんなもん直撃したらカーロストを追うどころの話じゃなくなっちまう。
だが、今の一撃で辺りは黒い煙に覆われた。恐らく俺の跳躍した足場は無くなっているだろう。
『ゆーちゃん、いーちゃん、無事か!?』
『大丈夫......ゴホッゴホッ、煙吸ったぁ』
『せ、戦闘には支障ありま――――高エネルギー反応!』
いーちゃんはおどおどした言葉遣いから一変して早口で告げた。そして、そのエネルギーは実のところ俺もちゃんと感じ取ってる。
明らかに空気が震えているのだ。その僅かに感じる空気の波動によって煙が晴れて.......!
ようやく周囲の視界が晴れたかと思うとあのロボットは俺達のことをガン無視して、ターミナルに向かって大きな口からさらにバカでかい砲筒を出していた。
しかも、その筒には先ほど俺達に向かって打った時よりも明らかに過剰な高エネルギーが溜め込まれている。
もうここまでやられて何をされるのかわからないバカではない。あのロボット、最初から俺達のことなんか眼中になくてターミナルを破壊させることが目的だったってわけか。やられた!
どうやって今のあいつのところまで辿り着く? 俺とゆーちゃん、いーちゃんは今完全に空中にいる。
最速で俺が言ったとしても、恐らく落下時には撃たれてる可能性が高い。そうなれば、カーロストを逃がすどころか俺達の脱出もできるか難しくなってくる。
間に合ってここからあっちまで飛ぶことだが、足場は先ほどのエネルギー弾によってかけらもなく消滅されてなにもない。まずい、どうすれば!
『凪斗、今からいーちゃんをそちらへお送りしますよー!』
「は?」
突然入ったゆーちゃんからの通信に思わず声が漏れてしまった。とはいえ、今のセリフはどういうことなのか。
疑問に思うままに俺とは反対側の台の端にいる二人に目を向けるとゆーちゃんの鎌にいーちゃんが乗ってそのままぶん回した。
すると、いーちゃんが俺に向かって思いっきり飛んできた。まさかこの流れって......!
「な、凪斗さん! 信じてください!」
いーちゃんが強い眼差しをしながらこっちに向かって来る。なるほど、どうやらやらなきゃ道は開けないようだ。
「信じる、来い!」
俺の言葉にいーちゃんはこくりと頷くとそのまま俺を横を通りすぎる。そして、カプセルが張り付く壁に両足をつけると一気に反発して俺に向かって来る。
鎌を大きく振りかぶりながら近づくいーちゃんにタイミングを合わせるように両足を引き上げ、アルガンドで脚甲を纏い、全身に雷を通して無理やり身体能力を増加させる。
「凪斗さん!」
「おうよ!」
いーちゃんが鎌を振るう。その鎌の刃に乗ってその振られる勢いを利用しながら、足場にして鋭く跳躍する。
狙うべきはただ一つ。あのロボットの砲筒。そこに右足にマギを集中させて身体能力解放55パーセント。
「おらああああ!」
後は思いっきりその筒を上に向かって蹴り上げる! 重い! 壁でももう少し凹ませられるのに、このロボット全然動きやがらねぇ! クッソなめんなあああああ!
「ぶっとべえええぇぇぇぇ!」
――――ガコンッ
その瞬間、砲筒は思いっきり真上に蹴り上げられ、コンマ秒後に真上に向かって高圧縮のエネルギー弾は放たれた。
放たれたエネルギーは長く続く天井を駆けのぼり、やがて天井に辿り着いたのか巨大な爆発を起こした。
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