第156話 逃がさねぇ!
俺と結衣はマップに表示されたマークまで移動しながら手探りで探していく。
そして、それぞれ散らばった位置にあったそれらを回収して、制御室の前にまで戻ってきた。
俺は結衣にパスコードであるカードを渡していくと結衣が電子パネルにカードを三つ順にかざしていき、それによって電子音とともに扉のロックが解除された。
俺達は扉の両端の壁に張り着くとアイコンタクトで突入の合図を合わせる。そして、電子パネルを押して扉を開くとともに制御室へと突入した。
入るや否や制御室の操作盤の前では逃げる様子をまるで見せない堂々とした佇まいのカーロストがそこには立っていた。
カーロストは悠然と俺達に振り向くと告げる。
「ここまで来るとは恐れ入った。ネズミではなく、サルであったようだ。もっともワシの研究を理解できない時点で人間の足元にも及ばないが」
「御託はいらない。大人しく投降しろ。普通のお前じゃ俺達を倒すことは出来ない」
カーロストに向かって圧をかけてみる。しかし、まるで効いてる様子はない。むしろ、楽しんでいるかのような表情だ。
カーロストは意味もなく歩き始める。そして、こんなことを聞いてきた。
「......君達はどうしてワシが君達の襲撃に合わせてこのような行動が出来たのかわかっているのか?」
襲撃に合わせて......? となると、俺の考えていたことはおおよそ外れてなかったということか。
だが、だとしたら、それは俺達の中にスパイがいるということになる。
不意にカーロストと目が合う。そして、俺の思考を読み取って鼻で笑った。
「そうだ、いるんだ。君達の中にスパイが。ワシの研究の偉大さに理解できるれっきとした人間が」
「ふざけないで。そんな人いるわけない」
「そのような早計な判断をしているから、貴様らは依然人間の皮を被ったサルなのだ。
なぜそう言い切れる? 一緒に過ごしてきた時間が長いからか? たくさんの思い出を作ったからか?
それらは全て相手を欺くための作り物であろう。はっ、やはりサルどもは未だに信頼だの見えない綱に縛られているな」
「お前にはわからないだろうな。仲間がいてくれる心強さというものが」
俺は何度も救われた。危険な場面でも、精神的にも近くに助けてくれる人がいたからこうして今も前を進んで立ち向かってられる。
スパイが誰であるかなんて当然教えてくれないだろう。その人がどうしてスパイをやっていたのかも気になるし、もしかしたらこの男と同じ理由であるからかもしれない。
それに俺はこの中にはスパイがいないと信じている。
今も任務の成功を待っている所長や礼弥さんもいるし、他の場所で戦ってる来架ちゃんも理一さんも金剛さんも、今の来架ちゃんのサポートをしている愛依ちゃんだっている。
たとえ俺の知っている人物がスパイであろうと阻止すればいいだけのことだ。今は今のすべきことに集中する。
「もう一度言う。大人しく投降しろ。これ以上の無駄な抵抗はよせ」
「ワシは特になにもせん。ワシは、な。
時に、どうして君達が来ていると分かっているのにこんな所で待っていたかわかるか?」
「何かこの状況を打破できる策があるとでも?」
「ワシのような計算で動いているような人間は当然起こりうるリスク処理も視野に入れる。
それを考慮したとしても、ワシはここにいても確実に逃げられるということが計算で出ているからここにいるのじゃ」
その瞬間、背後から何かが壊れる衝撃音がした。咄嗟に背後を見ると俺と結衣の後ろの壁を突き破って巨大な宙に浮かんだロボットの上半身がタックルの状態で現れたのだ。
周囲には壁が破壊されたことによるがれきが散乱していく。
だが、ロボットの強靭なボディはがれきをものともせずに突っ込んだまま、俺と結衣をそれぞれの手で鷲掴み、操作の前にあるガラスに叩きつけられ、そのまま突き破る。
そして、現れた場所は先ほど俺達が来たターミナルの昇降台のところ。壁中にカプセルがくっついている気味の悪い場所だ。
ロボットは俺達を掴んだまま落下、台が見えてくるとそこに向かって俺達を投げ飛ばした。
「かはっ」
その勢いを殺すことが出来ずに背中から台に衝突、大きな凹みを作るとともに自分の体も跳ね上がる。
「く......うっ......」
全身に鈍痛が走る。完全に油断していた。まさか壁を突き破って敵が現れるなんて。
にしても、あの空中に浮かぶ二メートルほどの上半身だけのロボットはなんだ? ここはファンタズマの研究施設ではないのか?
痛みを堪えながら地面に肘をつき、向きを変えると立ち上がる。歯を食いしばってでも立ち上がらねば。
「どうだ? ワシの自立型戦闘マシーン【GP-666】の性能は?
本来なら、ファンタズマの性能テストのための装置であったが、子ザルが来るというので特別仕様にしておいた。
まあ、せいぜい頑張るがよい。安心せい。子ザルの死体は大事な研究材料だからな」
カーロストは突き破られたガラスの奥からそう告げると姿を消した。このまま逃がすか!
「結衣、この場合カーロストは脱出経路に向かうはずだ! あの施設のマップとか手に入れてないか!?」
「こんな時のためにさっきのハッキングの時点でマップ取得はしてある。このターミナルを使って上に進めば問題ない」
「さすが、結衣! 最高だぜ!」
「ん、もっと褒めて」
そうしたいのは山々だが、今はそのターミナルを動かすにもあのロボが邪魔だな。となれば、やはりあのロボを倒すのが最善。
結衣も本気で挑むのか異能力でゆーちゃんといーちゃんに分裂していく。
「じゃじゃ~ん。この場にてゆーちゃん参上!」
「ゆ、ゆーちゃん、もっと緊張感持って」
相変わらず分裂すると性格が極端になるな。堂々としたゆーちゃんに、消極的ないーちゃんって感じで。
しかし、その一人一人の戦力はオリジナルとほぼ同じ、つまり力も半分になるわけじゃなく、戦力さは二倍になるということ。
その代わりもともと小さい結衣がさらに小さくなって小学生二人ぐらいになったけど、そこは機動力でカバーしてくれるだろう。
「凪斗、凪斗! ターミナルは傷つけちゃダメだぞ。多少は大丈夫だろうけど、深いと上に動かなくなる」
「それは中々に難しい注文だな」
俺達が乗っているのはターミナルを中心としたドーナッツ状の台だ。つまりはあまりターミナルを盾にして身を隠すことができないということ。
「な、凪斗......さん。む、難しいかもしれないですけど、頑張りましょう。私達なら上手くいきます」
「そう......だな。ああ、そうだな!」
どっちにしろ、あいつを倒さなければ危なっかしくて上にすら登れない。となれば、早く倒すためにはどのみち好みをさらけ出して前に出る必要がある。
なんも変わらねぇいつもの肉弾戦というわけだ。まあ、相手はロボットだし、対俺達用に改造したとすれば飛び道具はもちろん、粒子砲なんてものも撃ちかねない。
それがターミナルに当たるのを避けるとするともはや動けるスペースはわずかだな。ともかく、為せば成る。逃がさねぇぞ、カーロスト!
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凪斗と結衣が巨大ロボットと対峙する一方で、とある壊れたエレベーターの部分では異変が起こっていた。
「コ......ロス」
その言葉を最後に肉片が僅かに動いた。
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