第155話 最後の扉
ゴーストファンタズマと人型ファンタズマが次々にこっちに向かって来る。
今俺達が乗っている台は回転しながらも下に進んでいるが、まだ時間がかかりそうだ。
つまりこれが到着するまでの戦わなきゃいけないわけだが、普通に戦っていてもこっちの体力が数で消耗させられるだけ。
せっかく下がまだまだ続いているのなら、落としてしまうのも手であろうな。つーか、絶対そっちの方が早い。
正面からゴーストファンタズマをかき分けて人型ファンタズマが近づいていくる。普通の個体より強いこいつをまともに相手にするのは体力の無駄。であるからして――――
俺は八の鋭い拳をスレスレで躱していく。奴の拳が床に大きなへこみを加えていくが、もはや当たらないように特化している俺には受け流しの技術はこいつら相手には必要ない。
「おらああああ!」
そして、やるべきはそいつの腕を両腕で掴んで思いっきり振り回すこと。もともとデカくて重量がありそうだとは思ったがやはり思い。
しかし、こいつを根性で振り回したなら周りの奴らも一緒にこの台から落としていける。くたばれえええええ!
俺が横薙ぎに大きく振るった人型ファンタズマは周囲のゴーストファンタズマを台から弾き落とし、真下に落としていく。
だが、投げた人型ファンタズマは別の人型ファンタズマに直撃するとそのまま受け止められる。とはいえ、当然見逃すはずない。
「そぉりゃ!」
その二体のファンタズマが固まっている場所まで高速で進んでいくとその勢いのまま大きく跳躍。
空中で素早く両膝を折り曲げると蹴りつけと同時に思いっきり伸ばした。くらいやがれ、ハイパードロップキック!
その一撃は十分に二体の人型ファンタズマを押し出すことに成功した。とまあ、こんぐらいの余裕がなきゃ冷静に考えられんからな。
――――ガコンッ
「うわぁ!?」
するとその時、突然降下していた台が止まった。その急停止によって体が大きく揺さぶられる。
もちろん、原因はわかっている。数に俺達は負けてどこかのファンタズマがターミナルの制御盤を停止させたのだ。
至る所から数だけは勝っていると示すかのようにファンタズマが乗ってきている。能力のせいで範囲攻撃が使えない俺ではこの数のタワーディフェンスはやはりきつかったか。
だが、こんなところで諦めるわけにはいかねぇ。カーロストは必ず捕まえて、あいつの野望は必ず阻止する。だから、こんなところで時間食ってる場合じゃないんだ!
「結衣! 制御盤の復旧を頼む! その間に周りは俺がなんとかする!」
「わかった! 任せて!」
俺は結衣がいる方向に近寄り、結衣が制御盤に向かうまでのアシストをしながら、周りのファンタズマを一体確殺のつもりで攻撃をした。
もうこの時ばかりは体力の温存をしている余裕はなかった。全力でターミナルの周りを回転しながら近づけさせないようにするので精いっぱいだった。
しかし、うちの優秀な結衣が速やかに復旧してくれたおかげで再び台は降下し始め、あまり俺の体力が削られることはなかった。とはいえ、もう既に半分ぐらいはここに来るまでに持ってかれてるが。
「凪斗! 下の通路がカーロストのいる場所に向かうための通路だよ!」
「なるほど、ならそこまで一気に飛ぶぞ!」
俺と結衣はタワーディフェンスを切り替えるとその台から大きく跳躍していき、下に見える通路に着地した。
すると、多くのファンタズマが俺達を追ってくるが、次々に真下の奈落へと落ちていく。
どうやらゴーストファンタズマも一定の高さまで浮遊できるみたいだが、こっちまで渡るほどの能力はないらしい。
しかしまあ、さっきまで戦っていたゴーストファンタズマといい、人型ファンタズマといい、完全に意思を持って動いていた。
俺達を狙うんじゃなくて俺達が守っている制御盤を積極的に狙っていく辺り、それに俺達がこっちの通路に来たらすぐさま俺達を追うことに目的をシフトさせた。
つまりは考える知能があるということ。ということは、あのファンタズマ達は全てもと人間という考え方もできる。
いや、その可能性の方が高いのだろう。そう考えると怒りが込み上げてくる。
それもこれも全てはカーロストによる仕業だ。人を使った研究なんて人でなしの所業だ。到底許せるはずがない。
「結衣、ここからさらに危険になると思うけど大丈夫か?」
「私は平気。それなりに修羅場はくぐってるから。それよりも凪斗の方が心配」
「それもそうだな。俺は大丈夫。それじゃあ、奴を追うぞ」
俺と結衣は通路の正面にある扉に入ると細い通路を通っていく。後ろから聞こえてくる足音もあるが、それは恐らく人型ファンタズマであろう。
とはいえ、こんな隠れ場の多い場所だと一度でも姿を隠せればこっちのもの。まあ、ここは直線はあまりないし、普通に走る分だったら機動力高い俺達の方が普通に振り切ることはできるだろうけど。
一先ず目指す場所はこっち側施設の最上階もとい制御室。あんなカプセルだらけの部屋をあのターミナルだけで操作していたとは考えにくい。
となれば、どこか安全に手を下せる場所があったと考えるのが普通だ。そこにカーロストがいるはず。
もうここからはマップがない。手探りで探していく他なさそうだ。
俺と結衣は手分けして辺りを探索し始めた。そして、先に階段を見つけた方からチョーカーを使って連絡を送って知らせ、それを受け取った人物はもう方のマギを探ってその場所まで移動していく。
それを繰り返すこと三回。ついに最上階の四階までやって来たが、その制御室のところで俺達は詰まった。
「クソッ、この制御室にはレベル3のプレートじゃ無理だ。結衣のカードキーの方はどうだ?」
「だめ。そして、これを見る限りだと必要なパスコードが三つあるっぽい」
結衣が指さす電子パネルにはカードをかざす場所の他に三つの囲いがあった。恐らくパスコードを通すとその囲いが光って、三つ光ると通れる仕組みなのだろう。
なんてめんどくさいことを。カーロストは借りにその制御室に自分がいなくても、この施設全体を止める必要があるために俺達がこの制御室に入ることを余儀なくされていることを理解している。
だからこそのこの仕掛け。未だターミナルにあった全てのカプセルが解放されたわけじゃないが(不具合で開かなかったものもあるが)、この施設が動いている以上動かそうとする電気信号は送られてるわけで......時間経過で解放されたらたまったものじゃない。
「結衣、手分けして探すぞ」
「うん、できるだけ迅速にね。でも、闇雲に探すのは非効率だからちょっと待ってて......」
そう言って結衣は取り出したスマホとハッキング装置を使って何か操作をし始めた。
ハッキング装置を電子パネルにくっつけるとハッキングにある摘みを片手で回しながら、もう片方の手でスマホを弄る。
そして、「出来た」と告げると今度はそれを腕時計の方へと情報を送ったらしく、俺の腕時計のマップに三つの点が表示される。
「ここのハッキングも難しすぎるし時間がかかりすぎるから無理そう。でも、その一部から必要なパスコードの逆探知が出来た」
「そんなことが出来るのか」
「伊達に色々と学んできてないよ。それに科学技術の進歩のおかげ」
「とはいえ、人類の進歩のための科学技術は容認できそうにないけどな」
「それはそれ。これはこれ。ともかく、今はやるべきことを全うしよう」
「そうだな」
恐らく、制御室にカーロストがいれば直接対面となるだろう。いざとなれば殺す勇気も必要になるかもしれない。そのための心づくりをしとかねぇとな。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




