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第154話 カーロストという人物#2

 やって来た最深部は異様な光景であった。

 ファンタズマは異界からやって来たと聞かされていたが、壁の至る所に取り付けられているカプセルにはファンタズマの原型であるゴーストの形をしたものしか存在しない。


 いや、それは言い過ぎたか。一部はゴーストよりも厄介な人型のファンタズマも存在している。

 ここに来るまでに戦ってきたが、正直あんなのを何体も相手にしているのはキツイ。

 出来ることならば、相手にすることなく一気に殲滅するのが得策だが......


『上手く入り込んだな、ネズミども』


「「......!」」


 館内アナウンスが空間内で反響して聞こえる。その声は紛れもない黒幕(カーロスト)だ。

 そして、中央のこの施設を制御してると思われるターミナルにはカーロストの顔が映し出された。


『ワシの至高なる計画がお前らのような特務官(いぬっころ)に邪魔されるのは想定内ではあったが......まさかここまで来るとは想定外であったな。

 どうやらお前らを殺すよう放ったファンタズマもどうにかされてしまったらしいからな。この場にいる結果を見れば』


「その言い方だとあなたは私達が来ることを察知していたってことになるけど?」


 そう言えば、そうだ。ここに俺達が来ることがわかっていたのなら、一体誰が俺達のことをリークしたのであろうか。


 少なくとも、一般の人にはそのようなことが漏れることはない。となれば、相手によって調べられたか、スパイがいるかのどちらかである。


 考えたいのはすでに相手側の調べによって犯行がバレていた場合。だが、計画自体は細心の注意を払っているはずなのでバレるという考え自体が思い浮かびずらい。


 となれば、一体誰が密告したのであろうか。いや、そんなの決まっている。特務に関わってる誰かに裏切り者がいるということ。


 それは俺が知っている人かもしれないし、知らない人かもしれない。どちらにせよ、そっちの方がよっぽどしっくりくるのは確かなことだ。


 結衣の言葉にカーロストは「お前らの杜撰な計画が招いたことだ」と共犯者がいることに対してははぐらかした。


 なら、今のうちに聞けることを聞くまでだ。


「お前達が言うニルヴァーナ計画とはなんだ? お前は一体何が目的だ?」


『口の利き方がなってないぞ小僧? とはいえ、お前らにワシの至高なる計画が理解できるかは怪しいが特別に放してやろう』


 カーロストはまるで悦に浸った悪役のように話し始めた。もっとも(てき)であることは確かなのだが。


『ニルヴァーナ計画、それは素晴らしき楽園へとこの地をいざなうための計画じゃ。

 これまで人類は科学という技術進歩の裏で進化というものを促してきた。

 様々な生物の細胞を研究し、遺伝子配列を組み替え、様々な種を重ね合わせ新しい種を生み出そうとしてきた。

 しかし、その裏で人類のための進化は一体何があったというのか? いや、何もない! 何もなかったのだ......今までは!

 だが、今から約50年前にその進化の時が唐突に現れた。その存在がファンタズマじゃ』


 カーロストはまるで悦に浸ったように話していく。自分がやって来た今までのことが全て正しいことであるかのように。


『私は当時その場に立ち会っていた。そして、初めてファンタズマと出会ったときのことを今でも昨日のように思い出す。

 突然現れた未知なる存在。その存在は人を食らってその肉体を変化させた。その光景を見てワシは思わず感動した!

 人々はそれを神の怒りのように恐れるが、ワシは人類が神に近づく最終工程だと理解したのじゃ!

 しかし、そんなことも理解できないお前ら下等な連中はその事実を隠蔽し、あろうことか神の兵を殺す技術まで生み出した。

 なんたることか! 貴様らはファンタズマ(この存在)を何にもわかっていない! 故に、お前らは下等生物と同じように種を守るための殺すという行動しか出来ないのじゃ!』


 激昂している。まるで人類の敵は俺達であるかのように。

 しかし、その意味合いは何一つ理解できない。これがマッドサイエンティストと言うべきか。怒りに拳が震えてくる。


『しかし、ワシは5年前に神に会った。あれこそ人類が求めた最終形態じゃった。

 どうしてそこにいるかはわからない。しかし、いたのが全ての始まり。そして、ワシが会うのもまた神の導きだと理解した。

 その瞬間から、ワシの残り少ない人生の身の振り方は決まった。全ての地位も財産も! ファンタズマの研究につぎ込むことで始まったのがこのニルヴァーナ計画!

 全人類にE細胞を打ち込んで、全人類を半人半ファンタズマへと進化するのだ!』


 わかっていた。だからこそ、どんなことを言っていようと我慢するつもりでいた。それは冷静さを欠いてしまうから。


 しかし、やはりどうにも耐えがたいらしい。同じ人間であるのにここまで物の価値感が違うとなるとやはり思ってしまう――――敵であると。


「カーロストぉ! そんなことは絶対にさせない! ここでお前を捕まえて! この計画も終わる! それがお前の最後だ!」


「そんな計画のために死んだ友達、家族の分まであなたを断罪する!」


『これだから子供(ガキ)は嫌いなのだ。まあ、せいぜい捕まえてみろ。ワシの元まで来れるのならばな』


 そう言って、カーロストの通信が途絶えた。その瞬間、周囲からけたたましい警報が鳴り響き、壁中にあったカプセルが一斉に動き出した。こんなのこれから何が起こるかなんて容易に想像できる。


「結衣! 急いでカーロストを追うぞ!」


「わかってる!」


 結衣はターミナルへと走っていくとそこにある制御盤を操作していく。すると、丁度俺達が乗っている床が回転しながら下に降り始めた。


 その速さはあまり速いものではなく、回転しているため視界もグルグルとしていく。

 その間にカプセルが開いて上からファンタズマのゴーストが次々と投与されていく。そして、ゆらりと起き上がると襲ってきた。


 狙いは俺達というよりもターミナルにある制御盤。普通なら生物を食らう意志しかないファンタズマが生物である俺達を無視して動くその行動には知性というものを感じる。


 とはいえ、こちらに興味がないということは一方的に倒し放題という意味でもある。


「おら、無視してんじゃねぇ!」


 拳に電撃を溜めて殴り飛ばす。速度的には圧倒的に上であるため後手に回ることはなく、攻撃もワンパンラインに乗っているのか瞬殺できる。


 しかし、壁中にあるカプセルから次から次へと投与されていくため、敵の数は一方的に増えるばかりでやはりどんなに火力があっても数の差は大きいみたいだな。


 範囲攻撃をしたいのは山々だが、俺のは雷つまりは電気。この機会に変な誤作動を起こしてしまったら下に辿り着くことは難しい。


 かといって、結衣の武器も鎌であり、能力で二人に分裂したとしても焼け石に水と思えるほどの数の差だ。


 ってことは、俺達が今やるべきことは制御盤にいかにファンタズマを近づけさせず、さらにきっとカーロストが待ち受けている場所には悪趣味な罠や敵が待ち受けてるはずなのでそのために出来る限り体力を温存しておくこと。


 とはいえ、ターミナルの柱の太さは軽く直径10メートル程はありそうだ。それをタワーディフェンスしなきゃなんないとか正直体力面を気にしてる余裕があまりないという。


「があああああ!」


 そして、たまにくる人型ファンタズマというめんどくさい相手。耐久戦が一番苦手なんだけど、気張れよ俺!

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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