第149話 違和感
多くの人達が表向きの製薬会社の方で起きた異変に対して気づいてそっちに向かっている。
その流れに逆らうような移動は危険だけど、それさえ超えてしまえば奥の方は手薄になる。
「にしても、ここのマップはないからキツイな。どこかでこの研究所のマップを見つけないと」
「言ってることが完全にゲームのそれよ」
「すごい自覚あるけど、ちゃんと危険に対して最善を尽くすつもりだから。それにあまり時間かけることは俺達の脱出も困難にさせるし」
「うん、わかってる。とりあえず、前に進んでいこう」
俺は研究員から奪ったネームプレートを手に持ってマギを使って周囲の気配を探りながら進んでいく。
すると、正面には赤いランプがついた扉があった。その横には電子パネルがある。
この電子パネルにネームプレートを合わせてっと......よし、開いた。
ピピッという音とともに扉が両開きに開く。すると、その正面から人が走って来ていた。
研究服のような白衣を着ておらず、どちらかというと戦闘向きの体に密着したライダースーツのような恰好をした男。
その男は俺達との鉢合わせに驚いたようなしぐさを見せると咄嗟に左手で支えるようにして右手を伸ばし、爪を立てるように手を構える。
「細切れろ!」
そして、その立てた指をグッと握るとその指の軌道に合わせて空気が陽炎を見た時のように揺らめいた。
咄嗟に身の危険を感じて大きく避けていくとそれが壁に当たった瞬間、五本の斬撃が壁に刻まれた。
能力的には指を動かして斬撃を飛ばすというところか? だとすれば、指の軌道範囲は全て斬撃の効果範囲ってことか。
「けど、それって当たらなければ問題ないよな!」
「ぐはっ!」
俺は体に雷を纏わせ急激に加速すると一瞬にして相手の懐に飛び込んでいき、右拳に作り出したアルガンドで思いっきりボディブロー。
相手の体が若干浮くほどはさすがに強く殴りすぎたか。けど、相手がホルダーであるならば問題ないはずだ。
「凪斗、しゃがんで」
不意に聞こえてきた結衣の声。その言葉に従ってしゃがむと頭上に結衣の鎌が通り過ぎていき、俺にとびかかって来ていた犬の形をしたファンタズマを両断した。
「この研究所内にもすでに使役したファンタズマが存在しているのか?」
「かもしれない。となれば、戦闘は避けられない」
「戦闘すると時間かかるからな。早いうちに最深部まで向かった方がいいな。強行突破になるのか?」
「その手段もやむを得ないこともある」
「だよな......」
そのことに若干の面倒くささもあるけど、ここまで入り込んできた時点で俺らは格好のターゲット。狙わないでって言う方が無理な話か。
「気配が来る」
「一先ず近くの部屋でやり過ごそうぜ」
そう言って、俺達は近くの部屋に入った。そこにいた研究員と思わず鉢合わせてしまったがすみやかに寝てもらった。
俺が廊下の気配を気にしていると結衣がこの部屋にいた研究員が使っていたパソコンをいじくっている。
「結衣もハッキングに詳しいのか?」
「少しだけ。愛依ほどじゃないけど。でも、そうしなくてもここの研究所のマップは奪取できるみたい。リュックからコードとUSB出して」
言われた通りにUSBとコードを取り出すとそれぞれパソコンにつないでいき、コードの方は左手首にある腕時計と繋げた。
恐らくパソコン内にあるこの研究所ないの地図をコピーしているのだろう。USBは他に重要な情報を取ってくるために。
腕時計の方で研究所マップが手に入ると結衣は更にパソコンを弄っていく。すると、とある気になる情報を見つけた。
「これ見て。U-050“通称 ウーゴ”......人型の上半身を模した大型ドローンで対特務戦闘用兵器。両腕の指先からは銃弾の雨を降らし、両手を重ねて撃つ波動砲は厚さ五十センチの壁をも一瞬にして貫通、融解させる」
「おいおい、ファンタズマだけじゃなくて機械も作っていたのか? ここは。いかにも物騒な兵器の名前聞いちまったな」
っていうか、さっきあったタイ〇ントみたいな存在もすげー気になるし、ここに長居するのはもはや命を散らしに行ってるようなものだな。
それにドローンもついに戦闘用ときたか。まあ、誰かは考えそうだよな。特にこういうイカレた研究してる連中とか。とにもかくにも、先を急がなければな。
「結衣、コピーできるものはしちゃったか?」
「うん、これは対物カプセルに入れて懐にしまっておいた方がいい......準備完了」
「それじゃあ、行くぞ」
俺はドアノブをガチャリと回して開けた隙間から廊下の様子を見る。人の気配もドローンの気配もない。行くなら今のうちだな。
そして、その部屋を飛び出した俺達はマップを表示しながら目指すべき場所を指定して、そこまでの最短を走っていく。
直近で一番なのは倉庫だろうか。そこにまずは向かうべきだな......っと相手はそんなに容易く行かせてはくれないか。
開けた廊下で武装した人達と鉢合わせる。結構数は多い。いっちょ前に殺傷能力の高い銃の口をこっちに向けてやがる。
しかし、妙だな。こいつらもさっきドアを開けて鉢合わせたライダースーツの男と同じような格好をしている。
普通に考えれば研究所側が雇った用心棒的な存在と思われるが、その考えを思わず払拭させるのがその武装集団の背後で倒れている一部赤く染まった白衣を着ている研究員。
この研究所で何かが起きている......
「お前達は何者だ?」
「俺達はこの研究所の不正を暴きに来た。そして、この研究所を潰すためでもある」
武装した男に問われ正直に返答した。この返答の意味は二つある。
まずは相手側の反応。俺の懸念では研究所とは違う勢力の介入がある可能性があるということ。それがあるだったらもっとここは混沌と化す。
そして、ここで嘘をついたとしても正直に言ったとしてもどちらにしろ撃たれる可能性があるということ。
別勢力だとしたら俺達特務側の勢力を潰せることになるし、研究所の勢力だとしたら俺達を殺しても十分にサンプルとして使われる可能性があるということ。
普通の一般人と違い、俺達は能力を使う。殺す気で行かなければ逆にやられてしまうのが俺達の戦いだ。
とはいえ、もし本当に別勢力だとすれば俺達にとっても障害となる。排除しなければいけない。
しかし、殺すのか? できれば殺せる以外でここを突破できるのだとしたらその限りではないが。
「凪斗、私が囮をやる」
「何言ってんだ? そんなことできるわけないだろ?」
「でも、見た感じ前、左右とで数はそれぞれ五人ずつ。一斉に撃たれればさすがに生きることはできない。
それでも活路を見いだせるとすれば、それは凪斗の能力でしかない」
「感電」か......確かにそれならこの場にいる連中を一斉に無力化できる。しかし、その隙をどう生むつもりだ?
「凪斗、信じて。こう見えても私は伊達にずっと鎌を使ってきたわけじゃないから」
結衣はそう言って強いまなざしを俺に送ってくる。この場を切り抜けるための確固たる自信があるようだ。
であるならば、俺も腹をくくらねばなるまい。結衣の覚悟を無駄にしないためにも。
「......任せた。一瞬でいいからな」
「うん、わかってる」
そう言って、結衣は鎌を両手に持ちながら俺の前に躍り出た。
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