第146話 潜入完了#1
――――創錬来架 視点――――
「よっと。せの、よっこらしょ」
『なんちゅう掛け声で赤外線センサー避けてるのよ』
私はただ目の前のナイトスコープから見える赤外線センサーを避けただけなのに愛依さんから謎の突っ込みを受けました。
全く、そこら辺は別に気にすることではないのでは? 確かに、訓練学校時代でもその掛け声が「お年寄りみたい」と言われたことありますが。
とはいえ、赤外線センサーが絶え間なく動くでもなければ避けることは造作もないですね。それじゃあ、次の指示を仰ぎましょうか。
『次は私はどうすれば? もう潜入するんですよね?』
『ええ、これからは外から敷地への潜入ではなく、敷地から建物内の潜入になってくる。相手のセキュリティも敷地より高いから気を付けて』
『ラジャーです!』
『いい返事ね。それじゃあ、まずは屋上まで登ってくれる? 今の位置は唯一ある監視カメラにも映らないから安心して登りなさい』
『あいやいさー』
私は一旦リュックを下すとそこからフックショットを取り出して、それを屋上に向けて射出していく。
飛び出したフックは屋上の手すりに絡まったことを確認すると引っ張って強度を確認していく......よし、十分な強度ありますね。
そして、伸びたワイヤーに捕まりながら一気に引き戻す。私の体は屋上までビューーーンと飛んでいき、そのまま屋上を超えて投げ出される。
相変わらず引き戻すときにフックショットのグリップを掴んでいる腕が持ってかれるのは今でも慣れないですね。肩が外れそうな感じになって。
ともあれ、できるだけ音を立てずに屋上へとたどり着いた私は速やかに手すりに絡まったフックを解いて回収する。
『着きましたよ~』
『なら、通気口から入ることをお勧めするわ。凪斗先輩だったらギリギリ無理かもしれないけど、来架ならいけるわ』
『凪斗さんはそこまで太ってないですよ? 甘いものよく食べてるけど』
『誰もそんなこと言ってないわよ。男女の体格の違いを言ってるの。それにあの事件があってから善じいにみっちり鍛えてもらってるせいか筋肉質で前よりもたくましくなってる感じだし.....』
『そうなんですね~。意外にしっかり見てるんですね』
『誰があんな男を見てるって!? いいからさっさと行きなさい!』
この通信って脳内に直接送られてくる感じのはずなんですけど、なぜか電話で大音量出されたように耳を遠ざけてしまいました。何も変わらないのにね。
とはいえ、あんなにも興奮気味で言い返してくるとは......きっと今頃顔を赤くしてるでしょうね。さすがの私でもこういうのは気づきますよ?
......っと、こんなところで油売ってたらまた怒られちゃうのでさっさと行きましょう。
私は背負っているアサルトライフルを日本刀のような形に変えて体に固定させると通気口の中を入っていきます。
ナイトスコープのおかげでギリギリ見えてますけど、どこに向かってるかはさっぱしですね。ここは愛依えもんに頼みましょう。
『指示ください!』
『わかってるわよ。とりあえず、そのスピードで直進しなさい。そして、右手に見えてきた通路に曲がって、その次左右に通路が出てくるけど左の通路の二個目ね』
『ラジャー』
愛依さんの言葉通りにほふく前進していきます。そして、指示通りの方へ近づいていくと光源が見えてきたのかナイトスコープが白くなっていきました。
私はナイトスコープをおでこあたりに上げるとその光に進んでスピードを上げていきます。
そこはどうやら会議室のようで白衣を着た研究者さん達がなにやら小難しい話をしている様子でした。
『この人達は拘束で終わり?』
『そうね。製薬会社に残って話し合っているならば恐らく一般人でしょうね。余計な被害は私達の支部に影響がありそうだし』
『んじゃ、眠らせておくだけで大丈夫かな?』
『それまでには片が付くと思うわよ』
それじゃあ、眠らせるとしましょうか。えーっと、リュックから催眠ガス......催眠ガス......っとあったあった。
さて、この催眠ガス型注射器で一気に眠らせてパパっと移動しちゃいましょうか。
私は通気口の格子の隙間から注射器の先端をだし、ピュロっと床に滴を落としていきます。
するとその滴は、ものの数秒で気化して空気中に溶けていきました。
その効果によって一人がうっつらうっつら、また一人がうっつらうっつらと船をこいで眠気にあらがっていますが、あえなく全員お眠させました。
私は口だけのガスマスクを装着してるので何の問題もありません。
それにこの格子も普通の人なら外せるでしょうけど、私は普通ではないので格子を少しおしゃれにバームクーヘンのように巻き巻きしてどかしてやりました。
『どうやら無事に入れたようね。なら、壁にある社内通話機の横にある通話モニターにハッキング機材を取り付けて』
『了解です。とはいえ、もうすでにここの内部マップはあるのでは?』
『あるにはあるけど、最新のものじゃなかった。少なくとも五、六年前のもの。それに社内通話のモニターなら必ず管理室に繋がらる道があるだろうし』
『あ! そういえば、ここの! 監視カメラは!?』
『すでにハッキングして別映像を差し替えてあるわよ。とはいえ、長くは持たないからその前に......よっしゃ、ゲッチュー。今、送るわ。確認して』
すると、私の腕時計にメールを受信した合図を知らせる点滅ランプが光りました。その画面に触れて送られてきたメールのURLを開くと空中にマップが投影されました。
そのマップには通路で動く赤い点、一部動いたり一室に複数で固まっている青い点、そして廊下の端で固まっている緑の点がありました。
『これは......?』
『赤い点が今のドローンのいる位置、青の点が現在いる研究者及び警備員、緑が最近採用された警備ロボット。ちなみに、監視カメラは来架が動くと同時に映像すり替えするから気にしなくていいわ』
『厳重ですねぇ』
『ええ、逆に言えば怪しいニオイがプンプンよ。
ドローン、ロボット、警備員......明らかに過剰なほどの警備体制よ。これからル〇ンか怪盗〇ッド辺りが盗みに来ない限りしないほどの戦力』
『これは今いる社員もグルなのでは?』
『その可能性も高いけど、私的にはここのトップがある程度見越した状態で早めに設置したと思ってるわ』
『といいますと?』
『千葉の特務が違法ホルダーとファンタズマの連合軍と交戦したってのは聞いてるでしょ? そのファンタズマの出所がここかもって。
なら、そのファンタズマは公に出せるレベルで育ってるということで、それを私達が見逃すはずないからここまで過剰警備にしてるわけ』
『だったら、普通は地下にあるとされる研究所の方じゃない?』
『二つの意味がある可能性があるわ。いわば、ここまでの過剰警備でこっちの会社の方が本命と思わせる目的とここが守られれば一番の近道である会社から地下へと行くルートは必然的に潰れるわけになる』
『それじゃあ、私達の作戦は結果的に相手の裏をかいたわけってことですね』
『そうね、結果的に言えば。さすがに研究所までの通路が会社との通路だけだとさすがに不便でしょうし。とはいえ、あまり下水道の方は使われてないのよね』
『隠し通路的な役割では?』
『......そうね。そう考えるのが妥当だと思うわ。それじゃあ、来架の準備次第何でもいいから合図を頂戴。監視カメラを操作する必要あるから』
『ラジャー』
私は背負った剣をアサルトライフルに変えて、その球が全てゴム弾になってることを確認します。
撃っても即死はしませんが、当たり所が悪いと死ぬ可能性はありますので十分に気をつけないと。
そして、そん呼吸をして一拍――――
『行きます』
『わかったわ。後は任せたわよ!』
そして、私は会議室の扉を開けて移動を開始しました。
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