第144話 腑に落ちない
さて、ものの見事に罠に嵌っちまったわけだが、この状況をどうするかもそうだが、一番は俺達の侵入が相手側にバレてないかということ。
しかし、それを確かめる手立てがない以上、やはりここを突破するのが優先なのか。まあ、この状況で他のことなんて考えてる余裕なんてないしな。
ざっと見る限り辺りはただ多少広がった空間があるだけで金属の梯子が上の二階部分の猫渡り橋のような細さの通路に繋がってるだけ。
今のところこの場所にファンタズマの気配はない。一体どこからやってくるというのか。考えられるとすれば、どこかの壁が排出口となって出てくるぐらいだろうが。
そう思ったのも束の間、俺の予想は目の前に現れた三つの小さなゲートの存在によって潰された。
おいおい、マジか。ゲートを作れるってことは上級種がいるということの証明じゃねぇか!?
「ガアアアアァァァァ」
低い唸り声をあげて出て来たのは先ほどのゴーストファンタズマ。数はざっと20体ほど。しかし、3つのゲートの割には数が少なく感じる。
「結衣、俺が突っ込む。後に続いてできればゲートを破壊してくれ」
「わかった」
俺は全身に雷を纏うと一気に駆けだした。そして、両手両足にアルガンドの籠手を装着すると正面のゴーストの顔面を殴り飛ばす。
相変わらず顔がなく、ただフードが被っているように浮いてるだけなのに“当たった感触”を感じるのはおかしく感じるな。
殴り飛ばされたゴーストは後続へとぶつかっていき、さらに俺はその集団へと仮面〇イダーに負けず劣らずの鋭いライダーキックをぶち込んで数体のファンタズマを消滅させていく。
それによって、正面までのゲートの道が開けた。そして、俺の後ろから飛び越えるようにして慎重以上の巨大な両刃鎌をそのゲートへ振りかざした。
同じアストラルで作られているためマギによって壊せるそれは半分に両断されると消滅していった。
俺と結衣は不意に目が合う。どうやら考えてることは同じらしい。
ゲートがある以上、無限に数は増えていく。それを防ぐにはゲートの破壊は必要不可欠。
残りが2つであるならば、それぞれがそれぞれのゲートを破壊すればいい。
結衣は2つ目のゲートの近いところにいる。となれば、俺の機動力を信じてその近い方へと行ってくれるだろう。
ならば、俺はすみやかにもう片方のゲートに近づいて破壊しなければ。これはきっと2つ同時に壊すからこそ意味がある。一つでも壊し損ねればそこを徹底して守られるしな。
「さて、行くか」
俺は軽く息を吐くとしゃがんだ状態からクラウチングスタートの体勢を取り、走り出す。
素早く足を前に出して加速力を生み出し、体を起こしていくと同時にゲートを守るように囲っているゴーストの上に跳躍する。
そして、体を一回転させてその遠心力からのかかと落としをゲートへと加えていく。その一撃はゲートをまるで豆腐のように両断した。
前もゲートを破壊した時もそうだったが、どうやらゲート自体の耐久度はあまりないようだな。きっと大きさも関係してるだろうけど。今回はよく見るドアほどだったし。
しかし、異変はそこから起きた。
「よし、後は殲滅だけ.......ん?」
ゲートを囲っていたファンタズマは突如として一か所に収束し始めた。全身を紫の光の粒子へと変えて。
それは結衣のところにいたファンタズマも同様で、その圧また光は縦に大きく伸びていって螺旋状に粒子が回転しながらやがてまばゆく発光した。
その眩しさに咄嗟に手をかざし、光が収まったところでその光を確認していると大きさにして7メートルほどの巨大なゴーストファンタズマが存在していた。
俺は苦笑いしながら結衣に聞いてみる。
「......結衣、ファンタズマって基本群れることないて話だけど、それに加えて合体すんの?」
「ファンタズマが群れるのは統率者がいる時だけ。でも、今回は例外が多い。
少なくとも私は統率者が別にいるとしても、過去の文献でファンタズマが合体する事例は聞いたことがない」
「それじゃあ、俺達が初ってか? いやー、冗談じゃねぇな」
「そもそもあのファンタズマが研究所にしかいないものだとしたら、それは“本物”のファンタズマであるかすら疑わしい」
「それじゃあ、あいつらは人工的にファンタズマを作り出してるとでも? ああクソ、だとすればファンタズマが操れるという点が腑に落ちてしまうのが納得いかねぇな」
「ともかく、私達は急ぐ必要がある。私達ならできる」
「そうだな」
俺と結衣は覚悟を決めるとファンタズマは両手から火の球をいくつも作り出し、それを俺と結衣にそれぞれ解き放っていく。
―――――ドッドッドッドッ!
威力も数も圧倒的で攻め立ててくる。地面に着弾した火球は小さなへこみを作りながら、いくつもの焦げを残している。
数撃てば当たるんだろうが、そんなに撃たれるとこの場所が潰れる。ここは帰り道も兼ねてたりするんだ。いい加減、やめやがれ!
俺は二階部分の猫渡り橋の柵に捕まると柵を足場にしてファンタズマの顔面に高速接近。そして、顔面を殴り飛ばす。
その攻撃でファンタズマは大きく右側によろめき、反対側から向かって来ていた結衣が鎌を袈裟斬りに振るってダメージを与えていく。
「「!?――――ぐっ!」」
しかしその瞬間、ファンタズマの腕えてる部分からさらに腕が出現し、その手によって俺と結衣は地面へと叩きつけられる。
そして、さらに前進をしっかりと掴まれた状態から壁に向かって投げ飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。
咄嗟にマギを背中前面に集中して防御力を高めたから、俺は絶賛壁に凹み中だけどダメージはあまり負ってない。
それにあのファンタズマはやはり試作の過程でできたのだろう。
実際に上級種のファンタズマの攻撃を食らってきた俺にとっては今の一撃はデカくなったのに遠く及んでない。
しかし、きっとこのファンタズマを作った連中らにとっては強さは二の次なのだろうな。
ファンタズマが人工的に作れる。きっとその部分に意味がある。
ファンタズマは俺と結衣に向かって雨のような火球を撃ち放ってくる。
「結衣、合わせてくれ」
「りょ」
俺は壁にハマった体を動かすと壁を蹴って地面に落ちる。その数秒後に火球が壁に当たって爆撃のような音が響く。
ああ~こいつを倒さなきゃ前に進めなさそうなのに、こいつと戦うことで隠密がバレてしまう。嫌なジレンマだ。
俺は若干のイラ立ちに口元を歪めながら高速で走り出すとファンタズマの腕の真下にやってくる。
そして、その場でサマーソルトキックをするように上に向かって残像が見えるほど速く足を振るった。
「雷脚斬」
俺の足から生み出した雷を伴った斬撃はファンタズマの二本の腕を両断する。
新たにできるようになった遠距離攻撃をまさかここで使うハメになるとはな。
その一方で、俺の攻撃で揺らめいたファンタズマのもう二本の腕を結衣が鎌でぶった斬る。
そして、俺と結衣の一瞬のアイコンタクトで俺は跳躍し、結衣は斬れた腕を伝ってガンマンへと移動。
俺がファンタズマの顔面を左から殴って、結衣が右側から首元に鎌を滑らせて首を切断した。
頭と胴体が完全に切り離されたファンタズマは灰となって空気中に溶けていく。やはり合体してもファンタズマであるということは変わりないらしい。
――――ピーピー、ガチャッ
どこかの扉の音が開いた。聞こえたのは入ってきた扉ともう一つどこかにある扉。どうにも遊ばれてる感じが腑に落ちねぇな。
だが、今はとにかく進むしかない。
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