第143話 現れたファンタズマ
俺と結衣がマンホールの下にある下水道に降りると左手の腕時計からマップを表示して道なりに進んでいく。
「にしても、くせぇな」
「下水道だからね」
「結衣はこんなニオイでも表情がピクリとも変わらないけど、慣れてたりするのか? 任務とかで」
「今回を含めて二度目しかない。だから、正直今は鼻が曲がりそう。表情が変わらないのは表情筋が死んでるだけ」
「自分でも自覚してたんだなそれ......」
そう考えると俺がまだ高校に通っている時に結衣の表情が豊かだったのってホントにすごいことだったんだな。
結衣は頑張って表情変えてて、その異変に俺は気づきもしなかったんだから。
そんな会話を少ししつつ、緊張感を張り詰めすぎずに維持しながらマップを見て移動していくこと数分。
その道を歩いてわかったことはものすごく道が複雑であるということ。
「俺さ、本当にバイオ〇ザードを主人公視点でやってるみたいに思えてきた。この下水道どうなってんだよ」
「もしかしたら、もし勘づかれた時のためのトラップとして下水道を複雑に作り替えたかもしれない。それこそ、そのゲームみたいに。もっとも――――」
結衣が話している最中に下水道の汚水が高く飛びあがる。そして、水しぶきとともに現れたのは顔がない薄汚れたローブを着たような存在であった。
言うなれば、レイスであろうその敵が二体。それぞれ俺と結衣を狙って接近してくる。
「敵も当然いるわけだけど」
「まあ、だよな!」
レイスは俺に向かって爪を立てた右手を振るった。咄嗟に俺がその場から跳んで避けるとレイスの攻撃はコンクリートの壁をまるで豆腐にでも触れたように破壊した。
そして、左手を俺に向けるとその手から炎を撃ち出してくる。ただでさえ、狭いこんな場所で横幅一杯に火球を撃ってくるんじゃねぇ!
俺は右手にアルガンドを取り付けると避けるスペースに必要な火球を籠手で払いながら、レイスに接近。
レイスは俺に懐に潜り込まれるのを防ごうとすぐに右手で薙ぎ払うが、残念だけどそれじゃあ俺を捉えることはできない。
全身に雷を纏った状態で素早くしゃがみこみ、レイスの右手が通り過ぎたタイミングで右手に雷を集中させてボディーブローをかました。
だが、その手ごたえはあまりよろしくない。確実に攻撃は決まったが、拳の感じから相手の防御の方が固い。ならば、相手の耐久値を崩すまで殴って蹴るしかないな。
俺は右足を振るうと同時に左手を地面につけると右足を大きくあげてレイスの顔の横を蹴りつけた。
レイスは顔がなくてフードを被ったような状態だが、どうやら顔面はあるような感じだ。なら......
「これでどうだ!」
俺は体をすぐ戻すとレイスの後頭部を右手で鷲掴み、思いっきり横の壁に叩きつけた。そして、置い内とばかりに背後からドロップキック。
一旦距離を取ってレイスの様子を見てみるとレイスはその場から動かなくなり、足はないが足元辺りから灰となって消えていった。
「ふぅー」
一先ず溜まった息を吐いた。苦戦はしなかったが、どちらかというと他のファンタズマよりも硬かった。
これでも日々の先生との修業のおかげでだいぶ成長して、中級ぐらいは難なく倒せるようになったのだが、今のレイスは攻撃力は上級に届かずとも固さは明らかに中級以上であった。
まあ、ファンタズマは生物を真似ると聞いてあるので、亀なんかに真似られたらそりゃ防御力も上がるでしょうけど。
俺はふと結衣が気になって見てみると結衣も外傷なく倒せているようだ。
しかし、灰となって消える前のレイスの姿には無数の切り傷があった。
「結衣はどうだった?」
「硬かった。そこまで手こずる相手でもなかったのに」
「結衣でもそう思うか」
「しかも、気になるのは体がなかったこと。ゴースト系というのは私も初めて。普通なら昆虫や動物の姿になるのに。珍しければ人型もあるけど」
「それのどれも当てはまらない......となると、下手すればこれは作られた存在でファンタズマ自体の意志がないんじゃないか?」
「ファンタズマに人の意志が介入する......」
俺の言葉に結衣は手で口元を覆って深く考え始めた。とりあえず、俺は結衣に「歩きながら考えよう」と促し、マップを頼りに進んでいく。
そして、少し経った頃に結衣が俺に話しかけてきた。
「さっきの話だけど、私には答えが出せない。まずファンタズマを操っている前例がないし、過去にも色々とファンタズマの特徴や変化について調べていた時があったけどゴーストは特例中も特例だった」
「というと?」
「ファンタズマはもともとは思念体のようなものだったって資料にはあった。
最初に出現した時空科学研究所での実験では先ほどとは少し違うけど、黒く薄い布で全身を覆ったような足がないゴーストのような感じであったらしい」
「でも、今違うのは?」
「今違うのは時が経ったからというのが一番大きい。
最初のゴーストはいわば、赤ちゃんのようなもので何にでもなれる存在。これまで凪斗が戦ってきた動物や昆虫や人型またはその一部の特徴を持ったものとか」
「だが、各地にあるゲートを壊したことあるけど、そこから出て来たのはもうすでにゴースト出なくなっていたぞ?」
「それは恐らく作り出した存在が違う。ゲートは上級種以上になると作ることが出来るといわれ、作った存在がすでに別の生物を真似て変化していたからと思われる」
「なら、そもそもどうして変化するんだ?」
「それは単純だよ。生物の種を残すための進化。人間がもとはアウストラロピテクスという猿人から進化したように、ファンタズマも種を残しやすいように進化している。
ちなみに、人型や動物より昆虫を見るのが多いのはファンタズマの時点で人よりも強いからで、さらに強くなるためには昆虫のように昆虫だからこそ持てる特徴を兼ね備えてるのが大きい」
「あ~、クモで言えば糸で、毛虫で言えば毒でみたいな?」
「そう、そういう何か特徴を持った生物は選ばれて進化しやすい。加えて、昆虫に進化した方が大抵の人や動物より強いし」
「えーっと、あれだ。アリが人のサイズになると怪力に加えて圧倒的な機動力を兼ね備えたバケモノになるっていうやつ」
「そう、そんな感じ」
昔にそんな番組があって見てたっけな。まさかあの頃の知識がここに生きてくるとは思わなかったけど。人生何があるかわかったもんじゃないな。
そうして、歩いていると金属の扉を発見。警戒しながら入っていくとそこはまだまだ入り組んだ下水道の迷宮であった。
まあ、俺達にはマップがあるから見つからないのだけど、だんだんと変な方向に進んでるのはわかる。
マップは正規ルート。だけど、時折階段で上に行って、そこの通路を移動して、施設っぽい場所を抜けたと思ったらまた下水道。
下水道の管理施設かと思ったが、そもそもそんなものを下水道の近くで作る必要はない。なんなら、下水道に隣接している場所で。
しかし、マップの矢印はずっと一方向しかさしていない。正直、ここまで入り組んだ下水道の時点でこんな道は不安でしかないのだが。
そして、あるところで俺達は電子ロックされた扉を見つけた。それにバッグの中から取り出したハッキングマシンを取り付けて......と。
――――ピピピ、ガシュ
鍵が開いた音がした。そして、その中に入った瞬間――――
――――ガチャンッ
「「!?」」
突然、扉が施錠された。わからない。しかし、マップが示している先はこの先にあるようで、進むためには別の場所しかない。
けどまあ、RPGやってる人ならわかる。この状況はいわゆる乱闘戦であるということを。
「オオオオォォォォ!」「グガーーーーーー!」「ギャオオオオォォォォ------!」「ギシッギシッ!」「クカカカカカーーーーー!」「ギュルルルル!」
これは......戦わないと前に進めないパターンのやつですか?
読んでくださりありがとうございます(*'▽')




