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第140話 愛依の特技

 所長との通話が終わると俺達は聞いた情報をもとに作戦を立てることにした。

 しかし、聞いたな内容が内容だけに皆難しい顔をしている。


「所長の言ってることがほんとだとして、過去に一度も目撃したことないのか? その違法ホルダーがファンタズマを操っていたってことが」


「私が調べたところですと、ファンタズマの生死にかかわらずで操られたのは過去一件だけ。

 しかし、操られたファンタズマはすでに死んでいたみたいで、どちらかというと死体を操っていたという意味合いの方が近いと思います」


「それを所長が知らないはずがないもんな......となると、ファンタズマは生きた状態で操られてる可能性が高いってことか」


「『勢力図が変わる』ってのもまんざらじゃない。過去の三つ巴の大戦でどの勢力もほとんどの主力を失ったとはいえ、いやだからこそここで違法ホルダーとファンタズマの勢力が一緒になったらまずい」


「それにあのエンテイさんって人がいますもんね。どこに隠れてるのかはわからないですけど、ファンタズマを引き連れてバーンと現れたら可能性の限りでは負けます」


「だからこそ、そこを叩かなきゃいけないってことか。所長は言ってなかったが、恐らく理一さんも先生も同じような状況なのかもしれないな。できるなら手伝いたいけど」


「相手に動ける時間を与えないためには同時攻撃しかない。もっとも、あの二人に限っては私達がいる方が足手まといになると思う」


「だよな~」


 理一さんも先生も凄腕の特務官だ。それは遠征で二人と一緒にいった俺が一番よく知っている。

 だからこそ、安心もあるけど......エンテイのようなイレギュラーもいないとは限らない。

 ここからは堂々巡りだな。考えがまとまることなんてない。


「結局、俺達は与えられた任務を全うにこなすっていうのが一番か」


「そうですよ。ただまあ、聞いた情報限りでは一筋縄ではいかなそうですけどね」


 まさかファンタズマの討伐と違法ホルダーの逮捕以外に会社を潰すという仕事もあるとは思わなかったけど......ん?


 俺のスマホがバイブする。画面を確認してみると所長からのメールが届いていて、その内容は礼弥さんがもう二つの案件に付きっきりだからそっちはそっちでなんとかしてくれとのことだ。


 またなんとも投げやりな文章だ。しかしまあ、その二つの案件っていうのは恐らく理一さんと先生の作戦の方に関わってることだから何とも言えないが。


 俺のメールが気になったのか来架ちゃんが尋ねてくる。


「何のメールですか?」


「所長からこの案件に関しては全てを一任するって感じだ」


「うわぁ、また何と投げやりなぁ......」


 愛依ちゃん、安心してくれ。俺も同じ気持ちだから。


「とはいえ、逆に制限がなくなったともいえるけど......そもそも黒丸製薬に関して何にも情報を持っていないんだよな」


「無知でツッコむのは死にに行くようなもの」


「礼弥さんに頼みますか? 少なくともそれからじゃないと具体的な作戦は立てられないと思いますけど」


 確かに。礼弥さんにはこれだけは頼らせてもらうしかないか。さすがに何もわからないは不安だしな。


 そう思っていると「待ってください」と愛依ちゃんが声を上げる。そして、ドヤ顔で言い放つ。


「お姉ちゃんを探し続けて数年間。こちとら伊達にコンピューターに強くなっていないですよ。ハッキングの一つや二つ、ものによりますがお任せください」


 そして、愛依ちゃんは「少々お待ちを」と言って数分後、自室に置いてあるノートパソコンをリビングの机に置くとカタカタと操作し始める。


 ノールックでタイピングしていく。もうそれだけでかなり使ってきたというのがわかってくる。

 愛依ちゃん以外の俺達は結衣と来架ちゃんが愛依の両端に、俺はソファ越しで後ろからそのパソコン画面を除いていく。


 愛依ちゃんは手慣れたように黒丸製薬のホームページをアクセスするとなんか色々な操作をしながら「ほほう、あなたはここが弱いんですね」と呟き、ニヤリと笑う。


 すると、様々な一目では解読できなさそうな英語の文字列がいくつも浮かび上がり、愛依ちゃんはそれらを把握してるように十本の指ですべてを使いながら何かを打ち込んでいく。


 それを見ていた来架ちゃんは目を丸くしながら愛依ちゃんに質問する。


「今って何をしてるか聞いてもいいですか?」


「今はサイトの脆弱性のある部分を叩いて、そこから奪った権限からマルウェアを流して込んでいます」


「マルウェアってパソコンのウイルスじゃなかったっけ?」


「そうです。全ての権限を奪えればそれに越したことはないですが、相手は製薬会社。禁制品でなくとも素人が使えば危険物に成り代わるものだってあります。

 それ故に、さすがにセキュリティは高いので、こちらのウイルスで脆弱性を復旧されても内側から好き放題にできる方が早いんです」


「うわ、こっわ」


「やってることはクラッカーですが、これも立派な警察の仕事なのでハッカーですよ私は......っと、上手く潜り込めましたね。相手側のセキュリティソフトが弱っこくて助かりました」


 見てる限りじゃ何が起こったかもわからないが、結衣ちゃんがとあるリンクをクリックするとそこから製薬会社の見取り図が出て来た。


 3D見取り図だ。拡大縮小で製薬会社の建物の全体像から廊下にある監視カメラの位置まで現在の製薬会社の内部構造が見られるらしい。


 建築とかでドローンを使って山の地形を3Dマッピングするのと似たようなものだ。

 これも3Dのレベルが向上した弊害か。まあ、相手側を知りたいこちら側とすればありがたいことなのだが。


「成功です。いや~、割りに緩くて助かりました」


「すげーな......そういえば一つ気になることが出来たんだけど、お姉さんの情報を集めるために特務のサーバーに違法アクセスしてないよな?」


「............してませんよ」


「妙に間が長いんだが」


 目が泳いでる。してたんだなこいつ。なんて危ない綱渡りしてやがったんだ。


「だ、大丈夫ですよ。アクセスしたとしても、それは違法ホルダーのサーバーを介してなので、たとえ足取りを掴んだとしても濡れ衣は違法ホルダーの方。

 私の足取りは違法ホルダーという存在で消え、違法ホルダーは特務によって検挙されで万々歳ですよ。何の問題もありません」


「いや、全然大丈夫に思えないんだが」


「大丈夫ですって。足取りは何重にもフェイクを入れて消したので。それにこれを聞いてしまったことで私と共犯ですよ。ふふふ......」


 うわ、こいつやりやがった! クッソ~、とんだ藪蛇だ。下手に突かなければよかった。まあ、黙ってればいいことだし、聞かなかったことにするか。


 俺がそう思っている一方で、特に気にすることなく画面に表示されている地図を見つめる結衣は愛依ちゃんからマウスを借りると適当に動かしながら内部を見始めた。


 それを同じくして見つめる来架ちゃんが呟く。


「中々に広いですね。とりあえず、制御室の位置は二階の南側にありますね」


「ただそこは当然ながらセキュリティが厳しいと思う」


「調べてみます? 監視カメラに切り替えますね」


 愛依ちゃんが手慣れたように操作すると監視カメラのモニターがいくつも分割して現れた。それから、さらに何かを打ち込んでいくと数が少なくなって、四つの監視カメラの画面が映る。


「これが制御室前の映像ですけど、制御室に行くまでの監視カメラの死角となりそうな部分はありませんね。

 ここに向かうためには先にセキュリティ管理室にて監視カメラ及び制御室前の電子ロックをどうにかしないといけないです」


 そして、愛依ちゃんが「それとは別にとりわけ怪しいのが......」と呟きながら監視カメラを切り替える。


 すると、監視カメラからは不自然なほど頑丈そうな金属で作られた両開き扉が設置されていた。


「この場所ってこの会社の地下にあるんですけど、薬品保管室とかと違ってこの部屋に名前とかってないんです。

 ですから、恐らくここが研究所(巣屈)の入り口ではないかと」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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