第139話 興味深く困った話
「――――って、わけなんだけど、話を始める前に一つ聞いていい? 来架ちゃん、その荷物はなに?」
客人として家にあげたはずの来架ちゃんの隣には大き目はキャリーバッグがある。うん、まるでお泊りでもするような感じだ。
結衣と愛依ちゃんの視線があまりにもトゲトゲしすぎて目が合わせられないけど、ここは俺が家主として聞かなければいけない。
「これはお泊りセットですよ」
痛い痛い視線が増々痛い。
「どうしてお泊りセットを?」
「所長が行動を開始するまで少しだけ空きがあるから、その間どうせ他三人が集まってるならそこで一緒に準備した方が良いって言われまして」
「いやまあ.......うん、筋は通るけど......」
体裁的にはよくないんだよな~。ここ最近ご近所から白い目で見られてるし、一部では「若い娘を連れ込んで無理やり住まわせてる」なんてあるし。
困ったことに「住む」という一点に関して否定できないのが辛いところ。
一番重要な理由とも言えることに限って本当で、後はなんか俺のせいだし。ほんと最近肩身が狭いんだよな~。
で、その元凶である結衣と愛依ちゃんは知らんぷりと来たもんだ。まあ、その代わり家のことは割と何でも手伝ってくれるし、俺よりも率先してくれるしで助かってはいるが、
「でもなあ、俺の家って俺が一人っ子のせいで部屋が三つしかないんだよな。しかも、親父の書斎を片しての三つだから」
「大丈夫ですよ。私はソファとかでも寝れますし」
「ダメよ! 女の子がそんなところで寝ちゃ! ここは潔く凪斗先輩が譲るべきだと思います」
「マジか」
「何その反応? まさか来架ちゃんに『俺の部屋に来いよ』とでもいうつもりだったの?......ゲスが」
「俺、まだ何も言ってないでしょ!」
「あ、その、私はもう大丈夫なんで.......もう一度同じベッドで寝てますし」
あ、その話は蒸し返さないで!
やばい愛依ちゃんの目がやばい。「マジですか」っていう割には微塵も俺の潔白を神してくれてない目だ。
おかしい。俺が少なからず仲良くなった愛依ちゃんならたとえ同じ言葉であっても疑ってくれるはずなのに。
「結衣先輩、その話......マジですか?」
「大マジ」
「うっわ~。仕事という呈で連れ込んだわけですね。そういえば、私の時もラブホテル行きましたよね」
結衣がギロッと視線を向ける。やばい、闇を纏っている。
「いやいや、アレはただ現場がそこだっただけでしょ!? 調査を真面目にやってたじゃん!」
「確かに、それについては謝ります。ですが、その前の来架と一緒のベッドで寝たというのは否定しないんですね」
「そ、それは......不手際でそうなっただけで......」
するとその時、来架ちゃんがバンッと机をたたいて立ち上がる。その顔は見るからに真っ赤でプルプルと小刻みに震えていた。
さすがの来架ちゃんでも堪忍袋の緒が切れたのか? とはいえ、この状況でそうやって怒ってくれるのはあり――――
「何も......何も起きてません!」
ららら、来架ちゃ~~~~~~んっ!? それ絶対誤解される言い方~~~~~!
「「やっぱ何かあったんじゃないかあああ~~~~!」」
「いや、誤解―――――」
が解けたのは散々俺が殴られた後であった。もうこれで俺の家は魔の巣屈と言っても過言ではないだろう。
特に「安らぎになる」と言っていた結衣に至ってはこの巣屈の王だ。魔王結衣だ。
そして、全身からヒリヒリする痛みに来架ちゃんから慰めの言葉をもらいながらようやく本題に入る。
一先ず最初は所長から受けた説明を二人にもしていく。
すると、その説明で愛依ちゃんが反応した。
「黒丸製薬......私も聞いたことありますね」
「学校時代になにかあったの?」
「いえ、私がお姉ちゃんの行方について調べてるってことを伝えましたけど、あの時にお姉ちゃんが定期的に訪れてることがわかったんですよね」
「どうやって調べたんですか?」
「普通に監視カメラをハッキングして」
それって普通っていうのか。っていうか、俺の家でそんなことしてたのか。って待てよ?
「そのカメラのハッキングから逆探知されてないよな?」
「されてませんよ。しっかりと迷惑かけないように過剰なくらいプロテクトかけましたし、めんどくさいほど遠回りして違うデバイスからハッキングしましたし。もう少し信用して欲しいですね~」
よく言うよ。さっきの俺の冤罪を微塵も信じてくれなかったくせに。
「とはいえ、愛依のお姉さんが訪れたということは少なからず前の事件と繋がりがあるかもしれない」
「事件となるとエンテイに関することか?」
「そう。とはいえ、もっと広義的な意味合いで違法ホルダーと関連してるかもってことだけど」
「とはいえ、それのとっかかりでも見つかれば万々歳じゃないですか? 本来はドッカーンと破壊するだけだったし」
「もしくは、所長のことですから『破壊工作をする』という言葉だけで察してくれると思ったかもしれないですね。
所長はその言葉はしか言わなかったわけで、それがあくまで最低任務であるってだけで、他に調べても問題ないとか」
「つまりは破壊する前に忍び込んでUSBに情報をコピーしてくるってことか?」
「ま、それが一番理想的ですよ。ですけど、所長の話を聞く限りじゃ恐らく一筋縄じゃ行かない気がしてならないです」
愛依ちゃんの言葉はもっともだ。
これから破壊しようとする場所はファンタズマの研究をしている施設。所長によればARリキッドモドキを作ってるという話だが、それだけでとどまるはずがない。
ヤガミのようは人工的に量産している異能ホルダーやファンタズマ自体の研究。どちらも危険極まりない行為だ。
そして何より問題なのは実験モルモットに子供を使っているということ。身寄りがないからって何をしてもいいわけじゃない。
そもそも攫ってくる時点で誘拐事件だ。やつらは立派な犯罪者。違法ホルダー以前の問題だ。
――――ブーーーーブーーーーー
俺のスマホの振動する。一応会議してるのでバイブモードにしていたが、一体誰......所長?
俺は一旦席を外すと廊下で所長の電話に出る。
「もしもし、どうしました?」
「新たな任務の情報ってわけでもないんだが、お前らの耳に入れて置きたい情報が入ってな」
「なら、今会議中ですしオープン回線で話してもらっていいですか?」
「いいだろう」
俺は廊下から戻っていくと机の前にスマホを置いて電話のオープン回線のマークをタップする。
すると、そのスマホの画面からホログラムが浮かび上がり、所長の上半身までが映像で流れる。
「よう、お前ら。情報は回っているか?」
「うん、大丈夫」
「その様子じゃ来架の件も終わったんだな」
「そのことに関しては本当に物申したいんですが」
こちとら所長に不満溜まってきてますよ? 主に俺に対するぞんざいな扱いとか。
「ハハハ、でだ」
笑って流された。
「実はお前らに耳に入れて置いて欲しい情報が舞い込んできた。というのもな、お前らがこれから向かう千葉にて興味深い情報が手に入ったんだ」
「もったいぶらないで早く教えてくださいよ」
「それもそうだな。それで興味深い話というのは――――違法ホルダーとファンタズマが共闘してたんだ。特務相手にな」
「共闘? 操るじゃなくてですか?」
過去に人を操っていた違法ホルダーを来架ちゃんと一緒に逮捕したことはあるが、その時は人であったけどファンタズマもできるんじゃないか?
「恐らくはそうだろ。しかし、本来ファンタズマが人間に従うなんてあり得ん。それは現れて間もない頃に証明されたからな。
だが、現にこうして現れたということは特殊な方法で操ることに成功したんだ。実に興味深く困った話だ。
五年前の愛知の事件は知っているだろ? あの時は三つ巴だったが――――それが本当なら勢力図は大きく塗り替えられる」
「「「「......」」」」
「とはいえ、ここで初めてお披露目ってことはまだ試作段階ではあるんだろう。そして、その操られたファンタズマの出所がお前らの向かう黒丸製薬の可能性が高いんだ」
読んでくださりありがとうございます(*'ω'*)




