第134話 仲直りデート#1
新し章です
大規模任務を終えてから一週間が過ぎた。
あの任務のことに関しては圧倒的被害が出た俺達東京支部は幹部連中から医療費と多額の謝礼金が渡されたらしい。
というのも、戦う専門の特務は大規模な事件に関してはほぼ情報が固まった状態でスタートする。
普段の中・小規模の事件とは違い、戦い以外の余計な労力を使わせないために大きな事件に関しては幹部......俺達より遥かに上の立場の人が調査することになっているのだ。
そして、その情報をもとに上が判断して俺達は戦う。つまり勝敗の命綱は戦う俺達というよりも、調査するがわである上の人達が握っているということだ。
もちろん、俺達が頑張るのは当然なのだが、情報に見合わない戦力を相手側が有していた時はもはやどうにもならない。
それが前回の事件。上の人達が東京支部だけで十分だろうと判断した結果、エンテイという強大な男たった一人に好き勝手のようにやられてしまった。
これは情報に見合わぬ判断ということで、普段なら東京支部が持つお金から医療費が払われるところ本部が負担してくれて、さらにその見合わぬ情報の中で事件を沈めてくれたことに謝礼金まで出されたのだ。
そのことに関しては所長は「ざまぁねぇぜ」と高らかに笑っていた。どうやら相当な鬱憤が溜まっているらしい。
とはいえ、あの事件に関してはエンテイが引いてくれたことで何とかなったが、あそこで引いてくれなかったらどうなっていたか。
さらに、あの場から逃げたエンテイと刃那さんはともかく、ヤガミの姿もなかったのが気になる。まーた面倒なことが起こりそうな予感。
それはそうと、退院してから現在俺は渋谷のハチ公前に向かっている。それはとある人物と会うためだ。
正直、エンテイとかかわったことで聞きたいことは山ほどある。だが、そのことは聞こうと思えばいつでも聞けるので、今の優先順位としてはだいぶ後ろになる。
とりあえず、愛依ちゃんからアドバイスを受けたことをもとにできるだけ実践できるようにしよう。
にしても、どうしてわざわざ渋谷指定なのだろう。どうせ会うだったら一緒に来てもよかったはずなのに。
そんなことを思いながら電車に揺られること数分、俺は渋谷駅に辿り着いた。
そして、外に出るとハチ公前の周辺を見渡してみる。
しかし、そこに結衣の姿はない。結衣の白髪は目立つからすぐにわかると思うんだが......時間間違えてないよな?
愛依ちゃんから「集合時間前に必ずいること」って言われたし。うん、時間は十分前で大丈夫そうだな。
『報道ニュースをお伝えします。一週間前に起きたネズミーランドでの大規模事件について――――』
ハチ公前にホログラムのようなウィンドウがあり、そこに映るキャスターが当然のごとくあの事件について話していく。
まあ、アレだけの事件をマスコミに取り上げられないのはおかしいわな。ネズミーランドもしばらく復興作業で営業を休止するって言ってたし。
それに、そろそろ事件が隠しきれなくなっている気がする。
調べれば事件の発生件数が年々増えているとまで言われているし。
その中には当然助かった人がいて、巻き込まれてなくても目撃者は存在してるだろうし。
ニュースの事件とは少し話が逸れるが、実は今巷で増えているのは違法ホルダーよりもファンタズマの方なのだ。
時折、SNS上でもそう言った噂にハッシュタグをつけてコメントをしてる人が多い。
ただ騒ぎ立てているだけのようなコメントもあるが、中には画像付きで「これってファンタズマだろ?」と思うツイートもある。
そう、前まで一般人には不可視のような存在だったファンタズマが認知されたことによって可視化されてきたのだ。
もともとひっそりと暮らす特性のファンタズマは主に山や森といった一目のつかない場所にいる傾向があるのだが、今はどんどんと都会――――人が多い場所に出現している。
パッと思いつくのはファンタズマ自身の成長のため。その根拠に当たるのが先生と理一さんのところに遠征したときのことだ。
あの時は上級種が三体いて、それがさらに中級・下級のファンタズマを率いているという状況。
加えて、結界という名の異界を作ってそこに人々を誘い込みエサとしていた。
となると、ちまちま食事して成長するより、見つかるリスクは上がるけど人が多い方が効率がいいと判断したのか?
もしくわ、先導している存在がいるのか。まあ、愛依ちゃんと組んだ時みたいに人に憧れていたあまり悪そうに見えないファンタズマもいたし、審議は定かじゃないな。
「はあ、疲れるなぁ」
一先ずわかったことはこれからより面倒くさそうな事件が増えていきそうだなってこと。ファンタズマもしかり、違法ホルダーも然り。
加えて、違法ホルダーでは非合法な研究所があるってヤガミが言ってたし、まあそれが東京にあれば間違いなく駆り出されるな。もうちょっと強くならんと。
「やっほ。元気?」
「っ!?......って結衣か。びっくりした」
俺が気を抜いてたのもあるが、突然頬に冷たい感覚があったらそりゃあ警戒もする。
「ため息ついてた。無理させちゃった?」
「まさか。そもそも俺が結衣を誘ったんだし、そんなことは思わないよ」
俺は結衣から冷たいお茶をもらう。いなかったのは飲み物を買ってきたからだろうか。
今は残暑がまだ厳しいし、飲み物持ってきてなかったしほんと結衣さんには大助かりです。
「なら、ため息は?」
「あれ」
俺は目線だけを宙に浮かぶウィンドウに向ける。そこにはキャスターが中継で事件後のネズミーランドの上空を飛ぶヘリコプターのアナウンサーと話している。
そして、中継カメラで映されるのは復興作業中のネズミーランドの姿と未だ痛々しく残る事件の跡。
一週間前の事件を未だ中継してるあたり、事件の深刻さを感じる。加えて、あれはホルダーとはいえ主に人が動いただけでできたような跡だ。
ただまあ、こうしてニュースを聞いてる限りじゃ他人事みたいな話に感じるのが不思議だよな。当事者なのに。
「あれはお偉いさん方は大変だろうなって」
「別にこれだけ大きな事件処理に関しては私達は考える必要はない。命も張らないで指示ばっかする連中に見合った正当な尻拭い。もとい、罰ともいう」
「結衣も所長並みにズバッと言うんだな」
「私達は私達の仕事をした。それを全て丸投げじゃ、本部は本格的なただの税金泥棒に成り下がる。
私達が物理的な汚れ役になってるんだから、本部は社会の汚れ役となれって感じ」
「よ、容赦ねぇ......パネェっす。結衣さんマジすげーっす」
「ふっ、これが戦闘員の本音というやつ。最もこれを本部に聞かれたら終わりだけど」
ほんとにそんなやばいことを所長も結衣も翼壁な顔して言えるね。しかし、あんまし否定できねぇのが凄いところだよな。気持ちはすごいわかる。
「それじゃあ、私達も行こう。別に見続けるほどのニュースじゃないし。それでどこ行くの?」
「とりあえず、映画でも見に行こうかなって。ここ最近ゆっくりできてなかったし」
「そう? 愛依とマイハウスでイチャイチャしてたんじゃないの?」
「邪推が凄いな」
しかし、完全に否定できないのがもの凄く怖いところ。もう結衣の疑わしそうな目が凄く心に来る。
「まあいい。今日は一日凪斗を振り回せるってことだし」
「お手柔らかにお願いします」
「それは凪斗次第。それじゃ、行こう」
一先ず結衣の機嫌は悪くなさそうだ。愛依ちゃんからのアドバイスでも無難ぐらいが丁度いいと言ってたし......あ。
「結衣、服似合ってると思う」
「思い出して取ってつけたお世辞どーも」
「お世辞じゃないけど......うっ」
「服を褒める」というアドバイスを一つ抜かしてた~。
読んでくださりありがとうございます(*'ω'*)




